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SUMMER BIRTH   作者: 飯咲ユウ
出会いの夏
1/1

第一話

初めての投稿です。よろしくお願いします。



綺麗な色とりどりの花が咲き誇る中庭。

今の時期は色鮮やかなアザガオが、陽を求めてグングンと伸び、沢山の花を咲かせている。

そんな綺麗な光景の片隅で、僕は肩で息をしているような感覚に襲われていた。


地面に落ちた木刀を拾い上げ、目線を上げる。


敵は目の前にいる。天然の中の天然を突き進んでいて周りから愛され、更にはイケメンと噂されている、あの騎士だ。


乱れた呼吸を整え、木刀の柄を強く握った。

「とりゃああああああああああ!」

離れた場所から助走をつけ、木刀を大きく振りかぶって、力強く振り落とした。

これだけの力を込めたんだ。初めて彼をギャフンと言わせることが出来るかもしれない。


しかし、木刀の先が相手の顔に近づいた時だった。

「甘い」

小さな声が聞こえたかと思うと、力強いと思っていた木刀が瞬時に薙ぎ払われて、手から離れてしまった。


「いつも言ってるだろ?ただ力任せに剣を振っても、相手にスキを見せているだけって」


僕の首元に古びた木刀を突き付けながら、タナトスは笑って言った。


「いやいや、違うね!今のはタナトスが本気出してきたから僕の木刀が飛んで行っただけです!」

「俺はいつもの半分も力は出してないって。ケイシーはそうやって」

「嘘だ!絶対、嘘だね!タナトスが俺に向かって手を抜いたこと一回もないです!あああああああ、もう、今日は終わり!」


僕はタナトスの話を無理矢理切って、飛ばされた木刀を探した。

木刀はアサガオの海の中で、見事なまでに真っ直ぐ突き刺さっていた。こんなの木刀もアサガオもかわいそうじゃないか。一番可哀想なのは僕だとは思うけど。

そんなことを思いながら木刀を海の中から救い出し、近くのベンチに掛けていた布袋にしまった。


「本当に今日はおしまい?」


そう聞いてくる声が、まるで僕のことを馬鹿にしているように聞こえて、本当にカチンときた。


「お……」

「お?」

「お、一昨日来やがれ!この天然騎士め!」


僕は吐き捨てるように言ってから、中庭を後にした。


(大体、僕はタナトスよりも年下じゃん。なんで手を抜きながら特訓をさせるって事ができないんだよ!おかしくない!?)


心の中でタナトスに対しての不満を言いながら、廊下を歩いていく。

すると向かいからザルを抱えたウィルの姿が見えた。


「あら、剣術の特訓は終わったの?」


足を止めて不思議そうに聞いてきた。

いつも美味しいご飯を作ってくれる料理人兼侍女のウィルだが、怒るとものすごく面倒なのだ。僕は話を逸らそうと、彼女が手に持っているザルを指した。


「あれ、畑に行くの?」

「今日の夕飯でピーマンとニンジンが使いたくってね。……っていうか、質問に質問で返さないの。」

「あ、ばれた?」

「ばれた?じゃないでしょ。そうやって嘘をつこうとしてる時は、質問返しで話題を逸らそうとしてるから、こっちだって分かるって。もう何年一緒に暮らしてると思ってるのよ……」

ウィルがいつもの様にグチグチ言い始めたので、僕は相槌を打ちながら、ウィルが腰に付けている紺色のエプロンを見ていた。


エプロンって服が汚れないようにするための物だと思ってるけど、こういう腰だけに付けてるものって意味があるのかな。絶対意味が無いと思うんだよ。

だって、料理してたら油とか服に飛んでくるじゃん。

ウィルはいろんなエプロン持ってて、気分によってかえてるんだよな。でも、どうしても腰巻タイプだけは理解できないな。


「……だって、繰り返しやってないと身についてこな」

「ごめん、ウィル!ちょっと用事思い出したからもう行くね!夕飯楽しみにしてるから!」

脳内でエプロンについての議論をしていても、やはりまだ終わりそうになかったので、話を無理矢理終わらし自分の部屋に向かって走り出した。


しかし、走ったところで自分の部屋にたどり着くまでにはあと10分はかかるかもしれない。

分かっていたことだけれど、相変わらずこの家は広い。中庭は沢山の花が植えられているのは勿論、そこそこ広い畑もあるし、噴水だってある。廊下はそこそこ距離もあるし、そこそこ部屋数もある。ああもう、これは一般的には屋敷と呼んだ方が合っているのだろうな。



この大きな屋敷で生まれてから、僕は沢山の人に囲まれて生きてきた。母さんに父上、タナトス、ウィルを始めとする親戚の人たち。それぞれがみんな家族であり、大切な人である。そう、みんな大切な人。

そして、剣術を学んだり、料理も時々手伝いながら教えてもらっている。勿論、この国のことも沢山学んでいる。


きっと、僕は、不自由と無関係の生活を送っている。

周りの人が羨むような生活であることは分かっている。


だって、僕は数十年前に亡くなった国王の血を引き継いでいるのだから。


だから、僕は周りの人に支えられている。

もうこれ以上の幸せなんてないのかもしれない。

でも僕は、何かを求めている。

こんなに満たされているはずなのに。

大切な人たちに囲まれて幸せなはずなのに。

幸せを感じながら、心の中は、ざわついている。

求めているものは、この屋敷の外にあるのかもしれない……と。


僕は屋敷のエントランスに来ると、足を止めた。

このまま僕の部屋に行けるが、僕の右手側には外に出ることの出来る扉もある。


今までにも外に出たことはあったが、それは大概誰かの用事のついでに行くというものだった。

その外出に僕の意思なんて一切なかった。

今なら周りに誰もいない。


「よし……」


扉に手を掛けたところで、一瞬、本当にこれでいいのかと迷いが頭がよぎった。

きっと、周りの人には沢山の迷惑を掛けてしまうかもしれない。

でも、これまで生きてきた17年間、自らの意志で外に出たいと思うことはなかったのだ。こんなチャンスは滅多に訪れないかもしれない。


僕は思い切って扉を押し開けた。

そして、敷地の外まで走った。誰かに見つかってしまったら、すぐに連れ戻されてしまうかもしれない。

そんなことを思いながら、屋敷の外へと駆けだした。


今まで中庭から見上げていた狭い青空はとても広く、窓の中から見ていた町は輝いて見えた。


.

ご覧いただき、ありがとうございました。

不定期更新ですが、早めの更新を心がけます^^

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