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ようこそ、私の世界へ

 ある恐ろしい事実を悟った湊介は、ベンチに深く腰かけて、頭を抱え込んだ。その背後に人が近づいてくる気配がする。ぎくりとした湊介だったが、そこにいたのは、駅に来る前に別れたはずのとおるだった。


「あれ、湊介。先に帰ったんじゃなかったの?」

「ああ……」

 湊介は絶望に浸りながら、曖昧な返事をした。


 透の様子は、目に見えておかしかった。いつ見ても元気なはずの透だが、今の彼の丸い目は、ほとんど死んだようになっていたのだ。それに、その表情と言い仕草と言い、どことなく覇気がない。いつもの彼とはまるで別人だ。いや、本当に『別人』なのかもしれない。少なくとも、湊介がよく知る・・・・・・・透とは――。


「一緒に帰るか」


 それでも湊介は、自分の置かれている状況を認めたくなくて、必死でいつも通りに振る舞おうとした。


「いいけど……」


 湊介が誘いをかけると、何故か透は口ごもった。「どうした?」と湊介は尋ねる。


「あー……うん。何でも。……じゃあさ、帰りにコンビニかスーパー寄って行ってもいい? その……ポケットティッシュか何か、買いたくて……」

「ティッシュ?」

「ほら、それくらい、身だしなみの一つとして持っておくべきじゃん?」


 湊介は眩暈がした。透の口から身だしなみがどうとかなんて聞く日が訪れるなど、思ってもみなかった。


――ムゲンさんの世界に連れていかれちゃうんだよね。


 もう元には戻れない。湊介は閉じ込められてしまった。この世界で、一人ぼっちになってしまったのだ。


「ようこそ、私の世界へ」


 カナカナカナ、というヒグラシの鳴き声に交じって、あのひどく耳障りな笑い声が耳朶を打ったような気がした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 逃げられない。 それこそがムゲンさんの世界に来たということなのでしょうか。 鏡の世界に迷い込んだように、逆になっているようで。 ただ、もうひとつの作品を読んでみると、印象が変わります。…
[気になる点] 本来は出入り口ではないはずの窓からじゃなく、なんとかしてドアから出られれば元の世界に戻れた、なんてことは…… [一言] 完結おめで……(イヤアア帰らせてー!)……おめでとうございます!…
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