なんでこんな目に……
はいみなさんどうもこんにちは、元勇者の伊澄直也です。
今私は…………
「頼む伊澄、この国のために俺たちと一緒に戦ってくれないか!」
嫌いな天川からの説得を受けています。
♢♢♢
「……流石に素手じゃ金属鎧の凹ますのはやりすぎたかな?」
「やり過ぎよ」
七葉に無慈悲に突っ込まれて自分が流石にやらかしたのを自覚した俺はため息をつく。
「はあ……七葉、あの騎士に回復魔法を。薬漬けにされている感じがあるからせっかくだし状態異常も回復してくれ、騎士からあのおっさんが隠している魔族の場所を聞けるかもしれん」
「全く……」
そう言って七葉は騎士のそばに近寄り髪飾りを杖に変えて魔法を使い始める。
七葉の本職は攻撃の魔法だがこのくらいの怪我なら直せるだろうし。
「あの……勇者殿、彼女は……」
「ああ、彼女も俺と一緒に召喚された勇者の一人、あれだな……確か二つ名が「鬼才」と呼ばれていた」
「そう、ですか……」
俺の言葉を聞いたナナリ王はもういっぱいいっぱいのような感じだ。クラスメイトも「まさかの二人目!?」みたいな顔してるし。
「あっ私も直也と同じで今回の戦争に参加する気は無いから」
「え?……あ、はい」
七葉が騎士を回復させながながら言うとナナリ王も疲れた感じに返事をする。
……少しやりすぎただろうか?
俺は少し心配しながらも逃げ出そうとしたおっさんの服をつかんで逃さないようにする。
「はっ離せ!!私を誰と思ってるのだ!」
「この世界の住人じゃ無いから知らないなあ。とりあえず眠ってて」
面倒なので首に手刀を落として気絶させる。
それからは少し大変だった。気絶させたおっさんの処理、これからの相談、滞在中の扱いなどなど様々なことを話した「俺と七葉が」。
そうしてなんとかひと段落して自分に割り当てられた部屋のベットに俺は沈み込む。
「あー……疲れた」
なんで俺が他のクラスメイトや教師の代わりに話をしなきゃならんのだ。
「それはあなたが目立つことしちゃうからでしょ」
「うお!?七葉いたのかよ」
「あなたがベットに沈み込むあたりからね」
「なんだよ最初からか……」
完全に気が抜けていたから気がつかなかった。
少し疲れているのかもしれない。
「それで何か用か?」
「もともと今日は訓練の日でしょうに」
「そう言えばそうだったな」
俺と七葉は毎週二日、日本に帰った後でも戦闘の訓練をしている。
戦闘の感を忘れないためだ。
「じゃあどこか借りてこよう」
「そうね。そうしましょう」
「じゃあ早速簡単に組手でいいか」
「そうね。いつもどうりにしましょうか」
その辺を歩いていたメイドさんに声をかけ、運動場に案内してもらった俺たちは制服のブレザーを脱ぎネクタイを緩める。
「じゃ、行くぞ。この世界なら魔法を使ったものでもいいからな」
「わかってるわよ」
お互いに構え戦闘のスイッチに切りかえる。
先に飛び込んできたのは七葉だった。
「はあ!」
俺の顔面……正確には顎のあたりめがけて掌底を放ってくるが弾き今度は俺が七葉の腹に掌底を叩き込むが、七葉に受け止められていた。
「あれ?普段なら入るんだがそうでもないのか?」
「流石に受け止めるだけでも痛いわね……」
よくみてみると七葉の手のひらにはうっすら光っている。
魔力を収束させて受け止めたようだ。
「魔力をこんな風に使うのは珍しいな」
「そりゃあいつまでもあなたに負けっぱなしの悔いては嫌だもの。この世界の私の戦い方は少し違うわよ?」
「そうか…よ!」
俺は蹴り叩き込み七葉と距離を取り少し構え直してから再び接近して攻撃をしていく。
七葉は魔力を使えるようになったせいか、身体を強化して普段ならあり得ないような動きでかわしていく。……少し俺も魔力を使うとするか。
「『俊足』」
俺がそう口にすると体全体が黒く輝き体を包む。
敏捷強化魔法「俊足」。
俺が使える魔法の数少ない一つだ。
剣の勇者である俺には使える魔法が少ない。
アニメやゲームであるような炎や氷、風や雷のような魔法を使い戦うわけではないが剣の勇者には己を強化する「強化魔法」と武器を強化する魔法を付与する「付与魔法」、そして勇者たちそれぞれが持つ個々の魔法「個人魔法」の三つしか持ってない。
俺の個人魔法は訓練には向いてないから必然的に組手のような素手の訓練には強化魔法しか使えないのだ。もちろん七葉のように魔力をある程度工夫して使えば魔法なしでも戦えるが正直戦い方にパターンができてしまってつまらない。
「じゃ、こっちもいくぞ?」
俺は地面を蹴り先ほどの何倍のもの速さで七葉の後ろに移動して蹴りをお見舞いしてみると背中に見事に直撃し七葉が吹き飛ぶが七葉も負けじと反撃をするためにすぐに近ずいてくる。
それから一時間ほど、組手をし続けた。
「ふう、今日はこの辺かな?」
「はあ、はあ……」
俺は軽く滲んだ汗を白のメイドさんが用意してくれていたタオルで拭きながら息も絶え絶えの死にそうな七葉に声をかける。
「全く……少しは…手加減…しなさいよ……」
「まだまだ本気には遠いんだが……だいぶ最初の頃より強くはなったんじゃないか?魔族一人ぐらいなら相手はできるだろ」
「それは…よかったわ……」
倒れ込んで起き上がれなそうな七葉にタオルを被せてしばらく休むように言うと俺はも一度訓練場の真ん中に向かう。
ここからは俺一人の訓練だ。
白鋼と黒鋼が出せるなら勘を取り戻すために使っておきたい。
「光の加護を持つ武具たちよ、担い手の呼びかけに応えよ」
再びブレスレットから二本の短剣に姿を変えた白鋼と黒鋼を両手で構え素振りをしていく。
中段からの撃ち落とし、切り上げ、袈裟斬り、横薙ぎに下段からの振り上げから体術を交えながら白鋼と黒鋼をふるい、時には足運びや二本の短剣を逆手に持った変則的な動きをしながら勘を取り戻していく。
「この感覚……懐かしいな」
不思議と白鋼と黒鋼を振るっていると自然と口角が上がっていき気分が高揚する。
戦争は嫌いだったが仲間との勝負は大好きだった。
気分が高揚しながら白鋼と黒鋼振るっていくと七葉から声が掛かる。
まだそんなに時間は経ってないはずだが?
そう思って七葉に近ずいていくと怒られた。
「一時間も没頭してんじゃないわよ!もう食事の時間らしいからさっさといくわよ!!」
「す、すまん……」
やってしまった。
自分の部屋に用意されていた礼服を着て食事のあると言う部屋まで案内される。
今日は召喚に合わせてパーティがあったらしいくそこで勇者の紹介をするらしい。会場の扉の前に着くと翡翠色のドレスに身を包んだ七葉が寄ってきた。
「よ、さっきぶり。相変わらず七葉は翡翠色のドレスかい」
「いいでしょ。好きなんだから。そう言うあんたも礼服は似合わないわね」
「うるさいわ。好きできてるわけじゃない……前の召喚の時のコートがあればそれ着たんだけどな」
「私もローブがあればそっちを着たいわよ」
お互いに服装について話していると。佐々木先生と天川が俺たちに近ずいてきた。
「あの白崎さん、伊澄くん……先生、少しお話があるんです。きてくれませんか?」
「白崎さん、伊澄。先生の話はこれからのことについて重要な話なんだ。頼むから来てくれ」
やっぱ来たか……
俺と七葉は、お互いに目を合わせうんざりした声を漏らすのだった。
♢♢♢
さて、長い回想も終わり、また冒頭に戻ってきたんですがどうしましょうか?
「一応聞くがなんでだ?」
「それは決まってるだろう!この国の人たちのためだ!」
天川は俺の質問を大きな声で返していく。
「はあ……天川、今回の戦争の原因はこの国にあるんだぞ?」
「だからと言って、この国の人たちが殺されていくのを見過ごすわけにはいかない!」
天川はまさに正義感の塊みたいなことを言ってるが本当は学校でのイメージを崩さないためだろう。
まさにヒーロー、勇者にぴったりなセリフだがそんな欺瞞に埋もれた言葉に動くわけがない。
俺は天川の首の部分を掴み壁に叩きつける。
七葉の制止の声もあったが関係ない。少し現実を見てもらおう。
「いい加減にしろよ?お前が言ってるのは殺し合いにお前も参加しろってことだろ?嫌に決まってるだろ。それに俺がこの戦争に参加することは五百年前の戦いを俺が否定することになるんだよ!」
「あっ、ぐ……」
「いいか?俺と七葉がこの世界に召喚された時は今起きている戦争の比ではないくらいの人が死んだ!特に死んだのは今回のようなさらわれた奴隷なんだよ!もうそんな奴隷を増やさないために俺は戦いが終わった後でも奴隷制度の廃止のために世界中を飛び回ってなんとか奴隷制度を廃止させた!なのに五百年後にはまだ奴隷の奴らがいる!そんな愚かなことをして始まった戦争に俺が参加することは俺や戦争を終わらせて世界の平和を願って死んでいった仲間や奴隷の奴らに……そして仲間のために戦ったかつての魔族…アルメリアたちを裏切ることなんだよ!!」
「い、伊澄くん!それ以上は天川くんが死んじゃいます!!」
俺首を掴まれて身動きが取れない天川が徐々に顔を青くしていく。
どうやら息ができないらしい。
そのことに気がついた佐々木先生が俺を振りほどこうとするが佐々木先生の力では俺の腕を振りほどくことができない。
俺は佐々木先生に目もくれず天川の甘い考えを砕いていく。
「いいか!戦争に参加したければ勝手すればいい!!だけど俺や七葉を巻き込むんじゃねえ!」
「直也!」
流石にまずいと思ったのか、七葉が俺を止めに入りやっと俺の腕が天川の首から離れる。
「はあ……あぁ、ぐ……」
「天川くん…大丈夫ですか?」
やっと離れて息が吸えるようになった天川を佐々木先生が心配そうに近寄る。
「すまん七葉、今日のパーティーは出ないってナナリ王に言っておいてくれ。もう今日は人と話したくない」
「わかったわ……ごめんね」
「いいよ。その代わり楽しんでこいよ」
俺は七葉に申し訳ない気持ちになりながらその場を離れるのだった。