第十六話 無視されるとむかつきます
「着いたぞ。ここが冒険者ギルドの本部。
通称『アッシュピラー』だ」
灰色のレンガで作られた直方体の建物の上に細長い塔が突き刺さっている形状をしています。
「一階部分が依頼の受注なんかができる受付スペースとメシ食いながらダベれる集会場。
二、三階は店が並んでいて、それより上はギルドの事務スペースだな。
職員以外は入れない。
一般的な冒険者の一日は気が向いた時に一階に来て飯食ったり酒飲んだりしながら、手頃な依頼が入るのを待って、来なけりゃ帰る。
それを繰り返すんだ」
「気ままな暮らしですねえ……
それで生活成り立つんでしょうか?」
「下級の冒険者やオマエみたいに命令として労役を義務付けられてる奴に余裕はねえよ。
特にオマエの場合、実績が悪けりゃ職業不適格と見做されて鉱山で強制労働なんかもあり得るしな。
もちろん、そうなればこの街には滅多に帰れない」
「なるほど……失敗は許されないというわけですね」
気を引き締めますが、ナーガさんは気安く私の頭をポンポンと撫でて来ます。
「心配ねえさ。
私をボコった腕前だ。
オマエが務まらねえような依頼、滅多にないから」
そう言ってナーガさんは建物の扉を開けました。
まだ朝だということもあって人はまばらです。
ですが、皆剣や槍やら武器を持っていて、防具も……うん、女性だけの街ということもあってビキニアーマーのお姉さんが沢山います。
おっぱいとお股だけしか守れないアレに防具としての意味があるのか甚だ疑問です。
とはいえ、皆さん鍛え上げられた身体をしているし、どこか普通の人と違う雰囲気が漂っています。
「あ、ナーガさんが来たぞッ!!」
誰かが声を上げました。
するとフロアの人全員がこちらを一斉に向きます。
「ナーガさん、人気者ですね」
私が呑気にそう声をかけると、ナーガさんは困ったような表情で頬を掻きます。
「人気者っつーか……面倒ごとを押し付ける生贄を見る目だよ。アレは」
「ほへ?」
私は間抜けな声を上げたその時でした。
「ナアアアアアアガサアアアアアンンンンッッ!!」
猿の如き敏捷さでナーガさんの腰に抱きつく影がありました。
見るとギルドの職員さんです。
白いブラウスに紺色のベストがここの制服のようです。
「な、何があった? ミイナ?」
「ナーガさんっ!
助けてください!!
Dクラスパーティの『ムーンベルト』が帰還しないんですっ!!」
涙を流しながら訴えるミイナとかいう職員さん。
それを聞いたナーガさんは顔色を変えて、
「『ムーンベルト』って……ムウさんのパーティじゃねえかっ!」
と叫びました。
……ムウさん?
「そうなんですよ!
ビーストワーム狩りの依頼を受けて、3日前に街を出たんですけど全然帰ってこなくて!」
「おいおい……待てよ。
ムウさんがいるんだろ?
あの人が本気で守りに入ったらドラゴンでもあしらうぜ。
いったい何が……」
神妙な顔をするナーガさん。
ふと、私が見つめていることに気づいて声をかけてくれました。
「ああ、スマン。
ちょっとのっぴきならない用事ができちまったみたいだ。
今日のところは冒険者登録だけして引き上げろ」
「え? ちょっと待ってください。
全然事情を呑み込めてないんですけど、お知り合いのムウさんとかいう人が所属するパーティが行方不明になったから腕が立つナーガさんが一人で捜索に行くってことですか?」
「うん、完璧に呑み込めてるな。
理解が早いのはいいことだ」
そう言って私のおでこを指でつつきます。
「ミイナ。念のため、アタシが戻ってくるまで下級パーティにクエストの発注は避けろ」
「わかってますよぉ……
今、Aクラス以上のパーティは遠征に出ていますし、ナーガさんしか頼る人がいないんですぅ」
「まったく。ムウさんほどの人が何をやって――――」
「あのー! ナーガさああああああーん!!」
私はナーガさんの耳元で大声を出すと、彼女は耳を抑えてうずくまりました。
「おお…………なにすんだよっ!!
エルフは耳が敏感なんだぜ!!」
「私の存在をお忘れのようでしたのでっ!」
自分の胸を親指で指し示します。
「パーティ。組んでくれるんでしょ?
だったら『引き上げろ』じゃなくて『ついてこい』でしょう。
私に言うべきセリフは」
そうなのです。
あれだけ私のことを買ってくれていたのに、いきなり初心者の役立たず扱いするものですから怒ってしまったのです。
私はときどき激しいのです。
ナーガさんはぽかーん、と口を開けて沈黙します。
すると、ミイナさんが私に尋ねてきました。
「あなた、何者ですか?」
「今日からここで冒険者させていただきます、キサラ・アニ…………ただのキサラです!」
周りの人の目が私に向いているのを感じます。
明らかにバカにするような目線で、失笑も聞こえてきます。
無理もありません。
私は屈強とは程遠く、15歳という年齢以上に若く見られてしまいがちですから。
微妙な空気が漂います。
ですが、べつにそんなこと気になりません。
「クックックック! ああ、忘れていたぜ。
お前を普通の物差しで測っちゃいけないんだったな!」
ナーガさんの大きな声が微妙な空気を一蹴します。
そして私にツカツカと近づき、腰の隣にある机をドンっ! と叩きました。
「消息不明の冒険者の捜索。
本来、ベテランの上級冒険者の仕事なんだが、オマエなら問題ねえな?」
にやりと笑うナーガさん。
私はにっこり微笑んで返します。
「はい、問題ございません」




