第356話 てるゆー
「...正直教えてもらいたいところだが、無理強いはしない。話は戻すが、金は魔力よりも天力をよく通す。さしずめ天力版ミスリルと言ったところか?」
「ミスリルってたしかオリハルコンやヒヒイロカネを除く金属の中で1番魔力を通す金属でしたっけ?」
「あぁ。金はオリハルコン、ヒヒイロカネを除く金属の中で1番天力を通す金属なんだ。だから天力版ミスリルって訳だな。ミスリルがあれば時間をかけてでも完成させられるんだが...如何せん出回ってないからな...。」
「なるほど...。」
「天力を使えるやつがいればこの金も無駄にならなくて済むがなぁ...。」
「...。」
別にウィンズさんは私に話せと催促している訳じゃないのだろう。ただ口から思ったことがポロッと出てしまっただけだ。それだからこそ私はなんだかちょっとだけ罪悪感みたいなものを感じてしまう。
『...アヤネが教えたければ教えればいい。私は何も言わない。』
『スカーレット...。』
...これは教えないとだね。
「ウィンズさん」
「なんだ?」
「実は───」
───ズガァァァァァアアアンッッ!!
「な、なに!?」
「またか!!こんな時に...!」
「またってなんですか?」
「魔物だ!お前もここに来たんなら分かってただろ?ここら辺は魔物がよく出るんだ。」
「たしかにいっぱいいましたね...。」
「この建物は自動で迎撃してくれるシステムが組まれているが、それでも限度はある...。外壁にも亀裂が入ってきてる。そろそろ突破されるかもな...。」
「...私ちょっと行ってきます。」
「んぁ?おいまさかお前...」
ウィンズが何か叫んでいるが、それを無視して私は全速力で飛ぶように走っていく。
そうして何度か角を曲がり、ようやく入口が見えたと思ったら...
───ドッゴォオオオオオオォオォオオオンンッッ!!
───フシュゥゥゥッ!!
──チャキッ...!
「...。」
入ってきたとほぼ同時に刀を抜き、崩れ去る外壁の砂埃の奥にいる何者かに警戒する。
そうして顕になったのは大人のイノシシよりも数倍大きい四つ目のイノシシらしき魔物だ。相手は普通のイノシシの毛をすべて岩に変えたような見た目をしている。これは倒すのに骨が折れそうだ。
「フシュッ!フシュッッ!!」
「...。」
最近は刀を使わず、龍の手だけで戦ってきた。まだ衰えてはないが、扱わないと腕が鈍る。腕試しとして相手になってもらおう。
「まずは《鑑定》」
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【名前】ロックロックドボアLV.98 状態:正常
【弱点】なし
【苦手属性】水
【説明】群れからはぐれた岩属性のはぐれボア。彼の自慢の毛は全て岩でできており、レベル差のある相手でも斬撃攻撃ならば余裕で耐えうるほどの硬さを誇る。なお、打撃攻撃のスペシャリストとも言われているエレファリオス系等が天敵である。
HP:26890/26890
MP:12400
STR:8432
VIT:4312
DEF:6653
AGI:5324
INT:2570
DEX:1430
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「...手始めにっ!」
──スパパンッ!!
「ブモォッ!?」
4つある目の内、前後で対角になるよう2つの目を斬り裂く。これで視界がバラバラになって普段通りの動きができないだろう。
相手が頭を振り、怒りをあらわにして暴れているうちに私は素早く相手の真横まで飛んでいき...
───スプッ...!
そして毛と毛の...岩と岩の隙間に刃を差し込んだ。それは丁度下から脳天を突き上げる攻撃だったため相手は即死した。
「ブモォッォオッオオオオオォオオオ!!!!」
────ドスゥゥンッッ...
「はぁっはぁっ...!おいデカい音がしたが大丈...夫そうだな...。」
「ウィンズさん。」
刀を抜くと同時に私が来た方向から息を切らしてやって来たウィンズさん。...こんな環境でひたすら研究をしていたウィンズさんに伝えよう。
大事なことは早く伝えよう。...手遅れになる前に。




