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第四十四話 決意表明、という形で自分に言い聞かせよう

 数日の後、(さい)はパーティの仲間である那波(ななみ)美羽(みう)とともに馬車の中にいた。乗合馬車だが偶然にも空いていたらしく、箱馬車の壁を隔てた先頭に乗って手綱を持つ御者以外には同乗者はいない。

 

 「改めてだけど、ななみさんもみうさんも一緒に来てくれてありがとう」

 

 才が対面に座る二人からやや視線をずらして言うと、那波と美羽は顔を見合わせて小さく笑う。それは「言うと思った」という苦笑であり、才が相変わらず「律義だ」ということへの好感でもあった。

 

 「一応言っておくけどぉ、メンバーの昇格のためにパーティが行動するのは普通だよ?」

 「そうそう、報酬交渉とか受ける依頼の幅とかで有利になるからね」

 「……はい」

 

 気を使われている部分は感じつつも、先輩冒険者からの言葉に才は素直に頷く。

 

 「(けど……)」

 

 しかし、それで才の気が晴れるということでもなかった。そもそも才の心中を覆う暗く重いものは仲間への遠慮などではない。

 

 「やっぱり不安?」

 

 努めて優しい声音で尋ねた美羽に、才は無言で一つ頷いた。口数の少なさもだが、遠慮しがちな才がここで素直に認めたことに、普段より弱気な状態がみてとれた。

 

 「けど、大丈夫だよ。別に直接あの家に乗り込むって訳じゃないし、……それに気になってることもあるし」

 

 才は十歳までを過ごした国木(くにき)孤児院のことを思い浮かべていた。それは藤堂(とうどう)家を追放された才にとって、今も素直に実家といえる場所であり、そして首都ネレイダに一度は戻らねばと思わせる気がかりだった。

 

 「(藤堂の……ご当主がわざわざボクのことを伝えるとは思えないし、もし伝えたとしてもきっとそれは死亡通知だ。お世話になった先生たちや、それに花梨(かりん)にボクが離れた場所で冒険者として元気にやってるって伝えないと)」

 

 物心ついた頃からの育ての親たちや、一緒に育った妹分への義理ではなく、それは実のところ才にとって縋る行為だった。本人に自覚はなくとも、これまでの人生全てを否定された奈落の遺跡での出来事を、過去の自分をよく知る誰かにこそ否定してほしかったのだった。

 

 「サイ……」

 「さい君……」

 

 そんな本人すらうまく自覚できていない才の不安定な様子を、しかし那波と美羽はうすうすと察してもいた。だからこそ、安易な励ましを言えなくなってしまう。

 

 しかし、短くはあっても激動だった最近の日々と、文字通りに人生を変えた冒険者としての経験から、才もただの弱気な少年ではなくなっている。

 

 「大丈夫だよ」

 

 やや苦笑ぎみに、才が先ほどの言葉を繰り返す。今度ははっきりと那波と美羽へと向けられたその視線は強く、眼差しには決意が籠っていた。

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