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第五十話 気を取り直して今は頑張ろう

 遠目に藤堂(とうどう)厳治(げんじ)を目撃した(さい)の動揺はすぐには収まらず、結局何もせずに一日が経過していた。そして首都ネレイダ冒険者を再び訪れた才たち三人は、ギルド長である野谷(のたに)と改めてギルド長室で向かい合っていた。

 

 「……?」

 

 時間が経って表向き平静を取り戻した才を、野谷はその迫力のある相貌でじろりと観察する。何か感じ取るものはあったようだが、それを詮索することはなく老人は手もとの書類へと視線を戻した。

 

 その状況に配慮へのありがたさと居心地の悪さを感じた才は、わざわざ口に出す訳にもいかず小さく身を揺らす。しかし一方で、このやり取りで野谷の方へと改めて意識が向いて、昨日の出来事からは少し気がそれたようでもあった。

 

 「ふふ……」

 「へ?」

 

 実際に昨晩までと比べると、普段の調子に戻ってきている才を、美羽(みう)は微笑んでみる。が、見られた方の才は急に暖かく微笑まれたことに戸惑うのだった。

 

 そしてそれを見た那波(ななみ)ももう大丈夫と安心して、ちょうど再び顔を上げた野谷へと視線を向けた。

 

 「それで、具体的には何をすることになったんですか?」

 

 普段通りに明るく溌溂とした印象ながら、年齢的にも立場的にも目上の野谷を前にして丁寧な態度の那波から聞かれて、野谷は説明のために口を開く。

 

 「そうじゃな、簡単に言えばモンスターの掃討じゃ」

 

 さっぱりとした口調でそれだけ告げられて、聞いた那波は美羽、才と続けて目を合わせる。そして改めて那波は野谷を見ると、素直に疑問を投げることにする。

 

 「簡単に……ということは、それ以外に何かあるんですか?」

 

 少しの警戒感を滲ませて聞いた那波だったが、しかし聞かれた方の野谷は驚いた表情を見せた。自分の言葉の受け取られ方が意外だ、という風情だった。

 

 「いやいや、それほど複雑な話ではない。中位への推薦を見極めるという話じゃからの、単純にそこのモンスターは強いということじゃ」

 「「あぁ」」

 

 納得したように、あるいはほっとしたように那波も美羽もそろって声を漏らす。

 

 しかし才には、二人とは違って少し引っかかるものがあった。

 

 「えと、この首都の近くに、そんな危険なモンスターがうろついているんですか?」

 

 首都というだけあり、この街には冒険者以外にも強大な戦力はいくつもある。国軍の主要戦力に街内を守る衛兵隊、そして藤堂家のような貴族家もその一角だ。さらにいえばネレイダ王国の中心である首都のすぐ近くに、それほどの脅威が放置されているというのも、かつてこの街の住人だった才からすれば寝耳に水だった。

 

 「そこは少し特殊な場所でのう、普段はそこに住んでおる住人が対処しておる。しかしその方に頼ってばかりでもいかんし、冒険者ギルドとしても定期的に中位や上位の冒険者を派遣しておるのじゃよ」

 「そんなに強いモンスターをですか」

 

 才は素直に驚いていた。中位や上位を選んで派遣するということは、日暮れ洞の時のような厄介なモンスターか、あるいは単純に強いモンスターがいるということだ。そしてその住人というのはそれらを日常的に駆除できるような強者だということが示されていた。

 

 「その住人の方はぁ、引退した冒険者ってことですか?」

 

 強い、ということからの美羽の推測に、しかし野谷は首を振って否定した。

 

 「違う。その方は……、いや、それは直接会って確かめればよいことじゃ」

 

 首都の冒険者ギルド長という要職にあるこの老人が丁寧な態度をとる相手に、推測を否定された美羽は思い至り始めていた。とはいえ今それを追求することに意味はなく、正に野谷の言う通り会って確かめればいい事だと、一つ頷いて美羽は自身の内心で納得した。

 

 そしてやり取りを見ていた那波が場をまとめようと口を開く。

 

 「つまり、指定される場所に行ってそこのモンスターの掃討。あとは住人の方の様子を見て帰ってくればいいってことですね?」

 

 やるべきことを簡潔に聞き返した言葉に、野谷は一瞬反芻して思考するような間をとってから、大きく頷いた。

 

 「そう、それが依頼内容で、ワシが国木(くにき)君を見極める試験内容ということじゃな」

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