第687話 感情
「全員...ぶっ殺す」
...ん?今、私の口からすごい物騒な言葉が飛び出した気がする...。まぁ気のせいかな。
「あ、アヤネ...?」
「ん?なんですか?」
「今...い、いや、なんでもない...。」
────ゴァァアアアアアアアアアッッッ!!!!!
「何だこれはッ...!!」
「あっつっ!?!?」
「囲まれた...!?」
私が出していない真っ黒な焔が敵を逃がさんと大きな壁となって燃え盛る。いったい誰の魔法なのか分からないけれど1人も逃げられないこの状況は好都合なので私からは干渉しないことにする。
「1人目。...ッ!?」
──ズバッッッ!!!!
「かはっ......ぁ...」
致命傷にならないであろう箇所を狙った突きだったはず。なのに...なぜ貴方の心臓に深々と突き刺さってるの...?
「...足りない...。」
「...もっと...。」
「2人目。」
───ズシャッッ!!!!
「あ゜ッッ...!?」
今度は腕ではなく首に刀が吸われ、敵は死んでしまった。絶対におかしい...私が狙いを外すことなんて稀なのに...。
「んふふ...」
── 殺せ!! ──
── 殺せ!! ──
── 殺せッ!!! ──
「ッ...!?」
「死ねぇっっ!!!」
──キィィィンッッ...スパッッ...!
上段から振り下ろされるそれを刀で弾いて心臓を貫く。なぜだろう...普段なら罪悪感を感じているこの行為に今は何も感じない...。むしろもっとそれを望んでいるかのように感じる。
「ぁは...」
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──ピチャッ......
下ろした刀から滴る鮮血。それに負けないぐらいの鮮やかな深紅の色を持つ1人の少女は呆然と残った遺体を眺めていた。
「...全部殺しちゃった。」
『アヤネ!』
「っ...どうしたのスカーレット。」
『それを一旦鞘に納めて。』
「...?分かった。」
───チンッ......
「それでどうしたのスカーレット?」
『...この光景見てもそんなこと言える?』
「なに、が...え...ぁえ...?」
さっきまで感じなかったものが一斉に襲いかかってくる。殺すことによる罪悪感や敢えて苦しむような殺し方をする嫌悪感。それと引き換えに殺すことによる快感が消えていった。
「...きもちわるい。」
『...その刀のせい。アヤネが気にする事はない。』
「この子のせいなの...?」
『ん、恐らく。アヤネの感情がぐちゃぐちゃなのはそれのせいだと思う。』
「そっ、か......。」
...この子は無闇に使っちゃダメだったのね。
ちらりとスリーナさん達の方を見るとスリーナさんがユウトくんの目を塞いでこちらをジッと見ていた。
「アヤネ...お前は...」
「...帰りましょう。」
「......。」
私は何も弁明できなかった。
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「...また派手にやりましたねアヤネさん。」
「領主様、処理が完了しました。」
「ご苦労さま。それじゃあ撤収しましょう。」
領主様と呼ばれたサーラ・シヴァ・アポカリプスは先程まで血みどろであった街の一角を見て溜息をひとつついた。
「全く...龍人様とはいえ後処理のことを考えて欲しいものですね。」
「ですがそれをお望みだったのでは?」
「...あら。お見通しだったかしら?」
この少女の目的は街に巣食う裏組織の壊滅。いくらこの街の唯一の騎士である『海の掃除屋』をもってしても処理しきれない膿であったそれを今回、アヤネの力を利用して処理したのだ。
「ガンヅさんのところにもたくさん来たそうね。」
「そうですね。あの浮遊するカタナという剣がなければ今頃彼は死んでいたことでしょう。」
「本当に彼女の造る武器はすごいわね...。」
「全くです。私も個人的に造ってもらいたいほどですから。」
こうして人知れず夜は更けていく。
 




