第649話 トドメと追い打ち
「んふふ...」
『...アヤネ落ち着いて。』
「...っとそうだね。ごめん。」
極度の興奮状態にあった脳をなんとか鎮め、天力刀を握り直す。さっきまでのふわふわした意識のままだったら即死していた。負ける訳にはいかないから気を引き締めなくちゃね...。
「...ん?」
「「「「グ、グォォオオオオオッ!!!」」」」
なんか...すごい怯えられてる気がするんだけど...?めちゃくちゃ距離取られてるし...あ、逃げながら光線はずるいんじゃないの!?
────ドゴォオオオオオオオオオオオンンッッ!!!!
今度はさっきみたいに油断したせいで真正面から光線を受ける羽目にならないように予め避けるモーションに入っている。それに相手も生物だから戦っている最中に成長もする。今まで一斉に射撃していた光線だけど今は1頭ずつ順番に放ってるから光線が途切れることは無い。それに光線のスピードも少し早くなってる気がする。
まぁその分光線が細いから避けやすいけどね。
「はァッッ!!!!うっ...」
死角に潜り込んで暴れる相手の頭に天力刀を突き刺す。...はずだったけど暴れすぎてて突き刺した瞬間に打撃を受けて相打ちになりそうなので一旦見送る。
──ゴォォォオッッ......
「っ...!」
今度はなんだと口を見ていると赤い《・》炎が口の中で燃えていた。どんどんと大きくなるそれをこちらに向けて放とうとしている。
「ふっっ!!!」
だけど...
───ゴォアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!
───ズシャッッッ!!!
「「「グォォォッッ!!?!?」」」
貴方が炎を無効化するように私にも炎は効かない。残る頭は3つ。ここまでこればこれまでに見てきた普通のティラノヘルベロスと同じだ。まぁステータスは断然こっちの方がやばいけどね。
「「「グォオオオオオッッ!!!!!」」」
今度は近接戦闘と言わんばかりに凄まじいスピードで頭を伸ばす相手。もう活動停止した3つの頭をも振り回して攻撃してくるのを避けつつ、相手の噛みつきに対して素早く天力刀を口内に刺してやるとすぐに引っ込める。さすがに体内の防御はできないもんね。
血を吹き出しながらなお動き続ける相手に感心しながら私はどんどんと鈍くなる頭に刀を突き立てる。
「「グォオオオオオオオッッッ!!?!!?!」」
ドスンと倒れる相手。そりゃ頭の半分以上が活動停止してるから体を動かすのも難しくなるよね。意識がある人を持ち上げるのと意識がない人を持ち上げるの、どっちが楽かみたいな感じかな。
「「グルルルルルルッッ...!!!」」
起き上がれずにこちらを睨みつける相手。私は最後まで油断せずに残る2つの頭に天力刀を突き立てた。
──────────
───
「いやぁまさか勝てるなんてねぇ...はぁ...貴女を私のモノにしたかったんだけどねぇ...世の中ままならないものねぇ?」
「...。」
「ま、今の私たちは制限があるからここでは戦わないことにするわ。また今度私と遊ぼうね?♡」
「......。」
そう言って空間を斬り裂いて消えたフォルトゥナさん。取り残された私達はしばらく呆然としていたのだった。
『...アヤネ、次の階。』
「...うん。」
スカーレットに言われるまま私はいつの間にか目の前にあった黒い階段を登った。何はともあれこれでようやく試練の塔の10分の1が終わった。...現実世界で2週間近く掛けてたった10分の1だ。早くクリアしないと...。
焦る私に追い打ちをかけるかのような仕打ちがこの先の200階層で待ち受けているなんてこの時の私は思いもしなかった。
○TIPS○
・不穏
 




