第669話 データ
───ドタンッ!
「『...きゅぅ...」』
上手く動けず1歩目で転んでしまう。今までスカーレットと体を共有しながら一緒にいたけれど、同時に動かしたことなんてなかった。
「『うわぁっ!?」』
『と、とりあえず立ち上がろう...右脚立てるからそっちは膝立てて!』
『ん。』
言われた通りにスカーレットが操作する左脚は膝をついていて、私は右足を立てることでようやく立ち上がることに成功する。
「ククク...まだ早かったかのぅ?ほれ。」
『私が刀持つから天力でのサポートお願いできる?』
『任せて。』
右手でインベントリから刀を取り出し、スカーレットに鞘を持ってもらって引き抜く。そして飛んでくるビー玉のような小さくて青い球達を斬り飛ばす。
「準備はできたようじゃな。」
「『ん。」』
右手で刀を、左手で天力刀を握りしめ、おじいちゃん...いや、神様と対峙する。今の体じゃ神様の攻撃を避けることはできないが、防御することはできる。それにスカーレットも師匠の扱きを受けたから普通に天力刀を使えるしね。
『天力に関することは任せて。』
『わかった。私は物理攻撃とかは何とかするね。』
『ん。』
物理攻撃、防御は私。天力攻撃、防御はスカーレットという役割分担をして私たちは動く。とはいえ走るのは本当に難しいのでゆっくり歩くだけに留めている。
「ほれ。」
「『っ...!?」』
──ズガガギギギキガガガギギギギィィンッッ!!!
なんということか。私の姿を模した光がそれぞれ違う武器を持って私たちに襲いかかってきた。しかもよく見ると天力でできた武器や本物の金属でできた武器など様々だ。それに全ての武器が業物で私の刀と打ち合っても遜色ないものだ。...これを一瞬で創り出せるのか。
天力でできた武器の防御はスカーレットの展開した[神壁]で、本物の金属でできた武器の防御は普通に私が防御する。
「ほれほれ。天変地異じゃぞ〜。」
「『...ヘルヘブンは悪趣味。」』
「ふふふ...可愛いものにはついイタズラしたくなるものじゃ。」
今度は私の龍状態の姿をした光が空を埋め尽くす。それに、地面では様々な魔物を模した光が私たちを囲っている。
『飛ぶよスカーレット!』
『言われなくても。』
ほぼ同時に翼を広げ、空へと羽ばたく。一定の速度で羽ばたくことを意識すれば落ちることはない。しかし、この状態で動くとなるととても難しい。
「あ、そうじゃ。わしのペットも呼ぼうかの。」
「『なっ...」』
────ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ...!!
スカーレットの驚いた声に私は警戒する。それと同時に空を引き裂くような音が響き渡り、巨大な龍が現れた。なんだか...すごいバグが起こってるみたい...?バグで姿が定まっていない。さらによく見ると0と1という数字で体が構成されているみたいだ。
「こやつはこの世界の全てじゃ。こやつが死ねばこの世界は文字通り死ぬじゃろうな。まぁ死ぬことはないから安心して攻撃するといい。」
「『...。」』
私の龍状態がまるで鳥のように思えるぐらい巨大なデータドラゴン。
『 』
「『[神壁]」』
───────ッッッッッッ...!!!!
そんな龍状態の私を何体も同時に食べることができそうなほど巨大な口から放たれるデータの奔流はスカーレットの神壁に衝突するとどんどんそれを蝕みながら私たちの元へやってくる。
『...ヘルヘブンは本当に悪趣味。』
『ど、どうしよう...』
『...データの塊だというのなら貴女は斬れないの?』
『っ...』
『そっか。』
「『わ、私に斬れないものなんてないッッッ!!!」』
私のこの姿もこの刀も見えるこの夥しい景色も全て全てデータの塊にすぎない。ならば900階層で放った空間そのものを斬り裂く攻撃も通るのでは?
「『ごめんなさい杏子さん...!」』
「...ふむ。」
──《刀堂流刀術:最終奥義・朧月夜ノ神滅斬》──
杏子さんの言いつけを破り、何も言わずに最終奥義を放つ。集中力を上げるそれを無くしたのだから威力は下がるが、そこにスカーレットの天力エネルギーが乗り、凄まじいものとなる。
「『はぁぁぁぁあッッッ!!!!!」』
データの奔流に抗いながら、両手でなんとか刀を振り切る。空に巨大な亀裂が入り、データの塊であるドラゴンにも大きなダメージを与えた...ように見えた。
『 データ修復中 1% 』
「『っ...」』
私たちの放った一撃は呆気なくデータ修復されることで無意味なものと化した。
───ピシッ...
「『あっ......」』
それに私の刀も耐えきれずに折れてしまった。
○TIPS○
・データドラゴン
ゲームを構成するデータそのもの。アヤネたんが見ていたのは0と1しかなかった箇所だが、他では普通に英語とかも使われている。
・アヤネたん達
もし本当に殺せちゃったらこの世界が終わると聞いてもなお焦ってつい本気でやっちゃった系女子達。杏子さんに謝ったのは〔このカッコ〕で括られていた古文(笑)のやつを言わなかったから。そんなこと言ってる間に多分死んでただろう。
・ヘルヘブン
まさかデータに大ダメージを与えられるとは思っていなかった神様。




