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短め。本日二話目の更新となります。ご注意ください
森林の中に鏡達はいた。四人で隠れ茂みに身を潜める。初日のバトルロワイヤルは二年生。鏡達が当たったのは森林ステージ。一面が森で鬱蒼としている。はぐれては二度と合流は出来ないだろう。
「一応確認だけど胸にバッジはつけてるよね?」
山茶花が三人に問う。四人の胸元には緑のダイヤのバッジがついている。これは生徒全員がつけているものでバッジを取られると退場となる。全員取られればチームは敗退というルールだ。また制限時間は二時間。二時間で決着がつかない場合は残った人数で勝敗をつける。同数の場合は再度延長戦という形で勝負する。
「この森林だがどう攻略していくか。」
「燃やそっか?」
「火を放つが早いと思う。」
「うん、一人はただ爆破したいだけだな。鏡は実体験も兼ねているというところか。」
昔一度山が燃えたところを見たことあったがあの勢いは凄まじかった。瞬きの間にどんどん山が赤く染っていくのだ。森林そのものをなくせば攻略もなにもないはずだ。
「発想が物騒だよ!? ひとまずこうやって隠れて奇襲するって言うのがいいんじゃないかな?」
世見の案が妥当だろうと誉が頷く。
「それなら鏡。君は木に登って上から見張っててくれ。」
「わかった。」
木に登れるのはもちろん鏡しかいない。するすると上まで登り太い枝で腰を下ろして周囲を見るがやはりどこも隠れているのか人は見えない。そもそも広い森の中だ。会うのにも一苦労するだろう。八チームといえど四人一組なので32人。ステージに対しては十分少ない。
じっと息を殺して上から見る。そして偶に他の木も確認する。鏡同様木から木へ移り渡れる人物がいるかもしれないと。あともし森より上、上空を飛ばれていたら敵わない。飛ぶ手段は一切ないのだ。
木な上にいるとどうしても安心してしまう。懐かしい気持ちが込み上げてくるし、さらに今回は──
などと地元のことを思い出している動いている茂みを見つける。それを見て閉じた扇子で木に触れる。厳密には気に絡まる蔦だ。扇子が蔦に触れるとそれと一体化したような気分に陥る。手足のように動かし下にいる誉に伝える。
地上で誉の一部である蔦に反応が来る。
「敵を見つけたようだ。──あちらの方にいる。」
顎で敵がいる方を指す。こちらに移動してきたのだろう。近くで止まっているようだ。
「敵の姿までは確認出来ていないみたいだ。」
どういう精霊と契約しているか分からないということだ。蔦での合図は決めてあり単純に敵の視認、方向、顔の確認は出来るか。そこだけ伝えるような合図にしてある。
それに例え相手の顔がわかったところで知らない人物、要注意人物でなければ能力は全く分からない。髪の色で推察できることもあるが変化しないものもいるので過信できない。
「さて、出方を伺うかどうか。」
「爆発させる?」
「風でそこら辺の草木斬る?」
爆破しか頭にない山茶花の案は聞かなかったことにして世見に風を操って切ってもらうよう指示する。
世見が集中して指示された場所で旋風を巻き起こす。
「風のやつか!?」
丸裸にされ敵チームの誰かが声を上げる。すると誉達がいた地面が柔らかくなる。いやそこだけではなく辺り一帯がぬかるんでしまった。足を取られ動けなくなる。
「向こうよ!」
土の精霊使いがいるようだ。鏡は黙って上から見る。最終兵器、という訳では無いが死角から攻撃が可能な位置にやすやすとつける鏡を簡単に戦場に下ろす訳にはいかないのだ。しかし戦いが気になり下を見ていたせいで気づかなかった、他にも木を渡って来ている人物に。
「てりゃあ!」
掛け声ともに顔に衝撃が走る。後ろへと体が倒れる。宙に投げ出されるが反射的に木に絡まる蔦を掴むがぶちりと切れる。それを手早く扇子に巻き付ける。蔦を別の木の枝へと投げる。意志を持ってそれに巻き付きターザンのように落下の勢いでその枝へと着地する。さて、これで地面にいる他のチームにもバレただろうな。
くるり、と振り向き先程いた場所を見れば神足学園の制服を来た女子生徒がいた。その子は姿勢をぐっと低くしこちらをきつく睨む。そして飛ぶ。人が乗っても平気な枝が折れる音ともにこちらに弾丸のように向かってくる。
これは流石に無理だ!
別の木へと飛び移る。背後で枝がバキバキと音がすると枝が落ちる音がする。
ここからあの怪力の人を離した方がいいよな。このまま飛び移り続けて──
「──ぐっ!」
横から衝撃が走る。空中にいたせいでそのまま飛ばされ地面へと向かっていく。顔だけ何かが飛んできた方へ向けると木の上でおもちゃの鉄砲を構えてる人物がいた。
「──木の上にいるのはいい案と言える。しかし自分だけと思わないこと。こちらは全員で地の利を得ている。」
銃口を胸元のダイヤのバッチに合わせる。咄嗟に扇子で隠す。銃口から発射されたのは氷の玉だった。扇子に当たるとそのまま押され地面へとさらに加速して落ちていく。地面へ背中から落ちる。肺の中の空気が一瞬なくなる感覚に陥る。
ここには今自分たち含め三つのチームがいる。完全に俺は引き離されている。戻ることも出来なくはないけど無傷では無理だろうな。
上を見れば先程攻撃してきた二人、それとさらに上に影だけだがいるのが確認できる。
「これは頑張らないとな。」
ぎゅっと《精霊器》を握り覚悟を決めた。
ぬかるみに足を取られ残された三人。
「鏡どっか行っちゃったよ!」
世見が抜け出そうと風でぬかるんだ土をどかそうとするが元に戻り抜け出せない。それは誉と山茶花も同様だった。
ガサガサと草木を掻き分ける音が近づいてくる。しかしそれはパタリと止み
「うわあ!」
「切って!早く!」
「切ってるよ!でも次々と!」
という悲鳴が聞こえる。それを聞いて誉が少し口角を上げる。
「あともう一人はどこにいるのか──いた!」
植物を使い敵の居場所を探っていた誉。
「二人とも押し上げる。構えろ!」
ぬかるんだ地面から絡まった蔦が足場となってせりあがってくる。二人はなんとかバランスを取る。絡まる動く植物を相手取る様子が見える。
山茶花が手のひらに四つの小さな火球を出すと雑に放り投げる。
「山茶花!? 待って待って!」
それを見て世見が慌てて風で火球を操る。突風で相手の胸元のダイヤに当てる。
「よし、 一人当たった! あと三人!」
風でコントロール出来たのは一つだけ。そもそも一つだけでも小さい的に誘導できるだけ凄いのだが。
「まだまだいくよー。」
ぽろぽろと手から小さい火球をばら撒く。その顔は無邪気に笑っている。その様子を見て誉が顔に手を当て大きな溜め息を吐く。火球は地面に落ちたものは泥の中へと埋まってしまう。
「やっぱり当たらないねー」
「それはそうだろ。全く無駄に力を使わないでくれ。」
「三人はどこかに隠れたみたいだけど……私たち格好の的だよね?」
「そうなるな。と言っても今ここにいるのは私たちともう一つのチームだ。三対三なら丁度よいと言える。」
植物の上に立ち上がり地面を見下ろす。そして息を一つ吐き
「今から私は動けない。頼んだ。」
ズズ──彼女の体が植物に飲まれていく。なにが起きてるかさっぱりの世見は慌てふためくのに対して山茶花は愉快そうに笑う。
「大丈夫だよ。これから凄いの見れるから。」
「すごいの?」
植物の中で誉は目を閉じ感覚を研ぎ澄ませる。全ての植物を操るのだ。
じっと誉を飲み込んだ植物を見つめる二人、すると地面が揺れる。木の根が泥から這い出でる。いや、根だけではない、植物の蔦も、これは誉が操るものだろう。それは範囲を広げ伸びていく。そして5m程度のところで天へと伸びて壁を作る。いつか練習で見た植物の壁だ。そしてその中で三箇所から二人の足場のように盛り上がる。そこには人がいる。同じ高さにくれば嫌でも目が合う。
「山茶花いける?」
「もちろん。」
確認ができたところで世見が跳ぶ、敵に向かって風に乗って勢いよく。敵は足を植物で絡まれていたが火の精霊使いが燃やし男子生徒が同じく火の勢いを使って世見へと向かってくる。
炎を纏った拳を振りかざし殴りかかってくるタイミングで逆向き、そして下から風を発生させ空中で止まる。
──できた!
空を切る拳。浮かぶ手段のない相手は落ちるだけ。しかし世見の風も一瞬その場に留まらせる程度しか出来ない。彼女も遅れて落ちる、ということはなく近くの木から蔦が垂れ彼女に巻き付く。しっかりとした支えで吊す。しかしそこを逃してもらえる訳もなく世見に向かって炎を纏ったブーメランが飛んでくる。蔦を斬ろうと飛んでくる。
切られるというところで爆発が起きて敵の方に戻っていく。
山茶花の方を見れば左手の平を上に向けデコピンの要領で火球を飛ばしてくれたのだ。
「助かったよ! よーし!」
風を起こして体を揺らす。振り子とは逆にどんどん振り幅が大きくなる。
「今だ!」
加速したところで蔦を切る。再度、さっきよりも勢いよく敵に向かう。
残り二人。一人はブーメランを持った騎士。もう一人はとそちらを見れば水の弾丸が線を描き飛んでくる。それに口角を上げる。
自分の周囲に風を纏えば水はそれに沿って流れていく。
世見はその勢いのまま騎士に蹴りを繰り出す。風を纏えば威力は上がる。二対一と言えど負ける気がしなかった。
一方山茶花は落ちていく火の精霊使いを見下ろしながら手のひらに火球を作り出す。そしてそれをデコピンで弾く。それは真っ直ぐ寸分違わず相手のダイヤを砕いた。
「はあ……やっぱり交流会はめんどくさいなあ。こう、もっと派手に爆発したいのに。」
すとん、とその場に座る。すると植物に頭をぺしりと叩かれる。ちゃんと戦えと怒られてるのだ。
「分かってるよ。でも休憩させて欲しいな。元から体力がないからさ。」
儚げに笑うと仕方ないと植物は大人しく消えた。山茶花は精霊と契約して今はこのように動けるが本来は走ることはおろか歩くだけで息を切らす。
「それに、世見の勝ち、みたいだよ?」
風を纏いながら戦う世見は薄く脆いながらも壁が存在する状態だ。水ではそれが流されてしまい決定打は与えられない。騎士の方にしてまこの狭い足場ではブーメランを使えない。ここは一旦下がらないと。そう思い地面に下りようとしたところで足が動かない。火の精霊が脱落し植物のことが頭から抜けたところで虚をつかれた。
「はああああ!」
鋭い蹴りが胸のバッジを破壊した。それを見て水の精霊使いも勝てないと判断し自分でバッジ外して世見へと投げた。1チームがまず脱落した。