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第三十六話 不穏な流れになってきた

 (さい)は召喚獣のゴーストである貞子(ていこ)とともに森の中を移動し、場所が変わるごとに周囲を貞子が探索、モンスターと遭遇した場合はこちらも召喚獣のゾンビであるジェイを呼び出して対処、という行動をしばらく続けていた。

 

 「もう二、三時間は経ったよね。ちょうど日が真上くらいだ」

 

 探索中の貞子を待つ才が、確認するために独り言を口にする。

 

 「そろそろ一回戻って点数の換算をした方がいいかも」

 

 貞子が一度探索から戻るたびに増えていく木札は既に二十五枚に達していて、点数でも四十八点となっていた。その殆どの木札が二点札で、三枚が一点札、そして一枚だけが三点札。

 

 おそらくはわかりやすいものが一点、隠されたものが二点、より厳重に隠されたものが三点なのではないかと貞子からの話を聞いて才は推測していた。一点札はおそらく先行した冒険者たちにほぼ取りつくされていて、一方で三点札は探すとなると貞子の能力をもってしても時間がかかり過ぎてしまうようだった。

 

 「あ、おかえり」

 

 才が確認していた木札をしまったところで、ちょうど貞子が戻ってくる。

 

 「ええ、ただいま。この辺りは木札が少ないようね、探索した形跡もなかったけれど木札も殆ど見つからなかったわ」

 

 そういって貞子は二枚の三点札を才へと渡す。

 

 「(でも二枚は見つけたんだ……)」

 

 呆れに近い感心をしながら木札をしまった才は、いったん戻ることを提案しようと口を開く。

 

 「三点しかないってことは、貞子の言う通りこの辺はもうあまりなさそうだし、一旦――」

 「うわわああぁ!」

 

 しかし才の言葉は男の悲鳴によって遮られた。

 

 才が声の方へと顔を向け、貞子は一歩前へでて厳しい視線で探る。

 

 叫びながら茂みから飛び出してきたのは二十歳くらいにみえる若い男だった。左右の腰に一本ずつロングソードを差しているが、今は何かから逃げているようだった。

 

 「ど、どうしたんですか!?」

 

 才と貞子の姿に驚いて足を止めた男に向かって、才が戸惑いながらも状況を尋ねた。しかし貞子は明らかに警戒を強めていて、それを横目で確認した才はそちらにも戸惑いを感じる。

 

 「お、おおお、お前もすぐに逃げろ! あっちはやばい、きっとあいつらはもう助からねぇよ!」

 

 男は自分が走ってきた方向を必死で指さしている。

 

 「(何か……問題? いや、“あいつら”って、誰かが危険にさらされているってこと!?)」

 

 状況を整理した才が、できるならば助けにいこうと提案しかけたところで、ここまで黙っていた貞子がさらに一歩、男の方へと近づいた。

 

 「あの不快な汚物……鍋川(なべかわ)だったかしら?――と、一緒に歩いていた男よ。受け付けのところで見たわ」

 

 貞子が視線をまっすぐに男へ向けつつも、才へと情報を伝えてくる。受け付け時には同行していなかったはずの貞子からの言葉に閉口しつつも、才は自分なりに状況を整理し始める。

 

 「そういうことなら色々と疑いたくなる気持ちはわかるけど……、でも何かあるなら放ってはおけないよ」

 「いや知るかよ。俺は逃げろっていったんだ!」

 

 最後にそれだけ言い放って、男は才たちの背後、元々男が向かっていた方向へと走り去っていく。その横顔に浮かぶ汗は、走ったからか、“あっち”にあるという危機への恐怖か、それとも貞子から疑われたことへの焦りか、それは才には判断がつかなかった。

 

 「とにかく……、様子を見に行こう」

 「わかったわ」

 

 男の足音も聞こえなくなってから、才は改めて方針を告げる。貞子もそれ以上何かを言い募るつもりは無いようで、ただ同意を示したのだった。

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