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第二十九話 競技会ってわくわくする響きだ

 「さて、それは置いておいて、だ」

 

 そこで大同(だいどう)が声を明るくした。急な雰囲気の切り替えに(さい)はもちろん、重い話に同情したり理解できない言葉に困惑したりと気持ちが揺れていた那波(ななみ)美羽(みう)もついて行けずに目を見合わせている。

 

 「国木(くにき)に提案なんだが、ギルド主催の競技会にでないかい?」

 「きょうぎかい……?」

 「あー、あれか」

 「でも今さらねぇ」

 「木崎(きざき)外山(そとやま)は中位だから無理して出なくていい。あれは下位向けの催しだからね」

 

 競技会というもの自体を知らない才をよそに会話が進む。しかしこの時点で競技会について、那波と美羽は興味があまりないことと、下位冒険者向けであるということは才にもわかった。

 

 「あの、それってどういうものなんですか?」

 

 とにかく競技会が何かがわからなければ何も判断できないと、才が根本的な質問を挟む。

 

 「毎回色々なルールで冒険者同士が競うってイベントだよ。一応商品はでるが大したものではないし、あくまで冒険者の交流とギルド側が実力を把握したいってのが目的だね」

 

 大同が殊更に軽い調子で説明するのを聞いて、才も少し肩から力を抜く。

 

 「(一瞬何か大事に巻き込まれるのかと思ったけど、よかった……。まあ考えてみたらボクって全然新人の駆け出しなんだし、まずは慣れろてことかな)」

 

 才の様子をみて笑みを深める那波が、隣から軽く肩を叩いてくる。

 

 「他の冒険者の動きとかも見れるし、でてみよっか?」

 「何かあってもあたしたちがフォローしてあげるしぃ、気楽に楽しめるねぇ」

 

 二人からの言葉を聞いて、一つ頷いた才が口を開こうとする。が、それより早く大同が口を挟む方が早かった。

 

 「あぁ、いや、さっきは無理して出なくていいなんていったけどね、あんたらはむしろでるな」

 

 突然手の平を返す大同に、那波も美羽も動きを止めて二度三度と瞬きを繰り返す。表情からも「なんで?」という声が聞こえる程にわかりやすく戸惑っていた。

 

 「競技会なら安心して別行動できるだろう? 桐島(きりしま)の奴から伝言だよ“お二人の出すべき書類の蓄積は許容限界の寸前です”ってな」

 「うっぐ」

 「うえぇ」

 「書類、ですか?」

 

 大同から伝えられた桐島の伝言に、那波と美羽は呻く。一方で才はまたも出てきた疑問に首を傾げる。

 

 「大体の事務処理はギルド側でやっておくんだけどね、冒険者活動をする中で冒険者側で出してもらわないといけない書類もあるんだよ。とはいえ大した量じゃないよ、ため込まなければ、ね」

 

 途中まで才へ向けてギルド長の顔で説明していた大同が、最後の部分だけ一語一語を強調するようにして那波と美羽を順に見て言った。苦笑いする美羽と頭を抱える那波の様子からすると、随分と“ため込んで”いるのが才にも一目で理解できる。

 

 「その間さい君が暇してるのももったいないから、ってことかぁ」

 「そうだよ」

 

 確認するように呟いた美羽と、それに被せて即答する大同を視界に入れながら、才が口元に手を当てて考え込む様子をみせる。

 

 「……」

 

 ふと才が顔を上げて思考から戻ると、気付けば皆が落ち着いた表情で才を見ていた。才の考えを尊重して決断するのを待ってくれていたことに、気を使いつつも嬉しさを感じて才は口元を綻ばせる。

 

 「参加して……、みたいとおもいます」

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