第648話 トンネル効果
開かれた6つの大きな口。そこから覗く真っ赤な光はここまでの階層で見てきた光線と全く同じものであった。
「っ...!!」
───ドゴォオオオオオオオオオオオンンッッ!!!!
それが放たれる直前に天力で体を覆うほどの丸いシールドを創り出しつつ横に飛ぶ。シールドは真横を通る光線との間に割り込ませることで衝撃波を受け流す。
天力シールドはもちろん割れてしまったが、その分の天力を回収して再び短刀として作り替える。...しかし作り替える前に相手は既に私の至近距離までやって来ていたので離れるのではなく、敢えて潜り込んだ。この際私が相手の体当たりに触れてしまえばそれだけで1しかない体力は削られるだろう。いくらこの試練の塔で増えた天力で体を動かせても体力を増やすのは無理だし、防御の面でも脆いのだ。
「ふっ...!!」
──グサッ...!
──ジュババババッッッ!!!!
全力で天力の刃を突き刺して纏っている天力を魔力刃に変形させて体内で暴れさせる。そのまま引き抜いて背中に飛び移る。
「ここなら見えないで、しょっ!!!」
6つある首のうちの1つに両刃を突き立てて先程の要領で魔力刃を暴れさせる。これで大ダメージを与えたと信じたいけど未だその首はピンピンしてて動きが鈍くなってもないのでやっぱり信じられないね。
「「「「「「グォォオオオオオオオッッッ!!!」」」」」」
ブンブンと首を、体を振って私を振り落とそうとする。もちろん私はSTRがないので力ずくで耐えるなんてできない。大きく吹き飛ばされて地面に着地すると相手はもう既に光線発射の準備ができている。
───ドッッ、ゴォォオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!
ここで、死ぬ訳にはいかない。私はペットになんてならない。
──ォオオオオオオオオオ
──.........
光線は私の目の前までやってくると急激にゆっくりになった。もはや時が止まっているかのようにゆっくりなそれは、今も尚進もうと動き続けている。
とはいえ自分の体もゆっくりとなっているのだから私の身長よりも太い直径の光線から逃れることなんてできない。ならどうするか...
時に、現実世界では人がトンネル効果で壁をすり抜ける確率というのがあったりする。もはや0と言っても良いほどの確率なんだけど理論上はすり抜けることがある。
現実世界で通り抜けられると理論上は言われているのなら光の粒子一つ一つを天力で逸らしたらどうだろうか。ほんの少しだけ私が通るところの光の粒だけを排除すればそれだけで私は生きられる。これならば確率は100%だ。しかし、これは時がゆっくりとなっている今だからこそできる荒業だ。
ゆっくりと進む光の粒一つ一つに波状の天力をぶつけて少しずつ進行方向をずらしていく。莫大どころか無限の粒が威力を伴っているので全ての粒と天力が真正面ではなく斜めになるように天力シールドを変形させる必要がある。
私は脳を全力で働かせて天力を動かし続けた。
体感で数時間?1日?数日?いったいどれだけの時間が経っただろうか。
ようやく光が途切れた。
体感では無限に感じたこの時間も実際にはほんの一瞬の出来事。光線は私をすり抜けて背後の地面を消滅させた。
相手はなぜ生きている?と言わんばかりの驚いた顔をしているが私はその隙を逃がさない。
天力を纏わせた天力刀を思いっきり真ん中下の脳天に顎下から突き刺した。もちろん短刀じゃ距離が足りないから伸ばして、ね。
「「「「「「グォオオオオオオオオオオオッッッッ!?!!?!」」」」」」
大きく仰け反った相手にさらに追撃をかけるかのように目を瞑っていた左下の頭の脳天を突き刺した。
さすがに警戒されてこれ以上の追撃はできなかったけど2つの頭を無力化したのだから十分だろう。
私は勝手に笑う自分の顔を抑えもせずに2本の天力刀を構えたのだった。
○TIPS○
・トンネル効果
本編でやったやつと全く違うけど例え話として捉えてください。つまり「現実でもトンネル効果みたいにすり抜けることがある(確率はほぼ0)のだからゲームでなら引き起こせるでしょ」ということです。
・アヤネたん
精神力化け物。体感で数日間ずっと寝ないで無数の光の粒を波状にした天力シールドを操って弾いてるんだからそりゃ常人がやったら秒で発狂する。しかも真正面から受けられないほどの威力なので真正面に合わせるとシールドが割れるという鬼畜仕様。




