第168話 タツノオトシゴって響きがいいよね。
「...やっぱりこの感覚は慣れませんねぇ...。」
「そうですか?」
ルーナさんはフォルマナ大迷宮の入口から転移するとそう言う。どうも転移するときのフワッとする感覚が慣れないらしい。私は気にしてないんだけどね?こう...なんというか...エレベーターが下に降りる時とかのアレ?......自分でも何言ってるのか分からないや...。
「《正拳突き》!!」
「《米斬り》!」
──ドゴォォォンッ!!!
──ザザザンッ!!!
──ガラガラガラ...!!
「えぇ!?あ、あの人たち何してるんですか!?」
「あぁ...。」
洞窟に転移して数歩進むと、大きな家が見えてくるはずなのだが、その家は無惨にも男たちの手によって破壊されていた。
「アヤネたんのたm...じゃなくて、通行の管理用にあの家を創ったんだけど、今回の騒動で取り壊すことになったんだぁ。」
「そ、そうだったんですね...。」
てっきり暴動かなにかが起きてるのかと思った...。でもあんなに綺麗な家を壊しちゃうなんて勿体ない気もするけどなぁ...。まぁ今更止めてももう遅いし、役割を果たしたことに敬意を表します...。アーメン。
「さ、行きましょうか。」
「え、えぇ...。......アーメンって言うアヤネたんまじ天使...。」
「なにか言いました?」
「アヤネたんまじ天使って言いました。」
「なっ!?そ!そんな、訳!...うぅ...。」
「恥じらう姿も可愛らしいです!」
「はぅっ!」
「あれ?お顔真っ赤ですけど大丈夫です?熱があるのではないでしょうか?失礼して...」
「ぴぃっ!?」
私の髪がかきあげられ、私の額とルーナさんのそれとが合わさる。目を閉じるルーナさんが目のマエニ...。
「うん。大丈夫そうですね!さぁ行きま...ってあら?」
「あぅ...。」
「大丈夫じゃなかった!!」
ルーナさんの顔が離れてからようやく思考が追いつき、自分の顔に熱が集まっていくのを感じる。とても暑いです...。
「い、いえ!時間がなくなりますので早く行きましょう!」
「ほ、本当に大丈夫なんですか...?」
「もちろんです!」
ポーっとする思考を振り払うように頭を振って迷宮の奥にズンズンと進んでいく。もちろん魔物に対する警戒は怠っていない。ルーナさんはそんな私の様子を見てか、片手に持つ両手用のメイスを握りしめて小走りで着いてきてた。
「アヤネたんがそういうのなら私はもう何も言いませんが、私も前線にでる武器なのでせめて一緒に戦わせてください...。」
「お、お願いします...。」
未だにさっきのことが頭にチラついてルーナさんの顔を直視できない。特にあのぷっくりとした唇...。柔らかそうだった──って何言ってるの!?私には...!私にはすずがいるんだから...!!
「ビュルル──!!!」
「ぁぁぁあああ!!!!」
───ズパンッ!!
タツノオトシゴみたいな空に浮いてる1mぐらいの魔物を切り裂く。
「すぅーはぁー...。」
「...す、凄い剣幕でしたけど大丈夫ですか...?」
「はい。もう大丈夫です。...ちょっと雑念を払ってました。」
「???」
「ビュルルル!!!」
「ッ!」
───ガガガンッ!!
「はぁッ!」
──グシュッ!
「ビュルルル..ル、ルル...!!」
───ドサッ...
ルーナさんも背後から襲いかかってきたタツノオトシゴみたいな魔物の連続攻撃を両手で持ったメイスで防ぎ、カウンターとして相手の頭を思い切り振り抜いていた。
「あ、鑑定を忘れてました...。」
「そういえばそうでしたね...。お願いできますか?」
「もちろんです!《鑑定》。」
ルーナさんは《鑑定》を持っていないらしいので、私が代わりに鑑定する。死んだ魔物でも鑑定できるのはすこし有難い。
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【名前】ノトシゴLV.49 状態:正常
【弱点】目
【苦手属性】土、大地
【説明】基本的に海の浅瀬で良く見る体長約1mのタツノオトシゴ型の魔物。大きく開いたままの口からは超高圧の水のビームが飛び出てくるため、注意が必要である。また、近距離戦にも適性があり、ヒレから繰り出される連続斬撃は人の首を容易く刈り取れる。
HP:4012/4012
MP:3418
STR:452
VIT:741
DEF:328
AGI:1283
INT:2089
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『鑑定LV.✩1→✩2になりました』
「魔法が強いタイプのモンスターですね...。それにスピードも速いので翻弄されると一瞬で死にます。」
「なるほど...。ありがとうございます。ここからはもう少し慎重に行きましょうか。」
「はい。」
私たちはもう少し慎重に進むことになった。本当にこの奥に天獄の章が求めるものがあるんだろうか?ただ単に通行規制してたのを止めたかっただけ...?いや、それは無いな。シュリはそんな雰囲気じゃなかったからね。
だとしたらやっぱりこの奥に...?
まだ私たちの探検は始まったばかりだ。




