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第四十話 ひとまずこれで安心かな

 大きな溝状の地形内には、点々とファングウルフのアイテムである狼牙(ろうが)が落ちている。

 

 「あっさりと押し切った……」

 

 自身も奮闘していた式山(しきやま)が呆然と呟く。実際にどの程度の苦労を感じたかなど本人にしかわかりえないことではあるものの、少なくとも内藤(ないとう)や式山たちパーティからは、仮面の召喚ゾンビを従えた(さい)が数の多さをものともせずにファングウルフを蹴散らしたようにしか見えなかった。

 

 「はぁ、はぁ……、お疲れ様、ジェイさん」

 「じぇ~」

 

 さすがに大きく息を切らせて疲れた様子を見せている才が、ジェイへと近づいて槍を返しながらねぎらいの言葉をかける。声を掛けられたジェイの方はというと、ゾンビであるからか、あるいは召喚獣であるからか、疲労している風には見えない。

 

 「あら、もう終わったのね?」

 「「「「っ!?」」」」

 

 声に驚いて式山たちが肩を大きく震わせる。一方ですぐ後ろから声を掛けられた才の方は、慣れたのか驚いた様子ではなかった。

 

 むしろ驚かなかったことに若干の不満をにじませる貞子(ていこ)に、才は苦笑いを浮かべる。

 

 「うん、数が多くて大変だったけど、キングモンスターみたいな厄介な個体はいなかったしね。貞子の方は何かあった?」

 「ええ、この状況を作った犯人を、ね?」

 

 貞子の思わせぶりな言葉に才は不思議そうな表情をする。当然その犯人が思いつかなかったからだが、その答えは才とは違う方向から声があげられる。

 

 「そうだ! あんの野郎!」

 「鍋川(なべかわ)を捕まえてくれたの!?」

 「あいつは許さん!」

 

 怪我をしている内藤だけではなく、彼のパーティメンバーたちも一斉に気色ばんだ。

 

 「あの鍋川っていう人が……?」

 

 才からの質問に、式山が一つ頷いてから口を開く。溢れそうになった激情を一旦飲み込んだ様子だった。

 

 「そう、協力しようとかなんとか言って近づいてきてね、こっちが油断したところで禄人(ろくと)をここに突き落としたの。そしたらあいつの仲間っぽい剣を二本差した奴がファングウルフを引っ張って走り込んできて……。それで国木(くにき)が来てくれた時の状況になったんだよ!」

 

 初めは突き落とされたという内藤を心配気に見ながら話していた式山だったが、話すうちに記憶とともに怒りが再燃してきたようで最後は語尾も荒くなっていた。

 

 「それで、鍋川は?」

 

 熱くなる式山を他の仲間がなだめている間に、彼らパーティ内では一番冷静な様子の男が要点を改めて貞子へと質問する。

 

 「そうね……“無力化”して、その後は近くで見ていた監督役の上位冒険者に押し付けてきたわ」

 「監督役? あの受け付けの近くにいたベテランっぽい人たちだよね? 森の中にも入っていたんだ」

 「そうみたいね、様子を見るためにあちらこちらを見て回っているみたいよ。運の悪いことにこの近くには居なかったようだけれど……」

 

 森に隠れて監督をしていた上位冒険者にあっさりと気づいていた貞子に才は感心する。が、他の面々はそれよりも貞子の言った“無力化”のニュアンスに不穏さを感じて頬を引きつらしていた。

 

 「とにかく、一旦運営本部に帰りましょうか」

 「ん、一緒に行ってくれるのか? こっちは俺がこの有り様だから助かるが……」

 「ええ、このことの報告もあるし、ボクらはどちらにしてもそろそろポイントを換算しに行きたかったので」

 「あ、そうなんだ。私たちは一回ポイントにしてきてからは木札は見つかってないけど、もう今回は終わりかなぁ」

 

 式山の言葉を聞いて少し暗い表情となった内藤を、他のメンバーたちが肩を小突いて励ます。言った式山の方も、攻めている意図ではないことは傍目にも明らかで、純粋に怪我をした内藤を心配している様子だった。

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