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第三十七話 ボクにできることをしなきゃ

 「くっそ、すまんみんな!」

 

 負傷したらしく腕と脚から血を流す内藤(ないとう)がくやしい内心を言葉にして吐き出す。

 

 「――っ!」

 

 声を聞きつけ、大きな溝あるいは小さな崖のようになっている場所を(さい)が見下ろすと、危機的な状況が目に入ってきた。

 

 競技の開始直後にも会話をした内藤や式山(しきやま)たちのパーティが、離脱の容易ではないその地形の中で複数のモンスターに襲われていた。しかも負傷している内藤を守りながらの終わりの見えない防衛戦にかなりの疲労も見られる。

 

 「(あの様子だと結構長い時間戦っていた……? 急いで助けないと)」

 

 即応を決意した才が視線を巡らせると、後方についてきていた貞子(ていこ)は何か別の方向を気にしている様子だった。

 

 「才は助けにいくのね?」

 「うん、もちろん」

 「そう、私は気になることがあるからここで警戒に残るわね。ジェイなら蹴散らせると思うけれど、油断はだめよ?」

 「ありがとう、気を付けるよ!」

 

 それだけやり取りをしてから、才は比較的傾斜の緩い部分へ駆け寄り、ひと呼吸おいてからそこへ足をかけて滑り降りていく。

 

 「ゾンビ召喚!」

 「国木(くにき)っ! あんたも落とされたの!?」

 

 才の声に気付いた式山が大きな盾でオオカミ型のモンスターを受け止めながら声をあげた。

 

 「ファングウルフがあんなに!?」

 

 式山の言葉の内容には引っかかるものがあったものの、それ以上に目前の脅威――つまり大量のファングウルフへと才は意識を向ける。上からでは全容は見えなかったが、崖下には数えきれないほどのモンスターがひしめいていた。

 

 「ジェイさん、すぐに!」

 「……ぃぃぃいいじぇぇぇいっ!」

 

 焦る才の言葉に呼応するように、式山たちにとっても聞き覚えのある声が響く。それがどこからか気付くと同時に、上空から降ってきた巨体がファングウルフの群れの中ほどへと着弾した。

 

 「ギュアィン」

 

 着地のうまさ故か思ったほど大きくはない音で、少しだけ砂を巻き上げてジェイが降り立つと、ついでとばかりに数体のファングウルフが吹き飛ばされて悲鳴をあげる。

 

 空中から地面へと落ちることなく消滅していくファングウルフを見て、追い詰められていた冒険者たちの目にも希望と力が湧いてきていた。

 

 「ありがとう、本当にすまんっ、国木! 何度もっ」

 

 負傷して満足に動けない内藤が、涙すら滲ませて才へと感謝を向ける。

 

 「大丈夫」

 

 才は短い言葉と、安心させるような力強い笑みを内藤にみせると、すぐにモンスターへと向き直った。

 

 内藤を囲んで守る式山たちと、才の位置には少し距離があり、そのちょうど間にジェイが着地していた。小さな崖で覆われたその窪地は、それ以外ほとんどがモンスターで埋められている。

 

 「ジェイさん、それっ!」

 「じぇっ」

 

 降り立ったジェイは右手に何度か見た斧を、そして左手には簡素な槍を持っていた。才が呼び出しながら「もし可能ならば」と願った装備そのものだった。

 

 そして才からの呼び掛けに意図を読み取ったジェイは、小さな動作で左腕を振り、槍は山なりに才の元へと投げ飛ばされる。

 

 「よしっ、下位冒険者国木才、参戦しますっ!」

 

 気合いを入れるために名乗りを上げた才は、今にも飛び掛かろうとするファングウルフをけん制するように、受け取った槍を大きく振り回して構えたのだった。

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