番外編 少女と猫ちゃん
───もし私が暴走したら...この装置で私を殺して───
『...無理だよ...。』
───貴女の記憶を戻すため...私、頑張るから...───
『なんで?なんで私のためにそこまで...』
───本当に...ごめんね...?───
『まって!待ってよぉ──!』
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「...。ルインちゃん...。」
いつもと同じ時間帯に目が覚める。私が寝ていた装置から出て、顔を洗って、身支度して、そして、朝食を食べる。何事もなく一日を終えて、また眠る。これが私の普通。普通のはず...なのに...なんで貴女が夢に出てくるの?名前も知らない貴女が...なぜ私に尽くしてくれるの?
「...分からない。」
ここは別館だ。本館に行けば...何か、分かるかな...?でもあそこは危ないからって言われ、た...から...誰に...?誰にそう言われたっけ...?
やっぱり危険を承知で行ってみようかな...。そうしないとこの何も無い無限ループから抜け出せない。この違和感しかない生活から抜け出せない。
「危険な所だから...。っとこれでいいかな?」
危険な所というのは誰かから聞いている。誰だったか忘れたけど。その場所に行くとしたならば最低限装備が必要だろう。そう思って私は別館中を探し回って武器、防具になりそうなものを集めた。そうして集まったのは...
頭:鉄製の鍋
胴体:無し
腕:無し
レギンス:無し
足:ブーツ
右手:お玉
左手:鉄製の鍋蓋
「...よし。」
これで完璧だ。武器になりそうな物がキッチンにしかなかったが、なんとか戦えるレベルにまでなったはず。
夢の中では何かの機械が沢山ある場所に私はいた。本館にそういう機械がたくさんある部屋があるかもしれない。別館から本館までは結構遠いが、このキッチンセットがあれば問題なく切り抜けられる。
「行こう...。」
夢のあの場所を目指して。
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─────
────ォォォオオオオオ...!
「ひゃぁっ...!?な、なんだただの風か...。」
──ァァァァア...!
「うひぃっっ!?だ、誰っ!?」
鍋蓋でガードしながらお玉を振り回して牽制する。歩く速度は遅くなるが、それでも歩みは止めない。正直怖い。何せ真昼間なのにも関わらず鬱蒼と茂った森の中に本館と別館があるのだ。道中はずっと真っ暗である。
───ガサッ...
「いやぁぁぁぁあ!!!!」
───ガサッ!ガサガサッ!
「来ないで!わ、私なんか食べても美味しくないからっ!」
───ガサッ...
「にゃん。」
「へ?ね、猫ちゃん...?」
「にゃーん。」
「か、可愛い...ってそんなことしてる場合じゃなかった!」
猫ちゃんなんかに構っている暇はないのだ。夜になる前に本館に辿り着かないといけない。夜が来る度、別館から森を見ていたが本当に何も見えない。この辺りは夜に活発になる魔物が多い。森から出てくる魔物もいるぐらいだからね。まぁなぜか別館には近づいてこないけど。本館はどうなんだろう...?
いや別館が大丈夫で本館がダメな理由がないね。
「貴方に構ってる暇はないの。ごめんね猫ちゃん。」
「にゃん?にゃーん。」
「な、なんで着いてくるの?ま、まぁ一人で行くよりは寂しくないけど...。」
本館は危ないところだ。猫ちゃんと一緒に行って危険な目に合わせたくない...。でも癒しは欲しい...うぅぅぅ...。
「...まぁいっか。」
「にゃぁん。」
私が諦めてそういうと猫ちゃんは任せろと言わんばかりの声で鳴いた。頼もしい仲間ができた。




