第五十一話 絶望の湖畔、とか呼ばれているらしい
「絶望の湖畔?」
依頼の行き先について話を聞いていた才は、なんともものものしい言葉に思わず聞き返していた。
「そう呼ばれているらしいよぉ、ネージ湖のほとりってぇ」
ギルドで野谷から依頼を受けたあと、一晩が経って朝になっている。複雑な準備を必要としないモンスター掃討ということで、才たち三人はさっそく依頼された場所――ネージ湖付近――へと向かっているところだった。
「サイもまったく聞き覚えないような場所なの?」
首都近辺には住んだことのない那波と美羽はそろって不思議そうな顔をしている。ネージ湖は地図で見る限り首都からそう離れた場所ではなかった。
「ネージ湖っていう名前は聞いたことあるけど、それだけかな。そこに何かあるなんて噂はなかったはずだけど……」
ただそこに湖がある、それだけが才の知るネージ湖であり、そして大半の首都住民も同じだった。
「街の外ならモンスターで危ないのは常識だし、冒険者ギルドとかが対処してるから強いモンスターがいることも問題になってないんだろうね」
那波が依頼内容を思い返しながら口にする。しかし当然三人の中では共通した引っかかりがあった。
「本当に何者だろうね、その住人って」
才は素直に疑問を浮かべ、那波も同調してうなっている。しかし美羽だけは顎にその細い指をあてて、思案している様子だった。
「んー、何となく、予想はしているけどぉ……」
「え、誰だと思うの?」
美羽の言葉に那波が素早く反応して興味を示す。しかし聞き返された美羽の方は眉間の皺を深めてますます考え込んでしまう。
「……、やっぱりやめとくねぇ。予想であれこれ言うことでもないしぃ、ごめんね」
「そっか」
「まぁ、どちらにしろこれから会う予定だから」
結局その予想を口にはしなかった美羽だったが、那波も才もそのことはさほど気にしなかった。問い詰めるほど気になる訳ではないということもあるし、また美羽であれば必要性があるなら言うだろうし、言わないのはそういうことだろう、という信頼感からでもあった。