もう一人の少女
イツキが魔法少女となった経緯は、二か月前に遡る。
その日、イツキは父から自宅の蔵書整理を頼まれた。高給取りで仕事に明け暮れる父は夜になるまで帰って来ないため、テスト前で早めに帰宅したイツキが空いた時間を使って整理をするように連絡があったのだった。
父はイツキが幼い頃に母と離婚した。イツキは母の顔をほとんど知らずに育ち、父の言うことを何でも聞いて暮らした。その日の書斎の整理も、父から命ぜられた自分の仕事の一つだと思った。
書斎内はインクと草紙類が埃にまみれる書庫独特の匂いに満たされていた。図書館と同じ匂いだ、とイツキは思った。天井の高い場所ながらも、空気が入れ替えられそうな大きな窓もなく、唯一ある明かり取りの出窓も、本が日に焼けてしまっては困る、としてカーテンで遮光されている。
イツキは予め持ってきた懐中電灯のスイッチを入れ、本棚に並べられた書籍の背表紙を照らし出し、作業を開始した。父から送られてきた書籍リストと照合し、必要ないと思われるものを本棚から取り出す。リストには百冊余りのタイトルが並べられていたが、父曰く、整理する書棚にはその五倍以上の量の本が収められているらしい。よくこんなに集めたものだ。昔から収集癖があったんだ、と本人は語っていたが、本は収集するものというよりはその内容を読んで理解し楽しむものだ。どうせ収集するなら、本ではなく、何か別のものにすればよかったのではないか。
イツキがリストと睨めっこをしながら該当の背表紙を探していると、丁度顔の当たりの棚に、異様な存在感を放つ、辞書のように分厚い背表紙の一冊を見つけた。
「ん……? なんだこりゃ」
その本の背表紙には『あなたの願いを本当に叶える本 妖術・禁術・魔法大全』とある。書棚に並ぶ他の本の大半が新書や小説など、文庫サイズが多いのに対し、その本は縦横共に広く、ひときわ目を引いた。イツキはリストを床に置き、その本を力いっぱい引っ張り出してみた。手に取ってみると、腕にずっしりと紙の重さを感じた。表紙には、背表紙と同じ字体でタイトルが書かれている。
「相当古そうな本だな。けど、父さんのリストにはこの本は乗ってない。まだ読むのか?」
何となくページを開いてみる。表題紙には題名が書かれ、一ページ目には見慣れない言語で何かが書かれている。ぱっと見では少しオシャレな西洋風の本だが、中身は日本語の書籍だ。イツキははしがきのページに目を落とした。
「何々? ……『この本にはあなたの願いを叶えるために必要な、妖術・禁術・魔法を、古今東西を問わず、歴史的な裏付けのあるものから伝説、神話に伝えられているものまで幅広く収録した本です。現代科学の発展した今もなお語り継がれる術式を細に入り微に入り説明した本書にて、あなたの願望が実現されたとすれば、本書の著者として、これほど嬉しいことはありません』……?」
何だ、この胡散臭いはしがきは、第一はしがきと呼べるかどうかすら怪しい、と思いながら、イツキは途中を読み飛ばした。が、最終段落の米印で結ばれる一文が、何となく目に入り、それを読み上げてみた。
「『なお、掲載箇所によっては禁忌とされている内容も躊躇わずに説明してあるため、取り扱いには十分ご注意ください』……?」
取扱い注意も何も、こんなものただの本に過ぎない。この場にあるだけで発火してしまうような爆弾でもなし、触っただけで服が焼け溶けてしまうような危険な化学薬品でもない。まさかこんな内容を本気にして実行しようとする者がいるというのだろうか。そして著者は、この本の内容が実際に危険なものであると本気で考えて、出版したのだろうか。確かに、『願いを叶える魔法の本』というと、まるで新商品のカタログを見るときのような期待をかすかにしてしまうのは否めない。魔法の本、というファンタジックかつオカルトな響きが、好奇心を刺激してしまうのもわかる。しかし、それはあくまで「ないもの」を「あるように」見せかけているからに過ぎない。この中身は、危険であるかないかというより、「実際にないもの」が「リアルなつくりものとして」書かれているから面白いのだ。それを、著者本人がこれらファンタジックなつくりものを実在していると公言して憚らないのは、何だか自分の幸運を他人にあえて言いふらすのと同じくらいその話の内容をつまらなくしている。
イツキはそう思うと段々この本の存在そのものが滑稽に思えて来て、書かれたことが逆に全て嘘であるような気がしてきた。そしてそれを眉間に皺が寄るほどに大真面目な顔をしてタイピングしている作者がいるかと思うと、馬鹿馬鹿しいながらに面白半分で、その内容を読んでみたくなった。イツキは一度本を閉じ、そこから適当に頁を開いた。開いた先には魔法少女についての記述があった。イツキはそれを目で乱読した。
【魔法少女】
〈上文〉
魔法少女は、元々不思議な力を使う少女として創作された、日本を発端とする文化である。「魔法」という言葉は古くは呪術的・妖術的な意味合いが強かったが、科学的に説明できない不思議な力を意味することから、戦闘や生活でもこの意味合いでの「魔法」が用いられることとなり、力を使う幼い存在として魔法少女が創作された。
他国(特にキリスト教的文化圏)では、魔女と言う言葉が一般的であり、日本で言う魔法少女に当たる独立した単語は存在しない。現代の西洋文化の捉え方で言う「Magical Girl」とは、日本のアニメや漫画、サブカルチャーで取り扱われる魔法少女の事を指し、この言葉の中のニュアンスとして「超常的な力を持つもの」(男性でいえばSupermanなど)を含むとされている。
故に魔法少女の存在方法は、魔女と比べて形式や儀式などにこだわらないことが多い。以下は、本書で取り扱うに当たり、実際の魔法少女の生成方法と、その任務である。……
用語の説明はさらに続いていたが、イツキはそこで読むのをやめた。この本は一般的な知識体系を述べているものだと思ったが、記述はさらに実用的な方面に話を勧めているようだったからだ。第一、魔法少女の誕生方法と任務とは何だろうか。この本は著作者の妙な考えが綴られているに留まるはずなのに、なぜそんなものを書く必要があるのか、理解できない。表題には『あなたの願いを叶える』と書かれているが、それに由来しているのだろうか。だが、それにしても、あまりの現実感のない本の内容にイツキの頭は混乱していた。
「馬鹿馬鹿しい。何が、願いを叶える魔法だ」
そんな簡単に願いが叶ったら苦労はしない。今まで散々手は尽くしてきたことが、こんないかがわしい本一冊に解決できるようなら、努力は必要ないのだ。イツキは表紙を閉じ、本を棚の元あった場所に戻そうとした。本に向けていた懐中電灯を棚へと向け、取りだした場所を探す。
「ったく、こんなアホみたいな内容でよくこの量書こうなんて考える奴がいるな」
「おぉっと、だが、そう侮って貰っちゃ困るぜ、小娘」
思わぬ方向からの聞いたことのない突然の声に、心臓が飛び出るかと思うほど躍動した。一瞬、驚きのあまり視界が色彩を失くし、完全に光が無くなったように、イツキは感じた。
「誰だ! ……」
慌てて声のした方に懐中電灯を当ててみたが、人らしいものは見当たらない。この書斎には今、自分一人しかいないはずである。家の鍵を開け放した記憶もないし、この書斎には人が入れそうな窓もないため外部から侵入することは不可能。書庫全体を照らし出しても、声の主は見つからない。いよいよイツキは不安になった。
「おいおい、まあ、そう力むなって。ちょっと力抜けよ、ほら」
先ほどと同じ声が聞こえたかと思うと、今度は首筋の辺りを空気が通り抜けていくような感覚に襲われた。思わず声を漏らして飛びのく。真剣に身に危険を感じた。
「く……おい、何だ。いい加減に姿を見せろ」
出来る限り敵意をむき出しにして威嚇し、イツキは胸の前に手を構えた。だがそれを嘲笑うかのように、見えない声は言った。
「俺ならさっきからここにいるっての。ほれ」
再び、イツキの肩に風が通る。気配がした瞬間に避けると、その場所に一匹の蝙蝠がいた。だが普通に見かける蝙蝠よりも一回り胴体が大きい。イツキは自分の五感を疑った。だが間違いなく、声はその蝙蝠から発せられてるのだった。
「初めまして、嬢ちゃん。俺はアヴァロン。あんたをこれからちょいと素敵なゲームに招待しようと思って、遥々その本の中からやって来たってわけさ」
飛びまわる蝙蝠は軽々とイツキの足元に舞い降りると、恭しく翼を畳んでふう、と一息ついた。イツキは足元を懐中電灯で照らしだす。蝙蝠がよく見えるように、膝を折り、子供がありの観察をしている時のような姿勢になる。
「本?」
「ああ、お前の持ってるそれのことだ。魔法少女、って項目にいろいろ条件が載ってたろ」
慌てて手にずっしりと重みを残す厚さのそれを開き、先ほどと同じページを探す。が、厚く大きい本の量に負けて、該当のページがなかなか探し当てられない。
「ったく、面倒な奴だな。ほらよ」
と、アヴァロンが折りたたんだ翼を広げて一振りすると、たちまち魔法少女の項目が載ったページが現れた。
「え?」
「驚くこともないだろうが。自分の家の場所を覚えてない奴があるか?」
「あ、ああ……」
立て続けに起こる不可解な出来事に混乱しながらも、イツキは読んでいた場所の続きを探して目を通した。
***
規約
【第一条】条件と生成
〈第一項〉魔法少女になる者は、全て心身健康な未成年の女子に限る。
〈第二項〉魔法少女の生成は、前項の条件に該当する者が上文を読んだ時点で成立する。
〈第三項〉上文の項目を照度五百ルクス未満の暗い場所で閲覧した者を黒魔法少女、照度五百ルクス以上の明るい場所で閲覧した者を白魔法少女と定義する。この分類を属性と呼ぶ。
【第二条】貸与物
〈第一項〉黒魔法少女には破壊の術を、白魔法少女には治癒の術を与える。同時に、それぞれには任務遂行のための戦闘服、および武器が各一つずつ与えられる。戦闘服、および武器はそれぞれが持つ属性の術を載せることにより、魔法の効力を発揮する。なお、属性と反対の術を武器に乗せることはできない。
〈第二項〉黒魔法少女と白魔法少女には、二人に一匹、使い魔が貸与される。使い魔は魔法少女の任務遂行状況、規約順守を監視する義務を負う。
【第三条】目的
〈第一項〉黒魔法少女と白魔法少女は二人一組になって、土地半径十キロ圏内に存在する同じ時期に生成された魔法少女を倒すことを目的と定める。これをゲームと呼ぶ。
【第四条】生成対価
〈第一項〉全て魔法少女は、生成後、生成される以前に接点を持つ人物たち全ての記憶から、その存在を抹消される。
〈第二項〉全て魔法少女は、第三条の目的を達成するため、生成された直後から目的達成までの間、魔法少女と使い魔以外から不可視の存在となる。
〈第三項〉魔法少女が術を発動させる場合、発動の対価として自身の記憶を消失する。発動の対価として消失する記憶は、術の強弱によって範囲指定される。
〈第四項〉白魔法少女が術を介して生成対価、および発動対価として消失した記憶を蘇らせることはできない。
【第五条】報酬
第三条の目的を達成した魔法少女に対しては、本規約の解約と貸与物の返却、および報酬が支払われる。報酬は、記憶の操作以外の無条件による願望の実現とする。
【第六条】罰則規定
本規約に違反した場合、もしくは本規約に違反した行為として使い魔に判断され、魔女に深刻された場合、魔女裁判に処し、その判決を罰則とする。
***
たった六条しかない条文に目を通しながら、イツキは谷底よりも深い場所に突き落とされたような気分になっていった。一条一条読み進めていく度に、魔法少女が如何に世間から隔絶された存在であり、このゲームが非現実的かつ理不尽に振りかざされているのか、思い知ることになってしまったのだった。この規約をすっぱり、あり得ない、と突き離すのは簡単だった。だが、目の前の喋る蝙蝠や本の意味不明な内容を見る限りでは、信じないと思うより正しいと思う気持ちの方が強かった。これを読んで最初にイツキが思ったのは、これは規約などではない、ということだった。なぜか。自分は何も知らずに契約書に判を押してしまうよう、陥れられた立場に等しかったからだった。
「おい、この規約は規約として成り立たないだろ。規約ってのは、“取り決めをするにあたって同意できる事項を並べた書類“の事を言うのであって、その書類以前に契約が交わされてるなんて、法律的に考えたらあり得ない。だからこの規約は無効だ」
「法律! 今、法律って言ったな?」
足元で大人しくしていたアヴァロンが翼を広げてイツキの顔の前にずいと近寄ってきた。イツキは勢いに押されて顔を引っ込める。アヴァロンは、ちゃんちゃらおかしい、というように、咽喉を鳴らして笑った。
「魔法の世界に法律なんてものが存在してると思うか? 魔法は魔法。魔術を使って作られた法律だ。お前らの世界と俺らの世界が違うのは当たり前なんだよ、ガキが。お前らの世界で駄目って言われてることでも俺らの世界で駄目とは限らねえだろ。まして、魔法少女は魔女の下っ端。んで、人間はその更に下。人間から昇格できたんだからありがたく受け取るのが筋ってもんだろうが。でなかったら、最初に上文を読んじまった自分の不運を嘆くんだな」
酷い言われようだ、と思いながらも、イツキは眉をしかめるばかりでそれ以上何も言い返せなかった。どうもこの蝙蝠と自分の間とに会話が成り立つ気がしなかった。全て「魔法の世界では違うんだ」の一言で強制的に終わらせられるような気がした。
だが、イツキには最早そんな悠長なことを言い争っている暇はないと感じた。仮に本に書いてあるこの規約が本物だとするならば、自分は魔法少女でありながらにして透明人間、記憶喪失候補となる。イツキは再び規約を懐中電灯で照らした。聞きたいことは山ほどあった。が、ゲーム、魔法少女、願望の実現、どれも俄かには信じがたいし、想像が及ばない。自分のことを知る全ての人物の自分に関する記憶が消える、と言っても、父親が仕事で出払ってる今、確かめようもない。記憶を代償に魔法を使う、という魔法少女は、初めて聞いたが、そこまでして魔法を使わなくてはいけないものなのだろうか。
「そういえば、ここには黒魔法少女と白魔法少女がいるって書いてあるけど」
イツキは数ある質問のうちで、最初に目にとまった第一条の部分から質問していくことにした。最初に書いてあるということは、おそらく最初に聞いておくべきことだと思った。
「私が黒魔法少女、とすると、組むべき白魔法少女がいるんだろ? それは誰だよ」
「やっと気付いてくれたんだね」
アヴァロンに聞いたはずが、全く別のところから新しい声が答えた。イツキはまた背筋に冷たい感じを覚えて、声のした方に懐中電灯を向けた。
先ほどまで誰もいなかったはずの書斎の隅に、身長を越える巨大な箒を持った少女が座っていた。茶色の癖っ毛が腰のあたりまで伸びており、レースが多めのふわふわしたピンク色の服を着ている。年は自分と同じくらいだろうか。
「おお、何だ、サエ。いたのか」
アヴァロンが彼女の方を振り返り、鋭い翼でそちらの方へ飛んでいく。全く気配がしなかったのに突然現れた少女は、同じく現れたばかりの蝙蝠をその白い指先に止めた。
「随分と早かったな。何だ。魔法でも使ってきたのか」
アヴァロンは少女の指から肩に移動してその顔を覗き見、からかうように言った。陽だまりのように優しい笑みを浮かべた少女は、イツキの方を一瞥すると、再びアヴァロンに視線を戻して、ふと息を漏らした。
「そりゃあもう。心待ちにしていた相棒が現れたんだもの。歩いて、なんて悠長なことしてられないよ」
「ケッ。そうかいそうかい。そいつは、ご苦労なことで」
なぜかアヴァロンは不機嫌そうだった。イツキはアヴァロンの真意を測りかねた。
少女は手に持っていた箒をどこにともなくしまうと、(それはイツキにはまるで消えたように見えた)イツキの方につかつかと歩み寄ってきた。彼女の桃色の服からは、蜂蜜のように甘い香りがした。
「やあ。私があなたの相方の白魔法少女だよ。サエって呼んでね。よろしく」
「あ、ああ……よろしく」
イツキは鍵をかけておいたはずの自宅にいとも簡単に侵入してきた少女を訝しく思いながら、これから相棒となる白魔法少女に会釈した。全く見知らぬ相手と暫く行動を共にしなければならないと思うと、少し先が思いやられた。だがサエはこちらのそんな心境を知ってか知らずか、ずっとほほ笑みを浮かべたままだった。妙にこちらを見つめながらニコニコしている。
「あの、何か……?」
やがて動かない眼差しに強烈な違和感を覚えて思わず訊き返した。サエは、表情をそのままに、ふ、とまた息を漏らした。
「ああ、ごめんごめん。あんまり驚いてないようだからつい。まあ、最初の間は今までの生活と、魔法少女の生活とに大分ギャップを感じると思うけど、段々慣れてくるから大丈夫だよ」
「驚いてないってことはない。寧ろ、あんたもそこの蝙蝠も、突然出てきたからすげえ驚いてるよ、そりゃあ」
「クク。俺たちが突然出てきたんじゃねえよ。お前が、こっち側に、来たんだ」
「どういうことだ。さっき本から出てきたって言ったじゃないか、お前」
「確かに俺の住処はあの本の中だが。規約に書いてあったろ? 普通の人間には魔法少女も使い魔も不可視の存在になるんだ。つまり、普通の人間に、見えねえんだ、俺らは」
平然と言ってのけるアヴァロンに、イツキはまたもや戸惑った。どうやら、先ほどの本に書いてあった規約は本当らしい。自分は、抗うことのできない状態の中で、魔法少女とやらに、なってしまったようだ。全く実感がわかない。
「とにかくね。今日から、魔法少女だよ。自分の記憶を犠牲にさえすれば、魔法使い放題だよ。黒魔法少女は破壊系の魔法しか使えないのがちょっと厄介だけど。ゲームをクリア出来れば、何でも願望を叶えて貰えるらしい、っていうと、少し張り合いがでるんじゃないかなあ」
「記憶を犠牲に、って」
「書いてあったでしょ」
「いや。そうじゃなくて」
「そうじゃなくて、って、何?」
堂々と言ってのけるサエに、イツキは戸惑っていた。記憶を犠牲にして魔法を使う、なんてことが本当にまかり通っているようなら、一体任務をこなすのにどれほどの思い出を捨てなくてはならないのだろう。忘れたくない事、忘れてはいけないことを犠牲にしてまで、任務で魔法を使わなくてはならないのだろうか。それで願いを叶えなくてはいけないのだろうか。
「あんたは平気なのか、それで」
イツキが質問すると、サエは首を横に振った。笑ったままだった。
「そんなの」
傍らでアヴァロンも笑っていた。
「もう忘れちゃったよ」
イツキは意味が分からなかった。