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第二十話 とはいえこれで初仕事を達成できた

 「ふう」

 

 日暮れ洞ダンジョンを出て、一階の非ダンジョン部分となる洞窟部からも外へと出た(さい)は、まだ夕方というには早い日差しに思わずほっとした息を吐く。

 

 ダンジョン内のモンスター討伐は完了したということで、才の『召喚魔法』による召喚獣ジェイと貞子(ていこ)はすでに送還してこの場にはいない。

 

 「これで完了ですよね」

 「うん、無事に終わりだよ……」

 「そうだねぇ」

 

 才の確認に、一緒にダンジョン調査依頼をやり遂げたパーティメンバーである那波(ななみ)美羽(みう)はすぐに肯定の返答をする。しかしその態度には引っかかるものがある、とやや鈍いところのある才にもはっきりとわかるほど歯切れの悪さがあった。

 

 「えと……、何かまだ問題が……? あ! それとも、もしかしてボクに冒険者としての問題がありました!?」

 

 不安がる才は、初仕事故の自信の無さから自己否定的な予測に至って慌て始める。しかしその反応を見た那波も慌てたようだった。

 

 「あ、ううん、違うよ。そういうことじゃなくて!」

 「さい君の問題といえば、そうなんだけどねぇ」

 

 ひとまず安心させようとしていた那波は、横から追い打ちの様に言葉を重ねた美羽にじとっとした視線を向ける。

 

 「あはは、ごめんごめん。えっとぉ、新人冒険者としてのさい君には何の問題もなかったよぉ。それどころかあたし達が助けられたくらいだし、むしろ頼りない先輩でごめんねぇ」

 「え!? いえいえ、そんなことないです、ななみさんの剣技はすごくて頼りなるし、みうさんの『治癒魔法』があるから安心して探索できた訳ですし」

 

 美羽の言葉を聞いて、先ほどとは違う慌て方で発された才からの素直な称賛に那波は照れくさそうに少し視線を外し、美羽も薄く頬を赤らめて嬉しそうに口元を緩める。

 

 「うんうん、お互い頑張ったってことだよね。けど……」

 「そうだねぇ、それとは別にパーティの“仲間”としてちょっと……」

 

 しかしその流れから一転して、那波も美羽も不満そうな表情を見せる。ただし深刻な空気ではなく拗ねるような、いってしまえば幼い子供のようなともとれる雰囲気に、才は戸惑う。

 

 「え、っと……何でしょうか……?」

 

 空気に耐えかねて聞いた才を、美羽が“びしっ”という擬音が聞こえてきそうな俊敏な動作で指差した。

 

 「それっ、その言葉遣いだよぉ! さい君って召喚獣にはもっと砕けた言葉遣いだったよねぇ」

 「丁寧な態度はサイの良いところだとは思うけど、もっと気安くしてもらいたいなって、ね。ウチらは一蓮托生のパーティメンバーなんだしさ」

 「あ……」

 

 重ねて言われた言葉を受けて、才は目を大きく開いて驚いた表情を見せる。確かにその丁寧であり遠慮がちでもある態度は、貴族の家の中で疎まれながら過ごした五年で身に染みついたものではあった。しかしそれ以上の壁を無意識に作っていたことに、才は指摘されて気付いた。

 

 そうなっても仕方ないと十分にいえる経験をしたばかりの才ではあったが、それは冒険者の仲間として命を預け合う二人に対していっていいことではない。誰より才自身が強くそう感じて申し訳なさと己の未熟への恥ずかしさから思わず俯いてしまう。

 

 「……」

 「……」

 

 しかし今も様々な感情に懊悩する才を黙って見守りながら待ってくれる“仲間”の二人に、才は改めて顔を上げて向き合った。その表情は照れくさそうでありながらも、目線はしっかりと二人の方へと向いていた。

 

 「えっと、ごめんね。……けど、うん、これからもっと打ち解けられるようにボクも頑張るから大丈夫だよ。……その、よろしくね」

 「へへっ、よろしく!」

 「うん、よろしくぅ」

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