脱出
湊介は絶叫した。バネのように体を弾ませ、再び走り出す。だが、そんな事をしても、何も結果は変わらなかった。やはり、どの車両にも人はいなくて、その代わりに『ムゲンさん』が乗っているのだ。
「止めろっ! 止めろよぉ!」
湊介は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んでいた。
「降ろしてくれぇ!」
「当列車は終日運行いたしております。どの駅にも止まりません。あらかじめ、ご了承ください」
車掌のアナウンスのようなトーンで話す『ムゲンさん』の声が聞こえる。続いて響く、耳障りな笑い声。走る気力もなくなった湊介は、床を這って、もう開く事のなくなった扉に縋りついた。
ふと腕時計を見れば、すでに乗車してから一時間は経とうとしていた。いつもなら、五分と経たずに次の駅につくはずなのに、この電車はそんなに長い間、ずっと走りっぱなしだったのだ。
もう、どうやってもここからは抜け出せない。自分は、『ムゲンさん』の電車に閉じ込められてしまったのだと悟り、湊介は体温を奪われてしまったように震えていた。
だが、湊介が救われる道は、まだ完全に閉ざされた訳ではなかった。湊介は、あの小学生が言っていた言葉を思い出したのだ。
――もしその電車に乗っちゃたらどうしよう……。
――心配しないで。いい方法があるから。
(もしかして、ここから出る方法があるのか……?)
もしも閉じ込められたまま一生出られないのなら、『いい方法』があるなんて言い方はしないはずだ。
『ムゲンさん』の電車から脱出する『いい方法』。湊介は必死で頭を働かせ、せわしない仕草で辺りを見回した。
その内に、彼の目があるものを捉える。車両の両側についた窓だ。
湊介は躊躇わなかった。このままずっとこんな所に閉じ込められるなんて御免だ。どんな方法であれ、助かる可能性があるのなら、それを試してみない手はない。
湊介は窓をこじ開けると、そこから身を投げた。その様子を、『ムゲンさん』は、身じろぎもせずに眺めていた。