グナー遺跡
魔王の女は剣の勇者を治療し、精一杯看病しました。
魔王の女は剣の勇者に協力してほしいことがあったからです。
その協力してほしいことは「戦争を止めること」だったのです。
光の勇者が死に、指揮者を失った敵の軍を剣の勇者側の者たちが虐殺を行い始めたからです。
今まで続いた戦争のせいで家族や恋人、仲間たちを失った者たちがその復讐のために戦意を喪失した敵軍を無差別に殺し始めたからです。その中には「弓の勇者」の顔もありました。
♢♢♢
「この城の地下だよ。そこに俺と七葉の力の大半が封印された魔石があるはずなんだ」
「地下……ですか?確かに国ができる前にあったグナーと呼ばれる国の遺跡がありますがもう全て探索してしまっているので何もないはずですが」
ナナリ王が顎に手を当てて少し思い出しながら話すが今回は関係ない。
「俺と七葉しか入れない結界が貼ってあるから他の人には見えないはずだ。確か城の地下3階龍王の間にあるはずだから大体の場所はわかる。俺たちの本来の武装がそこに置いてあって魔石の中に魔力を封印してあるんだ。今の俺たちは全盛期の1割のも満たない魔力しか持ってない」
「……もう少し慣れてきた自分が嫌になりますね」
そういってナナリ王は椅子に座りなおす。
「それで…一緒に誰か騎士を連れてきますか?」
「必要ないけど……今回は今の魔法使いの実力とか剣術も見てみたいから宮廷魔法師と騎士を二人、連れてみたい」
「わかりました。では新参者ですが優秀な騎士と魔法師を用意させておきます。何か他に用意するものは?」
「いや、もう向かうから馬だけ用意しておいてくれ」
「はい」
そういって俺は部屋を出る。
さて、今のシルバの住民の実力見せてもらおうか。
「初めまして剣の勇者様、クラド帝国騎士団近衛部隊、ルルカ・アンカーです!」
「クラド帝国宮廷魔法師、風のペトラルカ……」
「よろしく、伊澄直也だ。そこまで固くならなくていいからな」
クラド帝国の城の門前で俺は二人の女と話していた。
ルルカといった女は軽装の騎士甲冑をつけた赤髪のショートヘヤーの女で年齢はここ最近二十歳になった感じだろうか?、まだまだ若い綺麗な女性だった。
ペトラルカといった女はぱっと見幼女にしか見えないが少し耳が長い、緑がかった金髪でこの感じはハーフエルフってところだと思う。容姿もかなり端麗で綺麗な部類に入るが幼いので可愛いという感じの少女である。
「それでルルカとペトラルカはどんな魔法が使えるんだ?」
俺は初めに二人の技能の方を見ることにする。
「私は火の魔法と強化魔法を使えることができます」
「私は風だけ……」
「火と風か……」
親和性が高いが少し危険な感じもする。
「俺は強化魔法と付与魔法、あと勇者が使える個人魔法だ。個人魔法は少し使いたくないから勘弁してくれ。基本的な配置は俺とルルカが前衛でペトラルカが後衛で行くことにする。何か意見は?」
「ありません!」
「私も……」
「なら行こうか……目的地はグナーの遺跡の地下3階、龍王の間だ」
「へえ……ルルカは平民の出なんだ」
「はい!ナオヤ様のような剣士になりたくて毎日剣の修行をしておりました!!」
「そっそう……」
遺跡に向かいながら俺たちは少し自分たちのことを話すことになった。
「ナオヤ様はどんな剣術をお使いになるんですか?」
「俺は双剣術と片手剣、他にも体術を使っているけどほとんど我流だよ。剣に付与魔法でいろんなものを付与して戦う時もある」
「そうなのですか!私はクラド帝国武術剣術を修めておりまして……」
ルルカは瞳の中にキラキラしたものを秘めてたくさん話しかけてくれる。どうやら俺のファンのようでかなり尊敬の混じった視線を送ってくるもんだから少しこそばゆい。
「ペトラルカは……何でこの国に?」
「お父さんがこの国の貴族で私はその本妻の子、母は私が小さい頃に他界したからかなり若かった」
「そうなのか……すまない」
「……いい。私が物心つく前に死んだからほとんど覚えてないし」
俺が聞いたのを謝るとそういってペトラルカは少し髪をいじりながら顔を赤くする。
あんまり謝れ慣れていなさそうである。
「それでナオヤ様、本来の武器が封印されているとお聞きしましたがナオヤ様の武器はその白鋼と黒鋼ですよね?」
ルルカが気になったのか俺の聞いてくる。
「俺の武器は確かにそうなんだけどこの白鋼と黒鋼は鍵なんだ」
「鍵、ですか…」
「そう、聖剣の封印を開くためのね。俺の聖剣は少し特殊だから」
「聖剣」勇者の個人魔法や神器と同じ一人一人の武具のことである。俺の神器「白鋼」「黒鋼」は神龍の牙と暴龍の牙を使った頑丈な神器で俺の多い魔力にも耐えられる特性を持ち、魔力を込めれば込めるほど切れ味が増す効果があるがこの二本の短剣にはある聖剣の鍵の役割がある。
「聖剣クロス」
俺の聖剣で光の属性と闇の属性の二つを扱うことができる他の聖剣とは少し性質が異なる聖剣である。
その代償として使用者の魔力を永遠に食らうという特殊な性質を持ちある意味聖剣と違い魔剣と呼んだ方が相応しい剣である。
「聖剣クロス……聞いたことがありません」
勇者伝記のオタクであるルルカが、クロスの名前を思い出そうとするが出てこないようだ。
それもそのはずである、俺はこの世界の表舞台ではクロスを使っていないから記録は残ってない。
「まあ前の召喚では表舞台では使ってないからな」
「そうなんですか……」
「その聖剣…興味ある」
今度はペトラルカが興味を持ち始めた。
それからいろんな質問に答えながら遺跡に向かう。
そこそこ楽しい時間を過ごさせてもらった。こちらの世界の今の地形などたくさんの情報を手に入れることができてラッキーだった。
移動して三時間以上が経ち日が真上に来たあたりでグナー遺跡に到着した。
「さて、行きますか」
「はい!」
「うん……」
俺たち馬を降り、遺跡の中に踏み出した。
さて、久々の実戦はうまくいくかな?