第十話 初めて来る場所に初めて会う人で緊張する
「ここがガットムの……?」
「そう、冒険者ギルドだよ」
レンガ造りの瀟洒な、しかし頑強そうな建物に入ったところで才が漏らした呟きに、一歩前にいた那波が振り返って肯定する。
「じゃあ早速登録だねぇ」
続けて美羽も振り返り、才へと嬉しそうな表情を見せる。自分がパーティ加入することを歓迎されていると感じた才は、嬉しさと気恥ずかしさから思わず目を逸らしてしまうが、那波と美羽はその仕草も好ましいという目線で見ていた。
「受付に……、お、桐島さんだー!」
入ってまっすぐ歩いた場所に設えられたカウンターの向こうには、よく整えられた黒い短髪で眼鏡をかけた男性が、何か資料を見ていたようだった。那波から桐島と呼ばれたその男性は、顔を上げてしばし才を観察する。
「こんにちは、そちらは?」
「あ、その、ボクは国木才といいます」
「どうもご丁寧にありがとうございます。自分はこのギルドの職員で、桐島健吾です」
問われた才がやや詰まりながらも丁寧に自己紹介をすると、好感を覚えたのか表情を柔らかくした桐島が名乗り返した。
きつい印象のある釣り目のうえにシャープな造形の眼鏡をしているために、才は初見でこの男性に怖いという印象を感じていた。しかしその落ち着いた声音と丁寧な口調から、事務的でありながらも暖かいという印象へと変化していた。
「なんというか、二人は似ているねぇ」
「そうですか?」
思わずといった風に美羽が口にすると、桐島は嫌ではなさそうだが否定的な反応をみせる。
「うん、ウチもそう感じた。なんかこう……、丁寧というか、まどろっこしい」
「え? そ、そうですか?」
「木崎さんと外山さんがざっくりしすぎているだけですよ。普通はこんなものです」
那波も同調して言ってきたことに才は戸惑うが、桐島の方は全く気にした風もなく涼しい顔で言い返す。
「そんなことより、用事があって声を掛けたのではないのですか?」
「そんなこと」としれっという桐島に、才は意外とこの人は食えないと感じて苦笑いの額に冷たい汗を浮かべる。が、那波と美羽にとってはいつものことなのか、構わず本題へと移ろうとしていた。