第十四話 やっぱり何かいる……?
「ここがその入り口か……、ジェイさんお願い」
「じぇ~」
才の言葉を受けて、ジェイは白い材質の仮面をつけた顔を縦に振る。そして振り返って三人にその大きな背中を向けると、階段を下へと降りていく。この階段がある場所がガットム近くの洞窟である日暮れ洞の最深部であり、ダンジョン“日暮れ洞”の入り口だった。
「そういえば、前と装備違うよね?」
「……? あ、ジェイさんですね。なんかある程度選べるみたいなんです」
ジェイに続いて階段を降り始めた那波が呟くと、才は一瞬自分の服装を見下ろして不思議そうな顔をした後で、那波の目線を追ってその意図に気付く。今のジェイは前回の斧の代わりに、木板を粗雑に組み合わせた簡易で大振りな盾を左手に持っていた。
それを聞いた那波は適当な調子で相槌をうっているものの、最後尾で警戒する美羽は驚いた様子で声をあげる。
「選べるぅ!? いくつかの種類のモンスターを召喚できるのは聞いたことあるけど、バリエーションつけられるなんて初耳だよぉ」
「あー、そうですよね。ボクも驚いたんですけど、なんかできるみたいで」
「はえぇ……、すごいねぇ」
前代未聞であってもそれは自分が知らないだけで、目の前の事実を否定する根拠にはなり得ない。だから美羽は感嘆する以外に反応の返しようがなく、実のところ才にしても似たような心持ちではあった。
「そろそろいくよ」
「うん、進もうかぁ」
「あ、はい、ごめんなさい」
降りきったところで様子を窺うように足を止めていたジェイは、那波の号令をうけて再び歩き始める。
進みながら才は視線を忙しなく動かして辺りの様子を観察していた。
「(階段を降りてからは壁も床も人工的になった。曲がり角も多くはないし、規模は小さいダンジョンみたい)」
「さい君考えごと? もうすぐ中盤くらいになるし気を引き締めないとだよぉ」
「――っ! あっ、ごめんなさい、集中します」
才は知識の中のダンジョンと比較して、この日暮れ洞が聞いていた通り小さなものであると納得していた。大規模なダンジョンであれば内部でキャンプを張りながら何日何週間と時間をかける探索になるとされていることを考えると、少し歩いただけで半分近くになるというこの場所は相当に小規模といえた。
「じぇ!」
「うん、そうだね」
不意に先頭のジェイが低く鋭い声を出し、それに頷いた那波はちらと後方へ視線を向けてくる。
「やっぱりいるね、ここ」
「モンスターかなぁ」
「たぶんね」
戦槌を手に持ち、盾を構えなおして警戒感を高める美羽とやり取りをする那波が、右手を持ち上げてそこに視線を向ける。そして才は今になって違和を感じて驚いていた。
「え? ななみさん、剣は……?」
「気付いてなかったの?」
ゾンビの群れと戦闘しながらの初対面時には、那波はロングソードといわれる種類の剣を手にして戦っていた。しかし才は那波が腰に剣を差している姿を見ていないことに気付く。ゾンビとの戦闘で使い物にならなくなって捨てたのだとしても、今持っていないのはいくら何でもおかしかった。
「ほら、剣召喚!」
才に見せるようにかざされた那波の右手の掌中に、装飾のないシンプルなロングソードが出現して握られる。
「わ! すごい!」
「へっへー! すごいでしょ、広い意味だとウチもサイとスキルお揃いなんだよね」
那波のいう通り、それは魔法系スキルのなかでも『召喚魔法』に属するスキルで、武器や鎧といった装備品を呼び出すものだった。
装備召喚スキルはその強さに関しては当人の能力に依存する割合が大きいためモンスターを召喚するスキルより下に見られがちではあるものの、希少さではモンスター召喚と同等のものでもあった。
「ウチはスキルに開眼する前から体を動かすのが得意だったし、相性がいいんだよね。手入れも買い替えもいらないし」
「確かにそうですね、すごく冒険者向きというか」
ずぼらとも現実的とも受け取れる那波の言葉に、才は素直に称賛の視線で返す。後ろの美羽はやや苦笑いに近い表情を浮かべるが、那波のスキルを十全に活かした戦闘能力を知るために否定的なこともいえないのだった。




