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第十二話 力があるという事は怖い事なんだね

 「よし! そういうお話はこれまでにして、桐島(きりしま)さん、何かいい依頼ないかな?」

 

 暗い空気を払拭するように那波(ななみ)が声を張り上げた。

 

 「そうだねぇ、さい君の準備があるから、日を改めて行けるようなのを見繕っておきたいねぇ」

 

 美羽(みう)もにこにこと同意を示すと、桐島は近くの棚から書類を取り出して確認を始める。

 

 「木崎(きざき)さんと外山(そとやま)さんはお強いですが何せ二人だったので、これまで野外で最悪逃げることは可能なものばかり受けて頂いていましたね……」

 

 桐島が綴じひもを解いた書類を一枚ずつめくりながら、そんな呟きをする。那波と美羽がしみじみと頷いている様子から、(さい)はかなりの実力があるように見えたこの二人のしてきた苦労の一端を感じていた。

 

 「『召喚魔法』が使える国木(くにき)さんが入った訳ですから、ダンジョン探索を受けてみますか?」

 「お! いいね!」

 「うぅん……、規模によるかなぁ」

 

 桐島の提案に那波は快哉を上げ、美羽はというと少しの不安を見せていた。

 

 ダンジョンというのはつまりは古代遺跡のことで、まだ探索しきれておらず、内部にモンスターや罠の危険があるような、冒険者へ探索依頼が来る類のものを冒険者ギルドでは特にそう呼び習わされていた。

 

 ほとんどの場合が地下構造物の探索となるため、見通しが利きにくく、不意の撤退が難しい。それ故に腕利きであっても少人数のパーティはダンジョン絡みの依頼を受けることは少なかった。

 

 「日暮れ洞をご存じですか? そこの調査探索なのですが」

 

 桐島からの質問に三人とも疑問を浮かべる。とはいえ才と、他の二人でその意味は違っていて、才は単に聞き覚えがなかったからだが、那波と美羽にとっては良く知る故の疑問だった。

 

 「もちろん知っているけどぉ、……調査?」

 「あそこって確か中は地下に一層だけだよね? 表は近所のおばあちゃんが集まってお参りに行ってるようなところだし」

 「ええ、そうです」

 

 桐島の迷いのない肯定に、二人の思い浮かべた場所で間違いないことが確認される。日暮れ洞はガットムのすぐ近くにある洞窟で、内部に階段があって地下一階が遺跡となっている。規模が小さくモンスターも出ないので、洞窟のすぐ外には祠が建立され、広く信仰される神に仕える精霊への祈りの場となっていた。

 

 「実はつい先日、祠へ行っていた方から洞窟内部からモンスターの声がしたという報告が寄せられまして。現在は一時的に立ち入りを制限しています。しかし証言がそれだけの上に探索されつくしたダンジョンで実入りは期待できず、有力な冒険者の協力が得られない状況です」

 「あたし達は手ごろなダンジョン探索ができて、ギルドは積まれた仕事を消化できる訳ですねぇ」

 「えぇ……、ちょっとみうさん……」

 「そういうことです」

 「――!」

 

 美羽の身もふたもない言い方に思わず口を挟もうとした才だったが、面と向かって言われた当人の桐島は気にした様子もなく頷いた。そのやりとりに驚いている才ではあったが、つまりこういう実利的なやり取りこそが冒険者的なものであり、それに驚く才の感性こそが貴族的なものではあった。

 

 とはいえ、やや苦笑い気味に才の肩を叩く那波の様子から、この二人のそういう気質は特に際立ったものであることもまた察せられたが。

 

 「準備を整えてからにはなるけど、よろしくね、サイ!」

 「よろしくねぇ、狭い洞窟内だと“あの”頑丈そうな召喚獣は頼りにしてるよぉ」

 「あ、は、はいぃ……」

 

 那波と美羽から純粋に期待する眼差しを向けられて、才は嬉しさよりも怖さを不意に感じていた。

 

 それは才に染みついた自己否定的な気質であり、またスキルに開眼してから初めて感じる期待されることの重圧でもあった。

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