第506話 私は何も見なかった。いいね?
「ねぇあや。」
「なぁにすず。」
「お買い物に行かない?」
「何買うのー?」
「えー?もちろんあやの服だけど?」
「...。」
さも当然の如く私の服を買うとかいうすずに私は驚...きはしなかった。まぁいつもの事だし。でも嫌ではあった。だってすずのお小遣いで買ってもらっている訳だし、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。...それに着せ替え人形はもう嫌なの...。
「大丈夫よ!今日は(いつもよりは)少なめだから!」
「...ほんとに?」
「えぇ!」
「...分かった。じゃあ行く。」
「やった!」
すずの後ろに花畑が見えそうな程ウッキウキなすずを見て私は重い腰を上げる。...嬉しそうなところ見ちゃうと毒気も抜かれちゃうよね。
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──と思っていた私が愚かでした。
連れてこられたのはなぜかウェディングドレス専門の店舗。そこですずは私の想像を絶する事を口に出したのであった。
「ここから向こうまで、全部のデザイン持ってきなさい。」
「かしこまりました清水様。」
「え゛...?」
「ん?どうしたのあや?」
「すず...少なめって...?」
「あぁ、いつもより少ないでしょ?」
「ぁ、ぁぁ......。」
「さ、あや。...もっと綺麗になってね。」
「いやぁ...!」
「すみません梶原様。こちらへどうぞ。」
「あぅ...。」
私は...すずに騙されたのであった。
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「あや!似合ってるわよ!」
「...。」
「あや!こっちも良いわねぇ!」
「......。」
「じゃあ次はこっち!」
「.........。」
「ケテ…タスケテ……...。」
「すみません梶原様。私めにはどうしようもございません...。」
すずの隙を突いて店員さんに助けを求めても返ってくるのは否定のみ。
完全に心が折れた私は全てを諦めたのであった。
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「ありがとうございました!」
「いやー買ったわねー!」
「ん。」
「あや?大丈夫?」
「ん。」
「...キスしていい?」
「ん......んぅっ!?」
不覚。ロボットみたいに返事してたらバレた。
私、ウェディングドレスは何も見てない。値段とか値段とか値段とかなんにも見てない。なんならオーダーメイドとか何とかって聞こえた気がするけど気の所為ったらありゃしない。8桁9桁のウェディングドレスなんて見てない。見てないったら見てないのだ。
「ねぇあや。」
「な、なに...?」
すずの言葉に思わず身構えてしまう。
「今夜はすき焼きとかどうかな?」
「へ?」
「私すき焼きって食べたことあんまりないんだよね〜。」
「そう...だね。」
確かにすずはすごいお金持ちのお家だからみんなで鍋を囲むとかはしないって聞いている。...お父さんと3人でやったら楽しいよね。
「...いいよ。材料買いに行こっか。」
「えぇ!楽しみね!高い肉でも買いましょうか!」
「...せめてスーパーの物にしてね?」
「......もちろんよ。」
信用ならない間だった...。私が言わなければ絶対専門店で物凄い高いお肉とか買ってきてたやつだよ...。




