第650話 荒廃と後悔
──ふふふ...大変なことになってるわねぇ?──
『...私にはどうすることもできません。』
──良いのかしら?私なら...あの子の元に連れてってあげられるわよ?──
『っ...本当、ですか?』
──もちろんよぉ!その代わり...貴女の力、貸してちょうだいね?──
『......分かりました...。...これで会えるなら...』
その日、アヤネがおらず活気がない家からアリスが姿を消した。
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「うふふふ...ようやく手に入れられたわぁ?」
『...あくまでもアヤネに会うまでですからね。』
「ふぅん?本当に私が体を返せば、だけどねぇ?」
『...地獄の契約をしたはずです。もし契約を破れば貴女は死にます。』
「わかってるわよぉ!冗談よ冗談!」
未だ幼い顔に相応しくないほどの妖艶な笑みを浮かべる私。そんな彼女は飛びながらアヤネに造ってもらった青い杖Sirius Wandをクルクルと指で回す。
...私の大切な杖だからやめて欲しいのですが?というかなぜ私の体を乗っ取る必要が...?
「そろそろ私の...いえ、私たちの出番なのよぉ。」
『出番...?なんの...』
「そろそろ着くわよ。」
釣り上げた口の端をさらに上げると彼女は目の前に大きな魔法陣を創り出す。魔法学校にいた時に読んだ全ての魔法本の記憶を掘り起こすが、こんな魔法陣は見たことがない。一体彼女は何者なのだろうか。
「着いたわよ。」
『ここ、は...試練の塔...?』
「ふぅん...貴女の大好きなアヤネちゃんはもう189階層まで突破したのねぇ...」
『っ!ここにアヤネがいるのですか!?』
「わっ!ビックリしたわぁ...そうよ。貴女を彼女に会わせてあげる...」
『本当ですか!?』
「えぇ...ふふふっ......敵としてね。」
『え...』
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1週間のときを掛けて100階から195階を抜け、ようやく196階に。150階にいたボスは巨大なワニみたいな魔物だった。彼は外側は鱗などに守られていて強かったけれど内側が人並みだったので天力刀に纏わせていた天力を飛ばして剣刃をたくさん飲み込ませることで何とか倒した。当然天力を飛ばすに至るまでに数え切れないほど死んだ。あと酸性の液体を吐いてくるのも色々ときつかった。
「もうすぐ200階層...なんだか、嫌な予感がする。」
『...次は色欲のペットがボスのはず。』
相変わらず天力シールドを溶かしていく酸性雨から逃げるように大きめなビルの下に潜り込む。これまでの自然とは違い、101階層からは「荒廃した現代」といったテーマのような世界が広がっていた。今降ってる酸性雨も私の体力が1しかないから触れた瞬間に死ぬ。当然そんな雨がこんな所に降ってるなんて思わなかったから101階層では何度も死んだ。
───ぴちゃんっ...
ほろほろと砂埃を落とす天井。ボロボロになった床に溜まる酸性雨。この世界に今、私とスカーレットしかいないのだからなんとも言えない気持ちになる。
「...あ、階段。」
今回は運が良かったみたい。いつもなら酸性雨に強いどころか酸性の液体を吐き出してくる魔物がそこらじゅうに徘徊してるんだけど、今回はルートが被らなかったのか一度も出会うことなく黒い階段を見つけることが出来た。
それともう一種類今の私では到底勝てないだろう厄介な敵がいたんだけどそっちの方は最近取得した天力迷彩でなんとか戦闘を避けてる。というのも天力で光の波長を変えられることに気づいて、心眼を使って正面から私の姿を客観視できるからそれで背後の景色と同じ色になるように天力を弄ってみたらなんかできたんだよね。試練としては戦うべきなんだろうけど色々試してみて無理だったしこういった技を手に入れたので良しとしよう。...良しとしていいよね?
『...成長の仕方は人それぞれ。好きにしていい。』
「なら良かった。」
...早くすずに会いたいからね。
とりあえずあのカエルはいつか絶対倒す。
そんな訳で1日かけてようやく200階層にたどり着いた。
「...なんで...」
「...ごめ、んなさ、ぃ。」
そこには震える手で私が造った杖を向けるアリスがいた。
○TIPS○
・バッドエンド
アリスちゃんを200階層のボスにしたらどうかなって思ってストーリー考えてたら最初にバッドエンドを思いついてしまった件...。ちなみにバッドエンドはアヤネたんが涼香さんとアリスちゃんを天秤にかけてアリスちゃんを殺して泣きながら先に進むルート。...まぁ私の心が汚れてるだけなので本編のアヤネたんはこんなことしないと思いますが...。
・アリスちゃん
ちょっと前からアリスの心の中に居座っていた何者か()がアヤネたん及びスカーレットちゃんを捕らえるためにアリスちゃんを操った。アリスちゃんは純粋無垢なのでアヤネたんに会わせてもらえたら体を返してもらうという条件で破ったら死ぬという『地獄の契約』を結んだが、そもそもその『地獄の契約』というシステムを創ったのがその何者か()なので意味がなかった。...アリスちゃんの敗因はそれを知らなかったこと。
 




