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第三十三話 始まってすぐに大変な状況みたい

 「とりあえず、ここにいても仕方ないから移動かな」

 「そうね……」

 

 (さい)貞子(ていこ)の背中へ声を掛けると、一瞬だけ悩むような素振りを見せる。

 

 「とりあえず、あれに対処しておいてもらえるかしら、私はちょっと行ってくるわ」

 「あ、うん。で――」

 

 才が「でも行くってどこに、何をしに?」と口にする間も無く、貞子は横に逸れて木々の濃い方へと踏み入っていく。そして目前から貞子がいなくなった才の視界には、遠くからこちらへ駆けてくる何者か――貞子の言った“あれ”――が見えた。

 

 「あ、もうあんなに遠くまで行ってたんだ、他の人たち……」

 

 どこかずれた感想を口にする間にもその姿は近づいてきており、貞子はというと才とジェイを信頼してか既に姿は見えなかった。そして才にもはっきりと視認できるようになったそれは、他の参加者である下位冒険者だった。

 

 人数は四人のチーム上限数で、その内の二人の顔には見覚えがあったために、才はすぐに他の参加者だと判断できた。

 

 「集合場所についた時に少し話した人たちだ」

 

 才としては少しとはいえ年上であろう相手から憧憬を向けられるのはくすぐったくはあったものの、とはいえ好意的な印象が残っていた。明らかな厄介ごとを避けるために競技上の判断としてさっさと逃げるというのは頭を過ぎったが、しかしその印象故に才はその場に踏みとどまった。

 

 「ゾンビ召喚!」

 

 才が張った声に反応して、逃げてくる四人の目が向けられる。

 

 「国木(くにき)逃げろ! あれはやばいっ!」

 

 知った顔の二人の内男の方が必死の表情で叫んだ。全力で走りながらそれだけ声を出せるのはかなりの体力があることを窺わせた。

 

 そして一人を除いて叫ぶ余裕も無く冒険者たちが追い立てられる相手、その姿が才にもはっきりと見えてきた。

 

 「あれは……」

 

 緑の肌をした小鬼型のモンスターであるゴブリン。ただし“小鬼”という分類上よく使われる呼称が冗談に聞こえるほど巨大で、追われる冒険者たちの倍は背丈があり、厚い筋肉が遠くからでも確認できた。

 

 ――ゴブリンキング。それはまれに発生する強力かつ統率力を持ったゴブリンの上位個体だった。

 

 「はぁっ、はぁ、はや、早く逃げなって!」

 

 続けて知った顔のもう一人、女の方がいよいよ切羽詰まった表情で言った。ゴブリンは冒険者にとってはなんて事のない相手だが、キングモンスターというのはそれほどに恐ろしい存在だった。

 

 「もう召喚したから、大丈夫っ!」

 

 安心させようという意図もあり、意識して普段より強い口調で才は返した。

 

 「は?」

 

 だがその意図を瞬時に推し測れるものではなく、先頭を走って才の元まで辿り着いた男はやや苛立ちながらも才を引っ張っていこうと腕に手をかけた。

 

 少し遅れて辿り着いた他の三人も、足を止めて息を整えながらもすぐにまた走り出せる体勢は崩さない。

 

 そして走ってきた四人が、余裕のある才の態度に焦りを感じて、状況を確認しようと振り返ったところでそれに気づいた。

 

 「ゴブリンキングが……、止まって……?」

 

 彼らのすぐ後ろを追ってきていたはずの巨大なゴブリン種のキングモンスターは、少し離れた場所でなにやら必死で暴れていた。こちらを追うことはなく、目線も足元に向いている。

 

 「大丈夫、ああいう相手ならジェイさんは負けないよ」

 

 再び“大丈夫”と繰り返した才は、腰に差した短剣を抜くこともなくゴブリンキングの方を見据えていた。

 

 突如としてぼごんと鈍い音が森に響く。

 

 ますます理解が追い付かず首を傾げ始めた面々の視線の先で、ゴブリンキングの足元の地面が爆ぜた音だった。

 

 「じぇ~」

 

 その爆ぜた地面からはがっしりとした体躯の白い仮面をつけたゾンビ、ジェイが飛び出してくる。

 

 先ほどまで掴まれていた足が解放されたことでゴブリンキングは一歩離れて体勢を立て直したが、目の前に現れたジェイを無視することはできないようだった。

 

 「あ、そっか、ギルド長と渡り合ったあの……」

 

 そんな呟きが才の耳へと聞こえてくる。必死で逃げていた彼らは、つい先日見ていた才の『召喚魔法』のことは焦るあまりに思考から抜けていたようだった。

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