第八話 辺境都市へ向かっているけど、これからどうしよう
「すっごかったねぇ。『召喚魔法』だけでも結構珍しいのに、まさかのユニーク召喚だなんてぇ」
「本当に! ウチらも範囲攻撃が出来ないことは自覚していたけど、今回はとんだピンチだったよ」
危機的状況が一段落して、道がわからないという才を連れて歩き出した二人の女冒険者は、口々に才を褒め、いかに危なかったかを語る。
「あ、その、ボクの方こそ街の方角がわからなかったので案内してもらえて助かります」
照れた才が改めて言った言葉に、二人の内の剣士の方が赤いショートカットの髪を軽く揺らして首を傾げた。
「それはいいけど……、どういう状況? 冒険者……にしては格好がきれいだけど」
いわれた才が自分の服を見下ろして、少し驚いた様子を見せる。旅装束とはいえ貴族の名に恥じない程度に華美な服には、土や砂で多少汚れてはいるものの、大きな破れやほつれが見当たらないからだった。
というのも、才には奈落へと落とされた記憶はまだついさっきの事としてはっきり覚えている。不思議な体験をしたあの底へとまっすぐ落ちた訳では無く、滑ったりぶつかったりとおそらくは服の方も無事ではないような状況のはずだった。
「えと、ボクはネレイダに住んでいて……あ、住んでいたので、この辺がよくわからなくて。冒険者でもなくて学校を卒業したばかりで……」
自己紹介をしようとするものの、最悪の形で追放された実家のことを避けて説明しようとするために、才はしどろもどろとなってしまう。卒業後の職も、才は姉である雫の診療所を手伝うことになっていたが、その診療所も結局は藤堂の家が経営するものであるために、うまく言えずに口ごもってしまった。
「なんか訳ありっぽいね……。あ! 自己紹介してないよね、ウチはななみ、木崎那波だよ。それでこっちの子が――」
「あたしは外山美羽だよぉ。みうって呼んでいいからねぇ」
「あ、じゃあウチもななみで!」
才は気を使う意図に気付いて恐縮するものの、それ以上に単純に姦しい二人に気圧されて、先ほど落ち込みかけた気分も忘れて狼狽する。
「はい、えと、じゃあみうさんと、ななみさんで。ボクはとうど……、あ、じゃなくて、国木……、国木才です」
勢いに呑まれるように名乗ろうとした才だったが、そのことで再び自分が既に“藤堂”ではないことを自覚して、暗い表情でとっさに国木と名乗っていた。それは藤堂の家に引き取られる前の姓で、才が生まれ育った孤児院の名前でもあった。
一方でさん付けされたことに不満そうな那波と美羽は、小声で「呼び捨てとか“ちゃん”とかでいいのに」と言い合っていた。しかしひどく暗い表情をする才の様子に慌て、その後はとってつけたように向かう先――辺境都市ガットムの観光案内じみた紹介を空々しくしながら歩くのだった。