崩れ去った日常
日本とは程遠い、中世のヨーロッパのようだがなにかが違う月が二つある世界で一人の男は戦場を駆けていた。その男は凄まじい速さで駆けながら黒と白の二本の短剣を使いながらゲームのようなモンスターに振るい、確実にそのモンスターを屠っていた。
だがその男の瞳の中に感情は全くなく、ただただ作業をしているようにも見える。
「この世界には……希望なんてない。あるのは絶望だ」
モンスターを屠ながらその男は自分の師匠である女性に言われた言葉を思い出していた。
この終わる気配のない戦争にも醜い多種族間のいざこざにもうんざりした、そんなことを頭に考えていた。
『もう勇者召喚なんて、うんざりだ』
♢♢♢
ーー、ピピ、ピピピピ、ーーーー
「うん……?」
目覚ましの音に気がついて俺はベットから体を起こす。
俺はそのまま自分の机のところにある真紅のバンダナと黒と白の金属製のブレスレットが置いてある方を向いてその二つに声をかける。
「おはよう……アルメリア」
俺の名前は伊澄直也、三年前に異世界に召喚された元勇者だ。
「おはよう!伊澄くん!」
「おはよう、白花さん」
場所は変わって俺が通う高校、柴木高校だ。
俺は入学してから基本目立たないように高校では行動しているのだがここ最近、二年に上がったぐらいの頃にこの少女、白花鈴になぜか構われるようになった。
彼女はこの学園の中で「天使」と呼ばれるくらいの美少女だ。
まさに男子の理想を体現したような感じの少女でルックスはもちろんスタイルもバランスよく成績も優秀、性格も優しく責任感が強いので教師からの評判もいい、こんな少女がいたらそれはモテるに決まっている。まるでアニメの世界の美少女なのだ。
そう、モテるのだ。
なので普通の男子なら構ってもらうことはご褒美らしいのだが俺は違う。
俺は目立ちたくないし、白花さんと話していると……。
「おはよう伊澄、今日も精がでるな」
「どうも、天川」
こいつがでて来るからだ。
こいつは天川真司、白花と幼馴染で男子版の白花さんみたいなもんだが、男子からの人気は低い。
その理由は単純な妬みもあるがその性格にある。
表向きは外ズラがいい天川だが中身はクズなのだ。
いじめ、暴力などを気の弱いカーストの低い生徒にしているが外ズラがいいので受けているがわの意見が信用されていない、女子の中にはファンクラブもあり天川のその行動を隠しているのでさらに加速しているのだ。
「伊澄、いつも言ってるだろ?高校にそのブレスレット……装飾品の類は校則で禁止なんだから持ってこないように言ったじゃないか」
「俺も何度も説明したよな?このブレスレットは学校側に許可をもらってつけてきてるんだよ」
「でもそういう理由だとしても他の生徒がそう言って君のような装飾品を持ってきたら困るじゃないか。外してくれないか?俺が後で先生に渡しておくから」
なんでかここ最近、こいつは俺のブレスレットが欲しいのか何かと文句をつけて俺からブレスレットを外させようとするのがここ最近の面倒だ。このブレスレットは三年前に召喚された時の持ち物だから絶対に渡さんけど。
「もう真司!なんでそんなに伊澄くんに突っかかるの!」
「鈴、これは仕方のないことなんだ。学校の風紀を守るために伊澄が装飾品を持ってきてるのは生徒会の一員として見過ごせない」
白花に文句を言われているのに俺のブレスレットを取り上げようとする天川。
また面倒な話し合いをするのかと思っていると担任の先生の佐々木先生がやってきたのでそのまま席に着く。
「はあ……」
「大変だね、直也くん」
「うるせえ、だったら助けてくれよ七葉」
「ごめんごめん」
席に着いたら隣の女子が話しかけてきたのでそのまま文句を言う。
彼女は腐れ縁の白崎七葉、勇者召喚から帰ってきてできた友人で俺の勇者召喚のことを知っている学校内でただ一人の女子だ。髪はショートで背は低め、自身の名前にも入っている葉の髪留めが目立つ少女だ。
彼女も勇者召喚で俺と同じ異世界の戦争に巻き込まれた経歴もある。俺がこの世界で信用する人間の一人でもある。
「そのブレスレットは君の勇者時代の武器だもの。確かに助けたかったけどあの男のファンクラブの会員の女子に嫌がらせされるのは困るんだよ」
「異世界では鬼才とも呼ばれた術の勇者がこんな感じとはな」
「うるさいよ、剣の勇者」
お互いに昔のことを使ってお互いにおちょくっていると佐々木先生が今日の予定を話し始める。
今日もあの時のように戦かった世界ではなく平和な日本の生活を楽しもうと先生の話を聞こうとした瞬間にーー
またも俺の日常は崩れ去った。