第332話 ナンザン
────???side
「本当に化け物ね...。」
「お前が言うか人外。」
「っ...。そうね。」
本当にあの化け物はアヤネなのか?言動どころか全体像が私の知るアヤネと違い過ぎて、まるでアヤネに擬態した何かに思える。まぁ何にでも擬態できる私が言えることではないが。
宙に浮くアヤネ(?)に対抗すべく、私は飛行速度の速い魔物のバッティダの羽を生やし、硬い魔物のマスルマンの装甲を身に纏う。こんなのは気休め程度にしかならないと分かっているが、しないよりはマシだろう。
「《チャージインパクト》!」
「無駄」
───べシッ!
手をパワー系の魔物の腕に変えてスキルを発動するも、弾かれる。
「《オリハルコンブレイカー》!!」
「我はオリハルコンじゃない。」
───ベシッッ!
今度は硬い魔物特化の魔物のスキルで攻撃するも、弾かれる。
「《ラストスプラッシュ》ッ!!!」
「魔法だから行けると思うな。」
「悪い夢ね...!」
「現実。」
今度こそと水魔法の使い手であるトワイライトリッチの魔法スキルを使ってみたが、やはり効かない。いったいどうなっているんだ...。
「人外。魔物の力に頼りすぎ。有象無象の魔物如きでは我を止められない。」
「くっ...。」
確かに...確かに私は魔物の力にしか頼っていない。だが、頼らざるを得なかったのだ。元々普通の研究員であった私が己の力で戦う?...無理だろう。
「弱い。」
「ッ!ッ!!」
何も言えない。実際私アヤネ(?)に手も足も出なかった。弱いと言われても仕方がない。悔しいが逃げるべきか?だが、そうするとルナリアが回収できなくなる...。できれば回収したかったのだが、太陽の巫女と一緒にいるのならば無理だろう。
「諦めろ。」
「...。《トランスポート》」
一分後、私は転移で逃げ出した。
──────────────
───────────
────────
「だいじょうぶ?」
「...えぇ。ありがとうシュリ。」
「ううん!えへへ...。」
「かわいい...。」
ルナリアを失ったのは残念だが、きっと太陽の巫女は殺さないだろう。これで一つ手段が失われたが、まだ致命的ではない。それにいざという時のために私がルナリアになる準備もした。
「どうしたの?そんな怖い顔して。」
「...ううん。大丈夫。」
シュリは見ての通り幼児退行してしまい、今はもう5歳児程度の会話能力しか持っていない。このままいけばシュリは何もかもを忘れてしまうだろう。それを阻止するためにルナリアの月の治療法が必要だったのだ。まぁコピーできたからもう必要ないんだけど、月の巫女本人がやった方が効力は高いだろう。
ならなぜはやく連れて帰らなかったのかというと、私の転移スキル《トランスポート》は1人用のスキルだからだ。それも私限定の。だから遠く離れた魔大陸にいたルナリアをロウアー大陸まで連れてくるのは中々に難しかったのだ。
「...アヤネ。あの子あんなに獰猛だったかしら。」
「あやねー?...アヤネ...?うぅぅ...!」
まるで別人のような感じだった。それに種族としても進化していた。今後、障害になることは誰が見ても明らかだ。アヤネを殺すのは諦めるか...。
「ふぁ...んぅ...。」
「眠い?」
「ぅん...。」
「そう。おやすみ。」
...私もそろそろ新しい魔物を取り込むか。
難産...。




