一悶着1
それから数日かけてニルに到着した。
モルド嬢に連れられてそのまま魔族のいる屋敷に向かってみるとそこはとんでもない大きさの屋敷だった。
「なんだよこのデカさ……いくらかかってるんだ?」
「確か黒金貨700枚以上だそうです。父が何世代から貯蓄していた資金を使って立てたようです
「お前の親父バカだろ……」
「……否定はしません」
この世界の通貨は基本的に貨幣が使われていて銅貨、銀貨、金貨、白金貨、赤金貨、黒金貨の五種類だ。銅貨が日本円で百円ぐらいだがら単純計算でこの屋敷は七十億円以上かかっていることになる。
まあ、そんなことはどうでもいい。
「それで?魔族に会いたいんだが」
「わかりました。今部屋にお送りします」
モルド嬢に案内されて向かった部屋にいたのは……完全な幼女だった。
「あっモルド!やっと帰ってきたか!」
「ただいま戻りましたバンピィ様、今回あなたを魔族の領地まで送っていただける方をお連れしました」
「なんじゃと?それは誠か?」
モルド嬢は平気で話しているが俺は少し動揺していた。
あのおっさん……幼女趣味だったのかと……
ヴァンパイアは基本的に血を食事として生活し、長命種で自分の血や文体である吸血蝙蝠を使った戦い方をする種族で見た目に反してかなり高齢とかはよくあるのだが今回のヴァンパイアは完全に幼体、生まれて間もない感じであろう。
そんなヴァンパイアをさらって奴隷にしていたのか……別に人の性癖をどうこう言うつもりはないが少し引いてしまった。
「その送ってくれるものとはモルドの後ろにいる男のことか?」
「紹介が遅れたな、冒険者の直也だ。一応魔族領の一番近い街までの送迎を担当することになるからよろしく頼むな」
「そうか!私はバンピィ・ブライア、高貴なヴァンパイアの血族に名を連ねるものである!」
初めての人には人見知りしないのか、堂々と話しかけてくるバンピィ。
少し上から目線だが礼儀を忘れていない洗練された動きを見せるので教育が行き届いているのが見て取れた。
「それでモルド嬢、出発するのはいつだ?」
「出発は明日にする予定です。なので今日はゆっくり休んでください」
「そうかなら明日またここにくるわ。どっかで宿とってくる」
「あっ宿でしたらこちらが用意を……」
「いいよ。もう俺は一介の冒険者だから気を使うな」
そういって俺は部屋を出て行く。
絶対あそこに止まったら面倒ごとがくるからな。
♢♢♢
モルド嬢の屋敷から出て、しばらくニルのマタイを探索することにした。
ナナリ王の話からこの辺は火山がありこの辺では温泉がある温泉街だと聞いた。せっかくなので大きな風呂に入りたいし、今回は少し高めの宿に泊まることにする。
でもこの辺の土地勘がないのでまずは冒険者ギルドで宿の場所とかを聞いてみるか。
そう思って冒険者ギルドの中に入り受付に話しかける。
「すまん、少し質問いいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「今日この街に来たんだがいい宿はないか?ここら辺お土地勘んがなくてな」
「わかりました。この辺だと冒険者に人気なのは何軒かありますが……要望はありますか?」
「風呂に入りたい。なるべく大きいの、あとは食事がうまいところがいいな」
「かしこまりました。ならこの二件です」
渡された紙には二つの宿の情報が書かれていた。
「まず最初は宿り木亭、大きな風呂があり食事も評判ですが時間で男湯女湯に分けているので中が入ります。二つ目は三日月亭、こちらは時間で分けておらずちゃんと男湯と女湯がありますが少し料金が高めになります」
う〜んどうしようか。
「二つの料金はわかる?」
「宿り木亭は朝夕食付きで金貨2枚、三日月亭は金貨5枚になります」
「なら宿り木亭にしようかな。場所を教えてくれ」
「でしたら「あ〜!あの時の男じゃない!」……お知り合いですか?」
受付の女性の言葉を遮ったのはあの時テントにやってきた優男の盗賊女だった。
「いや、違う。さっさと場所を教えてくれ」
「いやでも……」
「無視するんじゃないわよ!」
めんどくさいのでさっさと場所を聞こうとしたら思いっきり肩を掴まれた。
流石に応答しなきゃいけないので振り返る。
「なんだよ……」
「なんだよじゃないわよ!あなたが急にいなくなったから困ってたんだから」
「はあ?」
「パーティメンバーなんだからしっかり自覚持ってよ!」
「いつ俺がお前たちのパーティメンバーになったよ……」
「この前夜に話しかけたじゃない!」
意味のわからないことを言う女盗賊。
断ったはずなんだが、なんでそうなった?
「話しかけただけで仲間扱いか…なあ、これってパーティとして成立するのか?」
「いえ、本人が否定していますし申請も出されてないので成立はしません」
「なら関係ないな。宿の場所を教えてくれ」
「わかりました」
盗賊女は後ろでまだ文句を言っているが受付の女性も呆れた感じに無視して俺との会話を再開してくれる。
「宿り木亭は門前のそばにあり、看板も出ているのですぐに見つけられるかと思います。なんなら簡単な地図とかもありますが用意しますか?」
「いやいい。門前のそばにあるんだな、助かったよ」
そう言って俺は受付の女性の手を握る。その手のひらの中には銀貨が数枚、チップだ。
「ありがとうございます」
「いいよ別に。情報をくれたからな」
そう言って俺は軽く手を振って俺は冒険者ギルドを後にした。
「ちょっと!まだ話は終わってないわ!!」
「何まだいたの?」
俺が宿り木亭に向かっているとまたあの女盗賊が話しかけてきた。
まだ俺に何か用があるのかついてきていたのだ。
そろそろいいだろう。
わざと路地裏に来たんだからいい加減話しかけようか。
「あなたは私たちのパーティメンバーなんだから私たちと行動しなさい!」
「だからあの時は断っただろうが。これ以上文句があるのなら……切り捨てる」
「ひ!?」
少し面倒なので殺気を女盗賊に当てて怯ませる。
「なあ……それにいるんだろ?優男さんよ」
怯ませながら女盗賊の後ろの路地から感じる気配の主に声を掛ける。
するとやれやれと言った感じでこの前の優男がいた。
「よくわかったね。一応気配を消していたつもりなんだけど」
「殺気がダダ漏れだ。それに前にあった時に感じたんだが…お前の動きが前衛のやつがする動きじゃないくて完全に殺し屋とかがやる動きだ」
俺の言葉に優男はやれやれと言った感じで首を振ると手に持っていた短剣で女盗賊をいきなり刺した。
「え……ロベル?」
「ごめんねぇ、俺…いや僕はロベルじゃないんだあ……」
女盗賊の質問に優男はそう答え指を鳴らす。
すると一瞬優男の姿が揺らぎ、その優男だったものの姿が変わる。
頑丈そうな鎧だったのがなくなり暗殺者特有の黒装束に大量の短剣や道具入ってそうなホルダーや収納スペースがある上着を着た狐の目のような瞳をした男が立っていた。
「やっと姿を現したか」
「よく分かったねえ。僕の魔法はこの国の中でもかなりの上位の幻覚使いとしての実績があるのに」
「依頼者はあのおっさんの派閥の人間か?モルド嬢は関係は無さそうだな」
「そうだねえ。じゃあバレちゃったし……死んで?」
そう言って狐男は一本短剣を持ち一気に迫ってくる。
仕方ないか……
俺は魔力を身体中にまとわせ俊足と剛腕、金剛を発動させ短剣を腕の手甲だけで弾いていく。
短剣には何か塗られているようで一応触らないでいるがさっさと終わらせたいので一気に懐に入り拳を叩き込む。
だが狐男はなんとか防いだようだ。
「なっ……早すぎちゃうか?」
「うるせえエセ関西人みたいな口調するな」
「かんさい人はよくわからないけどなんか失礼なこと言われている気がするなあ」
そう言いながら短剣を振るってくる。
俺は体をそらして一本、男の体にある短剣に触れる。
「よし……『複製』」
「何を…っ?!」
一瞬不思議そうな顔をした狐男は一気に距離を取る。
その男の先にいる俺の手の中には『体についているものと全く同じ』短剣が黒い雷を発しながらそこにあった。
「何をしたんだい?」
「何、ただお前の短剣を『複製』しただけだよ」
俺の個人魔法、「複製模倣」の能力は相手の能力を自分の中に複製して自分の思うままに模倣する能力だがこの能力の複製の部分だけを使用することで武器の複製をすることができるのだ。
「おかしな能力だねえ……さすがは勇者ってとこかな」
「納得してくれたのなら続きをしようか」
「これは少し厳しいかもねえ……」
お互いにそう言いながら一気に駆け出した。