月明かりの照らす夜に
部屋に戻った俺は礼服を脱ぎ部屋に用意されていた寝巻きに着替えるとそのままベットに倒れこむ。
「はあ……」
やってしまった……
「面倒になったな……いっそのこと城出てどこかで暮らすか。もう日本にはなんの未練もないし」
俺はブレスレットになっている白鋼と黒鋼を見て一人そう呟く。
日本には両親がいるし一人妹がいるが前の召喚では帰れないと思っていたのでもう気持ちの整理はついていた。
それに今生きているかつての仲間たちにも会いたい。
「善は急げというし…明日ナナリ王に話してみるかな」
そのあとは……どこかの田舎の国で冒険者でもやっているか。
ゆっくりと過ごしながら老衰して死ぬことにしよう。
「七葉は……ロベルトに会いにいく感じかな?」
俺はそう思いながら目を閉じるのだった。
♢♢♢
ーーコンコンーー
「ん……?」
目を閉じてそのまま眠っていたのだが、扉を叩く音がして目を覚ます。
窓から外を見ているとまだ真夜中だ。
俺は黒鋼を一本だけ呼び出して左手に持ち、自分の後ろに隠したまま扉を開ける。
「誰だ……」
「あの、白花です。伊澄くん、少し話したいんだけどいいかな?」
少し開けた扉の隙間から覗き込むと白花さんだった。
正直今は誰とも話したくないんだが……いいか。
俺は黒鋼をしまい、扉を開ける。
「少しだけならいいよ」
「ありがとう伊澄くん。じゃあ少しテラスで話そう?」
「で、話って?」
城にあるテラスに移動した俺と白花さんはお互いに自分たちを見ないで空に浮かぶ赤と青の月を見ながら話し始める。
「うん……伊澄くんが前召喚された時の話を聞きたくて」
「なんでか理由を聞いていいか?」
俺は月を見ながらその白花の綺麗な顔を見ながらいうと少し不安そうな色を映した瞳がこっちを向く。
「あの時、パーティーの前の時に真司につかみかかった時の話を聞いて……なんか伊澄くんが遠くに行きそうな気がして」
「そうか……あんまいい話ではないぞ?」
「それでも聞きたいの。私が……私たちが行おうとしている戦争がどんなものか私が知っておきたいの」
俺はそういう白花の不安な色を写す瞳の中に確かな覚悟があるのを見て一人の女性を白花に重ねる。
「………アルメリア……」
「え?」
「いや…なんでもない。じゃあ話そうか」
♢♢♢
昔々、シルバでは魔族と人間、亜人達の大きな戦争がありました。
だが魔族の力は強大で人間と亜人達の国は負け続き、劣勢になった人間と亜人たちは異世界の勇者達を召喚することにしました。
勇者は全員で四人。
「剣の勇者」
「術の勇者」
「弓の勇者」
「光の勇者」
召喚された勇者達は戦争で大きな戦果を出していき、瞬く間に人間達の劣勢を回復させ魔族達を追い込んでいきました。
だがその快進撃も続きませんでした。
勇者達はその戦争の原因が人間側にあることを知ったからです。
特に剣の勇者、術の勇者、弓の勇者は原因を知ってからは戦うことを拒否し、同じ意思を持つ人間や亜人達と魔族側の味方につくようになりました。
だが光の勇者は違いました。
彼は魔族に非があると信じていたからです。
そうして今度は魔族に非があるという人間と亜人、魔族につく人間と亜人による戦争が始まりました。
その戦争は最初こそ魔族に非がある側が優勢でしたがすぐに勇者三人がいる魔族側に押され始め、どんどん犠牲者が増えていきます。
そこで光の勇者はある方法をとりました。
それは………神を喰らい、その力を自分のものにすることでした。