第二十七話 認めてもらえたってことでいいのかな
つい先ほどまで周囲のことなど目に入らないかのような打ち合いをみせていた大同とジェイは、実際はちゃんと把握していたらしく悠然と歩く貞子を見て手を止めている。
ジェイはただ状況を見て手を止めただけという風情だったが、大同の方は多分に戸惑いを含んだ表情で、困っているようにも悩んでいるようにも見える。
「ええっと……、その、勝手にケンカとかしたらだめだよ、貞子」
「ごめんなさい、才を悪く言われてどうしても我慢ができなかったの」
「ボクのために怒ってくれたのはうれしいよ、ありがとうね。……、でもスキルを行使してなかったのに、どうしてここに?」
「…………不思議ね?」
探るように、あるいは遠慮がちに、才は『召喚魔法』を使っていないのに貞子が出現している理由を問うたものの、当人は露骨にはぐらかして答える気はなさそうだった。
そこまで黙って聞いていた大同が、才へとしっかりと目線を向けて声を掛けようとする。油断はしていないにしても、もはやジェイに対しての戦闘態勢は解いているような力の抜けようだった。
「そいつも国木の召喚獣ってことであってるかい?」
「え、あ、はい。そうです、貞子っていいます」
多少あたふたとしつつも明確に肯定した才を見て、大同は小さくため息を吐く。
「なんで最初から二体呼んで攻撃させなかった? アタイは実力を見るから好きに戦えって言ったはずだ。手の内を温存してなんとかなるような相手だと思っていたかい?」
ほんの少しだが苛立ちを含む言葉に、才がさらに慌てて目の前で手を振って精一杯に否定の意思を示す。
「ち、違います! その、ボクは冒険者になりたてなんですけど、その、スキルにも慣れてなくて……」
「慣れてない? 何言って……、いや」
才の弁明を聞いた大同は左手を顎にあてて考え込む。誰でも十歳で開眼するスキルに、才くらいの年齢で“慣れていない”ということは率直に考えると不可解なことだった。スキルの扱える程度は個人差があるため、ろくに使いこなせないということはないことではない。しかし使えるのであれば使えるし、使えないのであれば使えない、という当たり前のことを前提とすると、才の言うことは普通ではなかった。
しかし普通ではないということはどこかで嘘をついてるか、あるいは相応の事情があるということが考えられる。そこまで考えて、少なくとも那波と美羽のことは以前から知っている大同はこの場で踏み込むべきではないと判断して言葉を止めたのだった。
「えと、それで、その……?」
そんな大同の懊悩を知る由もない才は、自分の側に原因があって中断している手合わせをどうすればいいのか困っていた。
「うん? ああ、手合わせはこれでいい。国木の実力はよくわかったよ、あんたたちも異論ないね?」
あっさりと終了を宣言した大同が、最後で声を張り上げて見学者たちの方へと確認する。圧倒的な強さのギルド長と互角に戦い、あげく正体不明の第二の召喚獣を衝撃的な展開で披露された面々は、もはや声も出せずにただ何度も頷く。
そしていつの間にか鍋川は己の粗相の痕跡を残して姿を消しているが、それを気にする者もいなかった。




