やるわけないだろ?……めんどい
「俺はパス」
「パ……パス?」
ナナリ王が俺の言葉に少し戸惑うような感じにこっちを見る。
「だから俺は参加しないってこと」
「な…なぜです勇者殿……理由をお聞かせください」
「だって自分が納めた戦いをまたやり直すってんだろ?嫌に決まってんだろうが」
俺の言葉に今度は姫様が反応する。
「すいません、自分が納めた戦いってどういうことですか?」
「ああ、そういえばこっちで話すって言ってたな。俺の名前は伊澄直也……こっちではナオヤ・イズミってことになってるのか?五百年前のこの世界に召喚された勇者の一人だ」
「「!!」」
自分が元勇者ということを言った瞬間クラスメイトも含め、七葉以外の全員が驚いた表情になる。
七葉が「さらりと言い過ぎよ」とか言っていたがいいだろう。
「そっその証拠は……?」
「神器を出せばいいのか?なら出してやるよ」
そう言って俺はもう一度黒鋼と白鋼をブレスレットから二本の短剣に姿を変える。
「これは俺が契約した神器、神龍の牙を使った白の短剣「白鋼」と暴龍の牙を使った黒の短剣「黒鋼」だ。これが証拠になるか?五百年前の戦いにも使用したものだから文献に残ってるはずだし、物語にもなっていたはずだけど」
「こ……この溢れる魔力は……どうやら本物のようですね」
「わかってくれたようで結構」
俺はもう一度ブレスレットに戻しそのままナナリ王に向き直す。
「で……ですがなぜ、勇者殿は参加しないのですか?」
「だからさっきも言ったろ?一度自分が納めた戦争をまたやる奴がいるか?」
「攻撃してきたのは魔族側ですよ?」
俺を説得しようとナナリ王が戦争の理由を話そうとするが俺には関係ない。
何より……
「今回の魔族の攻撃はこの国だけか?」
「?……ええ、この国だけです」
やっぱりか……
「ならお前たちに原因があるな」
「な!?…なぜそう思うのです……」
「魔族はな、仲間を大事にするんだ。多分この国のどっかに奴隷として魔族が捕まってるんだろう、その魔族が原因だ」
魔族はシルバにいる種族の中ではかなりの人数が少ない。その分つながりを大事にして仲間が捕まったら種族全体でその魔族を助けに行くくらいだ。
五百年前に俺たちが呼ばれた原因も仲間を殺された魔族がそのことに怒り、世界ごとを敵に回したからでもある。
「この国には奴隷制度は存在しません」
「ならこの国の貴族がどこかに隠してるんだろう?例えばそうだなあ……そこにいるおっさんとかかな?」
「!!……なんのことかね?異世界の勇者殿、いくら勇者でもこのわたし、ハント・フォン・ショーン辺境伯爵を疑うとは」
俺が話の途中にいきなり指をさしたハゲのおっさんは大量の汗を流しながら上から目線で反応する。でも、お手の目は騙されないぜ?
「魔族の奴隷の話をした時に少し呼吸が乱れたな?俺は前の召喚で嘘とかを見破る技術を磨いてもいたからわかる。奴隷にした魔族の奴はどこにいる?」
俺はおっさんの方へ近づき問いただすとおっさんは後ろに控えていた自分の護衛のような騎士に話しかけ俺に攻撃するように命令する。
流石にナナリ王もまずいと思ったのか静止の命令をいうが少し遅い。
その騎士は剣を俺に目掛けて振るい殺しに掛かってくるが剣筋が遅い、完全に力でふるっているし何より少し薬ずけにされた感じがある。前の召喚でよく戦った薬ずけの兵士によく似た感じだ。
俺はその騎士が振るってきた剣をかわしながら剣を掴む。
「……!」
「なんで振り払えないのかって顔をしているな?……それにしてもやわい剣だな」
俺は騎士の剣を握りつぶし砕く。
「なっ……」
「なんだよ。そんなもんか?なら今度はこっちから行くぞ」
誰かが俺の剣を握りつぶしたのに誰かが驚いた気がしたが関係ない。
俺は軽く拳を握り、騎士の腹を殴る。
すると騎士の鎧が簡単に凹みくの字になって吹き飛びそのまま壁に激突する。
あれ?
「……流石に素手じゃ金属鎧の凹ますのはやりすぎたかな?」
「やり過ぎよ」
七葉の無慈悲なそのツッコミが静まりかえった謁見の間に響き渡った。