第172話 待ち受けるモノ
「...そろそろ帰りましょうか。」
「はぁぁ...はぁぁ......え?」
「時間が惜しいですけど、急ぎすぎても良くないですからね。急がば回れです。」
「...分かりました。」
きっとルーナさんは分かっているだろう。私に気を遣われたということを。だけど、このまま探索を続けて死ぬほど疲れるよりは数回に分けて探索する方が良いだろう。時間は惜しいけど、健康が第一だからね。
そんなことを考えながらルーナさんに気づかれない程度に私は少しだけ前に陣取る。こうして少しでも相手の注意を引きつければルーナさんもちょっと楽になるはず。
「ルーナさん。次は明日でも行けそうですか?」
「!はい!行けます!私頑張ります!」
「分かりました。明日も一緒に頑張りましょう!」
ちょっとだけ不安だったけど、ちゃんと了承してくれた。私も今日は楽しかったからもう1回一緒に冒険したかったんだよねぇ...。
明日はルーナさんの為にもっと早めに切り上げないとね。
そんな他愛ない会話をしていると、来る時には無かった大きな扉が現れた。今までに戦ってきたボス達と同じような扉なので、この先にいるのは中ボスで間違いないだろう。
「...どうします?」
「......行きましょう!」
「分かりました!」
ルーナさんに聞くと、一瞬悩んだ後、行くと応えた。そして、その言葉には覚悟が込められていた。
───ギィィィ....
「「.........。」」
奥に待ち受けているモノを見て私たちは互いに顔を合わせる。
「◇々٩٩■٩pm'ღϖϖ●ϖ◆◆ヾ?」
「「喋った!??!!?」」
奥に待ち受けているモノとは、皆が冬にお世話になるだろう...ストーブである。それも、どの方向にも対応しているタイプのものだ。
それがボスとして現れ、尚且つ喋り出す(何語か分からないけど)という訳の分からない状況だ。
「あ、アヤネたん...?」
「はい?」
「あれって刀で斬れますかねぇ...?」
「あぁ、それなら大丈夫です!一応そのためのアーツもありますので!」
「さっすが〜!」
アレを見てテンションが狂ったのかルーナさんは両手の人差し指をこちらに向けてくる。
「とりあえず...《鑑定》」
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【名前】灯油式ストー・ブLV.76 《BOSS》 状態:正常
【弱点】熱核
【苦手属性】水
【説明】ダンジョンで、稀に見るストーブ型の魔物。冬に現れると、人魔物問わず誰もが集まってくるため友好的になるが、夏場は嫌われるため敵対的になる。また、灯油式である。
HP:100000/100000
MP:21534
STR:0
VIT:10000
DEF:10000
AGI:0
INT:200
DEX:0
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「つっよ...。」
「正に耐久レースに特化したボスですねぇ...。」
本当ならこういう敵に対しては、打撃系...それも大きなハンマーとかの方がダメージが入りやすいのだろう。こちらにも両手用の棍...メイスを持っているルーナさんがいるが、私は水魔法も使えず、刀は刃が通らないという完全にお荷物状態だ。
だが、私にも師匠から受け継いだ技がある。
師匠は鎧を纏った敵が現れるかもしれないと言って開発したらしいんだけど、私は中世じゃないんだからと思っていた。だが、今、それが役に立つ。
「《刀堂流刀技・斬鉄》!」
「ま、まさかあの斬○剣...!?」
──ギャイィィィィィンンン.........!!!
「▽дШ≫々▽:/mdgjд:ШЭ!??!?」
「おぉぉぉ!!凄い!!アヤネたん可愛いよ!」
──ピシピシッ......パリンッ...!
「▽д△д▽Ш▽■tpm◇■gatwj!!?!!?!???」
『このストーブは3秒後に爆発します。』
「「うぇぇぇ!?!!??!」」
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「...色んなことがあったね...。」
「そうだねぇ...。」
すっかり口調も砕けた私たちはようやく出口にたどり着いた。
「あらお二人さん...お熱いですねぇ??」
「「ひぃっ!?」」
「す、すず?なんでそんなに怒ってるのかき、聞いても...??」
「私というものがありながら他の女と...ここまで言ったら分かるでしょう?さぁあや....一緒に帰りましょう??」
「...わ、私これからちょっと用事が...」
「あや???」
「はいすみません一緒にカエリマス....。」
「よろしい。」
そんな訳で私はすずに捕まってしまった。ちなみにルーナさんは既に逃げていた。...解せぬ。
待ち受けていたのは綾t...涼香さんでした。




