第632話 ヒビ
『...アヤネ。』
『にゃーん...』
『アヤネ。アヤネ!』
『にゃー...は!?す、スカーレット...?どうしたの?』
『どうしたのじゃない。あと少しで戻れなくなるとこだった。アヤネ。悪いことは言わない。スズカと少し距離を置いた方がいい。』
『...珍しいねスカーレットがそんなに話すなんて。』
『アヤネ冗談を言ってる場合じゃない。』
『......分かったよ。』
スカーレットに諭されて、我に返る。すずに首輪を付けられてからの記憶が飛び飛びなんだけど...あと今はすずに抱きついてなでなでを要求している所だった。
「ん?あや?どうしたのかしら?」
「...。」
何も無いかのようにふるふると首を横に振り、すずの首筋に顔を埋める。...さぁてどうやってすずと距離を取ろうか。この首輪のせいですずに対して力を込めることはできない。
『...私に考えがある。』
「ほんとに?」
「何がかしら?」
「え!?な、なんでもにゃい...。」
つい言葉にしてしまったことですずに怪しまれてしまった。スカーレットにその考えを教えてもらおうとすると突然スカーレットに体の所有権を奪われてしまった。
「ごめんねスズカ。」
「っ!?ど、どうやって...!?まさか貴女スカーレット!?」
「その通り。この首輪はアヤネに対して効力を発揮する。しかし、私には...この通り。」
バキッと壊れた首輪。付けられた瞬間はあんなに力を入れても壊れなかったこの首輪が、スカーレットが爪を掛けた瞬間砕け散る。
「スズカ。お前は少々どころか大分独占欲が強すぎる。少しは頭を冷やせ。」
「...。」
そうスカーレットが言うと窓を開けて飛び立った。ちょっとあんな言い方しなくても...
『実際独占欲は強かったでしょ。』
『うぐっ...確かに...そう、だけど...。』
『今は黙ってて。』
『...はーい。』
『...それと彩音の世界でも私が守ってあげる。』
『...?どういうこと...?』
『...私今ムカついてるから黙ってて。』
『理不尽!』
スカーレットに言われた通り黙ってこの体が行く先を観察することに徹する。この方角は...どこに向かってるんだろう...?って目を閉じないでよ見えないじゃん。まぁ心眼使えば...って空飛んでるから心眼使っても分からない!?
『...スズカだけじゃなくてアヤネにも頭を冷やしてもらう。』
『えぇ...?』
飛行し始めてから体感3時間ほど。スカーレットがひたすら目を閉じて飛んでいたせいで私が何処にいるのか分からない。ようやく地面に降りたったので心眼を使ってみるとそこは見慣れない場所。
スカーレットが目を開くとそこは真っ白な世界?というより灰色かな?地面も周りに転がる岩も山も全部灰色。
「...ここはブラックアイ。今日からしばらくアヤネはここで暮らしてもらう。私は手助けしないから。」
『えぇ!?』
ブラックアイってロウアー大陸と魔大陸の間にある黒いモヤに覆われた大陸だよね?どうやって入ったの...?ルナリアさんの模擬月の落下攻撃でさえも割れなかった結界が張ってあったと思うんだけど...
「ここの魔物は魔力に汚染されて遥かに強くなってる。今のアヤネの実力よりも少しだけ上。...今までの魔物と同じだと思っていると足元をすくわれる。」
『っ...なるほど。分かったやってみる。』
「うん。」
そう言ってスカーレットは体を返してくれた。私は今日からここで暮らすのか...すずに何も言わずに出てきちゃったけど現実世界の方で何か言われそうだなぁ...
そう思いながら私はまだ見ぬブラックアイの魔物に想いを馳せた。
○TIPS○
・スカーレットさん
依存関係にあるアヤネとスズカについにブチ切れた。現実世界の方の彩音も守ると言っているが果たして...?
・アヤネたん
スズカさんに怒られそうだなと思いつつも強い敵と戦えることを嬉しくも思っている戦闘狂。
・スズカさん
スカーレットさんにアヤネたんを連れ去られて呆然状態。これだけでもスズカさんはダメージを負ったが、これから起こる現実世界での更なる事件により...?
 




