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第十九話 話を聞いてますますわからない

 剣技に秀でた那波(ななみ)を翻弄したゴーストはあっさりと握りつぶされ、その腕はするすると下がって再び井戸の中へと消えていく。

 

 「……う、え?」

 

 完全に腕が見えなくなってから、井戸に近い位置にいた那波が呻く。

 

 「な、んだった……の?」

 

 それに続いて、顔色を青くした美羽(みう)が疑問と混乱を言葉にして絞り出した。自分へ向けられた質問だと感じた(さい)は、わかることだけを頭の中で整理しつつ、口に出していく。

 

 「その、ゴーストが召喚できるようになっていて……。ゾンビがジェイさんだったからユニークモンスターを期待したのは確かですけど」

 「ゴースト……、ゴーストかぁ……」

 

 才の言葉を聞いた那波は、“ゴースト”を繰り返して「あれが?」という意図をあらわにする。

 

 「手しか見えなかったですけど、あれは――」

 

 そこまで言いかけたところで、背中側の空気が動くのを感じた才は、続けて肩に置かれた手から伸びる白く細い腕の存在に気付き、喉が引きつって言葉に詰まった。

 

 「私は貞子(ていこ)。あなたの――そう、あなただけの(しもべ)よ、才」

 

 再び聞こえた美しく儚げな声は、先ほどよりも粘度を増して才のすぐ後ろから聞こえてきた。

 

 そして置かれた手の上から長い黒髪をきれいにとかした女性の頭部が現れる。角度と気配から才の頭一つ分ほど上から覗き込んできたらしいその顔は、才の中にあった恐怖感が吹き飛ぶ程に美しく整っていた。

 

 「きれい……」

 「こんなところで口説かれても困るわ、野次馬が見ているもの」

 

 思わず呟いた才の言葉に、血の気のないように見えた真っ白い頬を薄く赤らめてその女性――貞子は身をくねらせる。

 

 「いや誰が野次馬よ!」

 「特殊過ぎてどういえばいいかわからないけど、さい君の召喚獣らしいといえばそうなのかもぉ」

 

 状況に呑まれて絶句していた那波が思わず叫び、その声で調子を取り戻したらしい美羽はジェイと貞子を見比べながらそんなことを口にしている。

 

 「じぇ~」

 「あんたはなんで照れているのよ。ていうかこのむさくるしい大男と私をひとまとめにしないでちょうだい」

 

 頭を掻くジェイと、才の後ろからもたれ掛かるようにしたまま抗議する貞子を見て、才は軽く目を開いて首を小さく傾げた。

 

 「ジェイさんと貞子さんは知り合いなの?」

 

 『召喚魔法』スキルで呼び出したモンスター同士に対してその言い方が適切かは才にもわからなかったものの、そう聞きたくなる雰囲気は那波と美羽も感じていた。

 

 「じぇ」

 「さあ、どうかしらね」

 

 仮面をつけているジェイの感情が読めないのはもちろんであったものの、貞子の薄く笑みを含んではぐらかす言い回しからも、そこに込められた感情や意図は全く察せなかった。ただ少なくとも今は聞いても教えてはもらえないという事は、才にもはっきりと理解できた。

 

 「そんなことより、私にさんづけなんてやめて。貞子って、呼んでちょうだい、ね?」

 

 思わず遠慮しようとした才だったが、優しい声音ながら有無を言わさない圧力を感じさせる貞子に、思わず身を強ばらせながらもこくこくと頷いた。

 

 「う、うん、……その、て、貞子」

 「ええ、呼んでくれてありがとう、才」

 

 照れて詰まりながらも名を呼んだ才へと、貞子は覗き込んでいた顔を引っ込めて後ろから才を抱きすくめながら返した。その態勢では才から貞子の表情は見えなかったが、その声はこれまでで一番優しく暖かいように感じられていた。

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