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第一話 追放なんて気にしなーい♪

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命令書


アニエス男爵家長女、キサラ・アニエスは

『貴族諸法度』第三十九条を違反した為、

相続権のはく奪および、フェブリアル自治区

の開拓事業に従事するよう命ずる。

 なお、労役が終わるまではクレイディアを

はじめとする都市の入場を禁止する。

即ち『追放処分』を下す。


イングリット王国議会議長 

エスラン・ザマ

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 どうも。追放されることになりましたキサラ・アニエス、15歳です。

 普段はボロいなりに女の子らしい恰好をしていますが、今日はズボンとシャツといった動きやすい恰好をしております。

 旅立ちの朝だからです。


 最後というだけあって朝食が豪華です。

 普段はパンと豆のスープだけなのですが、リンゴや茹で卵までついているではないですか。

 嬉しいです。


 モグモグと普段より多く味わうように食べ物を噛み締めていると、突然対面に座ったお母様が泣き出してしまいました。


「ああっ! キサラ!

 なんて可哀想な子!

 貴族家に生まれたにも関わらずろくに贅沢もできず、しかも十五の歳で追放だなんて!」

「お母様、モグモグ……気にしないでください。

 追放といっても、パクパク……期限付きですし。

 十年経ったらちゃんと、ズズズ……帰ってきますので」

「食べるか喋るかどっちかにしなさい……でも哀れな我が娘!!

 ああっ! 天国の旦那様……至らぬ妻を罰してください!

 私がちゃんと家を切り盛りできていれば!!」

「お父様はお母様を罰したりしないですよ、シャリッ。

 だって、とてもお優しかったですもの、うまうま」


 さめざめと泣くお母様を慰めながらの食事は忙しくも幸せな時間でした。

 ごちそうさまでした。



 食事を終えて、玄関に向かうと兵隊さんと責任者である執行官さんが立っていました。

 もしかすると長々食事をしていたのでお待たせしてしまっていたのかもしれません。


「罪人キサラ・アニエスで間違いないな」

「はい」


 私は右手の甲にある焼印を見せました。

 裁判で有罪判決が出た時に付けられたものです。

 集まっていた我が家の使用人のみんなは「おいたわしい」と泣きじゃくっていますが、印の形がヒマワリに似ていて可愛いので私はちょっぴりお気に入りです。


「では刑を執行する。

 ついて参れ」


 執行官さんが先頭に立ち、扉を出ます。

 背後の槍を持った兵隊さんに追い立てられるようにして私も歩き出します。

 すると、


「お嬢様! ご自愛くださいませ!!」

「奥様と屋敷は我が一族郎党の命に代えてもお守り致します!!」

「お嬢様の行く先に栄光あれ!!

 アニエス家は永久に不滅です!!」

「おおお……ぐおおおおおおおおん!!」


 使用人のみんなのエールや涙に思わずもらい泣きしてしまいそうです。

 ウチのような没落寸前の男爵家に変わらず仕え続けてくれる素晴らしい方々。

 私ができるのは元気で家を出ること、そして無事に戻ってくること。


「みなさん、ごきげんよう」


 感謝の思いを込めてそう告げて私は屋敷を出ました。



 玄関を出て裏庭に回り込み、裏口から敷地外に出るとすぐ通りにたどり着きます。

 早朝なので人通りはありません。

 私がさらし者にならないよう気を遣ってくださったのなら、この執行官の方はお優しいですね。

 なるべく、お手間をかけぬようキビキビと歩いていきましょう……と、思った矢先です。


「執行官殿! お待ちください!!」


 お母様が胸に剣を抱き大声をあげながら駆け寄ってきました。


「お願いします! 娘にこの剣を持たせてやってください!

 街の外に出るというのに丸腰など危険過ぎます!」

「なりません!

 追放者に持たせて良いのは水とパン。

 そして1000エインまでの現金のみ!

 それ以外は一切認められません!」

「そこをなんとか!

 この子の父親の形見なのです!

 渡せぬというのなら、いっそ私めも娘と共にフェブリアルに行かせてください!!」


 地面に膝をついて頭を下げるお母様。

 貴族の女性が平民である執行官さんに頭を下げるなんてあり得ないことです。

 そのくらい、私はお母様に愛されているということでしょう。

 執行官さんもその姿に心が揺れたみたいで、


「……追放者が持ち物を渡される事は禁じられています。

 ですが、もし道端に落ちているものを拾ったところで、それを咎める法はありません」


 と言いました。お目こぼしというやつですね。


 意図に気づいたお母様はパッと笑顔を作って深々と頭を下げて、剣をその場に置きました。

 執行官さんは「ん」と私を顎で指して、剣を拾うように促してくれました。


 ミスリルで作られているという白銀の剣『セレ二ティ』。

 亡くなったお父様が若い頃に使われていた我が家の家宝です。


(お母様、ありがとうございます。

 お父様、よろしくお守りください)


 と、一瞬目を閉じて祈りを捧げました。





 その後、街を囲む城塞から出る門に辿り着き、私は一人荒野に足を踏み出しました。

 生まれてから15年間暮らしたこの街ともお別れです。


 家を出るのが辛くないと言えば嘘になります。

 私はお母様のこともこの家の家人もみんな大好きですので。


 でも、どこに行っても私はやるべきことをやっていこうと思います。


 追放されて貴族としての身分を失ったと聞けば不憫な話なんでしょうが、正直なところ身軽になれました。

 貧乏貴族の娘の立場では働くこともできませんし、せいぜい良家に嫁ぐくらいしかお金を得る術はありません。

 アニエス家は貧乏です。

 借金もかなりの額があるみたいで、このままだとそう遠くない将来に私もお母様も路頭に迷うのが見えていました。

 貴族の地位に未練はありませんが、亡くなったお父様との思い出がある屋敷や使用人の方々を手放したくはありません。



 私は決意しているのです。


「どうせ追放されるのならば、いっそ開拓地で一山当てて、アニエス家を再興するんだ!!」


 って。どん詰まりの箱入り娘が玉の輿を望むよりはずっと実のあるお話でしょ。

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