第十話 焼き肉がおいしー♪
フェブリアルの街は独特の文化が発展しています。
たとえば食事。
我が家が貧しくて外食する機会はほとんど無かったので、世間の食文化に詳しいわけではありませんが、それを差し引いてもこの街の外食店は独自の発展を遂げているとわかります。
ナーガさんが連れてきてくれたお店はお肉をその場で焼いて食べるというお店です。
風通しの良い掘立て小屋のようなお店の中で、ソースに漬け込まれたモンスターのお肉を木炭の炎に炙られ熱された鉄の網の上に乗せて焼くのです。
ナーガさんの説明を受けた私は早速肉を網の上に載せます。
ジュワー、と肉の脂とソースの水分が弾ける音が響き芳しい匂いが立ち込めます。
焼いた面の色が変わるくらいで引っくり返しさらに熱を通し、頃合いを見て掬い上げ、さらに手元のお皿に溜めたソースをサッとつけて口に運びます!!
ハフっ! ハムっ! モッグモグモグモグ……
表面は香ばしく、噛みしめれば肉の甘い脂がソースと混ざり合って舌の上を撫でます。
咀嚼は原始の本能。
肉を喰らうという根源的な悦びが口から脳に駆け巡り、
「おおおおおっ————おいしーーーーい!!!」
なんということでしょう。
ロクに調理をしていない焼いただけのお肉がこんなに美味しいなんて!
大変です! 革命です!
世界中の料理人が失職してしまいます!
「ククク、期待どおりの反応しやがって。
まあアタシも最初にこのヤキニクとやらを食べた時には腰が砕けたよ」
「へふ? ハハハハフハホホホハヒフッヒッフヒャハヒフ……」
「喋るか食うか、どっちかにしろ」
モグモグクッチャクッチャ……
「躊躇いなく食う方を選びやがったな、テメエ……」
ナーガさんは呆れ果てた目で私を見つめました。
「まぁ、改めて自己紹介しておこうか。
改めて、アタシはナーガ。
見ての通り、ダークエルフだ。
得意武器は槍。
水属性の攻撃魔術も一応使える。
基本的にアタッカーだが防御は得意だからタンクもやれなくはねえぜ。
アタシと組んだアンタは運がいいぜ。
パーティを組むなんて八年ぶりだからな。
ま、アタシのお眼鏡にかなったことは素直に誇れば————」
ハフハフハフッ!
美味しいっ!
カルビ! おいしっ!!
次はハラミッ!! 至高!!
「食うことに全振りすんな。
オマエなかなかに大物だな」
網の上の肉を一気にさらわれてしまいました。おのれ。
「てか、キサラ。
寝床は確保できたのか?」
「いえ。とりあえずは宿に泊まろうかと」
「バカバカ。やめとけもったいない。
ここに来たからにはしばらくいるんだろう。
さっさと部屋を借りちまった方がお得だ。
知り合いの仲介屋紹介するぜ」
「仲介屋?」
「ああ。簡単に言えば、売りたい人間と買いたい人間を結びつけるのを生業にしてる連中だ。
仲介料はふんだくってきやがるが、奴らもプロだし、悪評がつけばやっていけねえ。
それなりに信用できる取引ができるだろうよ」
「じゃあ、お願いしてよろしいかしら」
「おう。ついでにアタシも寝床探し付き合ってやんよ」
「いいんですか?」
「当然。オマエがある程度足場固めねえと冒険者稼業も始められないからな。
パパッと決めちまおうぜ!」
「わー、助かります。
ナーガさんは面倒見が良いですね。
お肉追加で注文しますね。
給仕さーん」
パンパンと手を叩く私を見て、ナーガさんはうーん……とうなります。
「いやさ、アタシがいうことじゃねーけど、オマエもうちょっと警戒しろよ。
そんなんじゃ悪い奴にすぐ騙されるぞ」
「ナーガさんは私を騙そうとしてるんですか?」
「フッ……だとしたらどうする?
仲介屋に頼んでオマエをエッチなお店に売っちまうかもな」
犬歯を見せつけながら妖しい笑みを浮かべるナーガさん。
エッチなお店……フェブリアルにもあるのでしょうか?
女の子同士で何をしてくれるのでしょうか?
私気になります。
好奇心はさておき、ナーガさんに裏切られたら————
「ま、気にしなーい♪ ですかね」
「なんだと?」
「我が家の家訓なんです。
『悪い予感や想像は、気にしなーい♪』というのが」
「なんだよ、その脳味噌に優しい家訓は。
てか家訓? やっぱりオマエ割と良い家の子じゃね?」
ハッ!? うかつでした。
話を逸らしましょう。
「あー……何かされそうになったら力づくで解決すれば良いだけですし。
気にする必要がないってことですよ」
「牢屋に閉じ込められない豪傑かよ!
ククっ! 面白えわ。やっぱ、オマエ最高だな!
ああ、だましゃしねえよ。
オマエとは敵対するより仲間でいる方が絶対楽しい!」
バンバン、と肩を叩かれます。
ナーガさん、ボディタッチがハードです。
その後、メチャクチャお肉食べました。




