第299話 心眼習得の修行
「...どうしよ。」
「スズカに連絡してみる...?」
「うん。そうする...。...あ...。」
すずに連絡しようとメニューを開いて気づいた。
「...メニューが見えない...。」
「ん〜?」
「すずに連絡が送れないってこと...。」
「なるほど〜?...ってそれはやばいんじゃない?」
「明日会って話すしかないんだけど...。」
問題はどうやってログアウトするかだ。今の私は周りが見えない。これでは街まで何日かかるか分からない...。メルに守ってもらうとしても、ログアウト中ずっと警戒させるのはさすがにまずい。どうしたものか...。
「あ、じゃあ地図ちょうだい?私が背負ってあげる〜!」
「...その手があった。」
今まで自分自身で歩いて街に行くことしか考えてなかったけど、メルに運んでもらうっていう手もあった。メルも相当強いし、STRも高めだから私を持って運ぶことなんて余裕だろう。よし。その手でいこう。
「じゃあ頼んでいい?」
「もちろんだよ〜!」
こうして私はメルに背負われ、当初の目的地であったナイノッツに向かったのであった。
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───ヒュォォォォォ.........!!
凄まじいスピードで走ること約1時間。ようやく私たちはナイノッツについた...らしい。周りが見えないのでよく分からない...。
「...ぁれなんだ...?」
「...角...?...違ぇな...あれは綿とかか...?」
「...健気に背負ってる子可愛いな...。」
周りから聞こえてくる声に耳を傾けると、やはり私たちは目立つようだ。そして、1つ聞いて気になったことがある。
「...ねぇメル。」
「ん〜?」
「私の角ってどうなってるの?」
「アヤネの角?なんかガイトー?が覆ってるよ〜?」
「なるほどね...。」
なんだかこれ、変な外套だね...。角が入るようなフードはミツルさん...の残滓と戦った時にはなかったはずだ。恐らく変形している。《鑑定》したいんだけど、メニューの時と同じく見れないと思うから...どんな効果を持つ外套なのか分からない。なんで不注意に触っちゃったんだろ...。
「すみませ〜ん!」
「はいはい?...うっは可愛いなおい...!」
「私たち宿探してるんですけど〜。」
「あぁ。宿はここから2番目の通りを曲がってすぐのところにあるよ。」
「ありがとうございま〜す!じゃあねお兄さん!」
「お、おう...。...不意打ちすぎんか...?」
なんだかはじめてのおつかいを至近距離で見てる気分だなぁ...。
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「お邪魔しま〜す。」
「あら。いらっしゃい。泊まりかい?」
「...アヤネ。何泊する...?」
「...1週間。」
「はい!1週間でお願いします!」
「分かりました。では───」
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「...はぁ。」
「やっとついたね〜。」
「うん...。ありがとうね?」
「ううん!アヤネのためだから!」
「そっか...。」
ようやく宿の部屋についた私たちは、ベッドに腰かけて話していた。メルには身体的な苦労をさせてしまったようで本当に頭が上がらない。私は私で周りから見られていると認識するだけで精神的な疲労を感じてしまった。
ひとまずログアウトして、すずに連絡してみよう。...まぁすずが気づくのは多分夜遅くだろうけどね。
「おやすみメル。」
「うんおやすみ〜!」
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「ぅ...眩しい...。」
ずっと目隠しされていたせいで、部屋の少量の電気が目に痛い。目をシパシパさせて起き上がり、スマホですずにメールを送っておく。それともう1人にも...。
翌日、早朝3時。
まだ辺りが暗い中、私は近くの山の奥に向かっていた。
そして、しばらく進むと廃れた小屋が見えてきた。その小屋の前には私が昨日連絡した待ち合わせ相手が目を細めて待っていた。
「...よぅ。遅かったな。」
白い袴を着て小屋の縁側でお茶をすすりながら声をかけてきたのは、私が今までお世話になってきた人...そしてこれからお世話になる人だった。
「...おはようございます──」
「──師匠。」




