第501話 飛空石
───ウォリティア・ウンドージアside
─────ドゴォオオオオオオオオオンンッッ!!!
「!?」
「『グルルルッッッ!!!」』
「はっ!挑発のつもりか?」
私の渾身の一撃を暴走状態のアヤネは敢えて噛み砕き、その金色の瞳と虹色の瞳を向けてくる。
「ふふっ...それでもダメージは大きいはずだ。《アクア・リング・イン・アウト》《泡沫の虚界》」
再び私のブレスを無限にループさせる。今度は生成したアクアリングが崩壊する一歩手前までループさせる。こうすることで私のブレスは本来の威力の約10倍までに跳ね上がる。先程は後ろが観客席だからと威力を抑えていたが、そこまで挑発されるのならばやってやるさ。
龍人は売られた喧嘩は簡単に買う生き物だから。
...だから。
「簡単にやられてくれるなよ。」
「『グルラァァアアアアアアア!!!!!!」』
────ズガァァァァァンンッッ!!ズガガァァァンッ!!
本能を剥き出しにしながら殴りかかってくる。しかし、私の腕はアヤネのそれと同じもの。同じ力を持つのだから向かってくる腕に合わせて攻撃を当ててやれば力は分散する。
今のアヤネは同じことしかできない機械のようなもの。今なら考え事もできる。
考えることはただ1つ。なぜ暴走状態になったのか。考えられる原因は瞳にある巨大な天魔石ぐらいだろう。事実、そこから体全体にヒビが入っている訳だしな。
天魔石...様々な呼び名があるがその中でもこれが1番有名なのが別名:飛空石。宙を飛ぶ石から飛空石と呼ばれるようにもなった天魔石だが、実は浮遊するだけじゃない。それは感情の浮遊化。天魔石は持つ者の感情を浮かせ、感情を表に出させる効果を持つのだ。遠い昔...私がまだ仔竜だった頃、天魔石は普通に地表面に転がっていた。流石に珍しい物だから滅多に見つからなかったものだが、見つけた者は大抵有頂天になり、誰彼構わず自慢するようになった。...それがたとえ元々無表情で感情を顔に出さなかった者であったとしても。
そういう効果を持つ天魔石がアヤネの目に埋まっている。それは暴走もするだろう。感情の塊である龍の本能を強制的に表面上に浮かされているのだから。しかも効果は天魔石の大きさによって比例する。つまり龍人状態では小さかったためあまり効き目がなくても龍化して天魔石も巨大化すれば効果も増幅する。だから何もしなければアヤネは龍化するたび暴走するだろうな。
「『ガルルルッッ...!ガァァァ!!!!!」』
「ぐっ!?」
───ジュゥゥゥッッ!!!!
アヤネの口から金色の炎が吐かれた。熱い。向こうもただ殴ってるだけじゃダメだと学んでいるようだ。暴走状態なのにやるじゃないか。...って
「!?」
消えない!?な、なんだこの炎は...!どんどん燃え広がっていく...。
っと少し驚いたが冷静になれば簡単に対処可能。アクアリングの中に燃えている箇所を突っ込み、切り離す。これで燃え広がる心配はない。燃えた部分はあとで修復すればいいしな。
だけどあの炎を何回も受けるのは危険だな。
「《アクア・リング・アウト・テン》」
私はアヤネの腕をたくさん召喚し、アヤネを拘束する。当然じたばたと暴れるが、彼女の力をそっくりそのままどころか10倍で返しているので抜け出すことは不可能。そして、炎が出る口も塞いでおく。完全に動けなくなったアヤネに私はゆっくり近づく。
「...ちょっと痛いぞ。」
ちゃんと狙って...
「《アクア・リング・アウト》」
先程まで貯めていたブレスを絞りに絞って天魔石を撃ち抜く。天魔石は木っ端微塵となり、アヤネの顔が血塗れになる。こればかりは仕方がない。しかし、焔龍王なのだから一瞬で修復されるだろう。...私は悪くない。
「『がるる?」』
───ぼふんっっ!!
元通りになると同時に龍化が切れたアヤネは地面に危なげなく着地した。
「...また画面真っ暗だったなぁ。」
「ガメン?」
「あぁ、いえ、なんでもないです...。」
「そ、そうか。」
片目が無くなったものの、笑顔は相変わらず可愛かった。控えめに言って妻にしたい。
...1日遅れたことはバレてない。バレてないったらバレてない...。




