26
本来の26話でした。なぜか投稿を忘れてました。なぜ今気づいた、と自分でも驚きました。
昨日は散々な目にあったな。突然知らない人に襲われて、知らない人に道を訊かれて。襲われたことより、商店街で会った方向音痴の人の方が強烈に印象に残っているのはあの人の迷い方が凄まじかったせいもある。
今思い出すと三人の制服同じだった様な。ブレザーの模様が一致していたような、いなかったような。そんなじっくり見たわけじゃないからハッキリしないな。
そんなことを考えながら登校をする。校門が見えてきたところで鏡は足を止めてしまった。
嫌なものを見た。あのひとつに縛った赤い髪。切り揃えられた黒い髪。お下げの若草色の髪。散々な目に合わせた三人が校門に立っていた。
聖堂学園の制服ではない者が三人も集まっているせいか登校している生徒がちらちらと見ていく。だがそんな視線を意に介すことなく堂々と立っている。
行きたくない。学校に行きたくない。初めてそんなことを思ったが理由もなく休むことも出来ない。ましてサボりをする度胸もない。
他に入れる所は職員用、と名ばかり場所だがそこから入ることを決めいざ、行こうとした時
「藤川鏡くん!」
目が合ってしまった。逃げられないと悟った後に語った。
そこまで近いわけではなかったのに一瞬で距離を縮められてしまった。目の前に来ると胸を反らして手を当てる。
「恩人藤川鏡くん! 昨日は本当にありがとう! 君のおかげで私は問題なく聖堂学園に着くことができたのだよ!」
ああ、この大きな声。昨日ぶり。昨日と同じテンションで鏡はどこかに消えたいと切に願った。
「なんか元気がないみたいだけどどこか具合でも悪いのかい? なら、私が保健室へ連れて行ってあげよう!」
「大丈夫です元気です!」
間髪入れず返した。この人なら平気でおぶったり抱えたりして運んでいきそうだ。絶対に嫌だ。そうなってたまるか。
「それなら良かった。そうだ! 君に謝りたい人がいるんだ! おーい! 由依に焔、来なさーい!」
言われる前からだが二人はこちらに向かっていた。
え、なに。この三人知り合いだったってことだよな。まって、本当に帰りたい。
どこか不機嫌な焔と涼しい顔をした由依が鏡の前に立つ。
「わ……悪かった! これで! いいだろ! 言っとくが俺は藤白なんて──」
「焔、昨日言ったよね。」
「ぐ、藤川鏡! お前なんか嫌いだ!」
一方的に謝られ、嫌われどこかへ行ってしまう。
「悪かったわ。私はただあの馬鹿に乗っかってやったのだけれどさすがに弱すぎないかしら?」
ぐさりと胸に刺さる弱いという言葉。自分の実力が足りないことは自覚しているが改めて人から言われるとくるものがある。
「謝っただけ上出来、上出来。でも二人とも相変わらず口が悪い! もっと優しくしないと!」
「言いたいことを言って何が悪いかしら。別にこの子と今後付き合いがあるとは思えないし。それじゃあね、藤川鏡。雷知を案内してくれたことには感謝するわ。」
優雅に去っていく。鏡は呆然としたままただ一方的に謝られ、謗られ、感謝された。
「ごめんね、藤川鏡くん! 二人とも素直というか、思ったことがすぐ口から出てしまうというか。悪い子ではないんだよ! あまり説得力はないかもしれないけど!」
「いえ……謝って貰えただけで十分なので。」
もう関わることがなければなんでもいい。もちろんこの人とも!
「さすが私の恩人! 懐が深くて涙が溢れそうになってしまう!」
涙など言っているが彼女は自信に満ち溢れた笑みを浮かべたままだ。
「さて、私も行かなければ藤川鏡くんも授業があるからな! では! また会おうではないか! 」
びゅん、と消えてしまう。嵐といえばいいのか。いや、通り雨の方が近い気がする。朝から疲労に襲われた鏡は憂鬱な足取りで教室へ向かった。
「お、鏡おはよう。」
「太陽おはよう……。」
太陽の笑顔を見て癒される。さっきの人とは違う。安心出来る。
「どうした? なんか疲れてるみたいだけど。」
「いや、ちょっと朝から色々あって。」
色々ではないがたった数分でここまで疲れるとか。今日は本当になんなんだ。溜息をつきながら席に着く。
「鏡くーん。おはよー。」
「……おはよ。」
「え、なんで睨むのー!」
なぜか信治こ声を聞いたらあの終始笑顔で方向音痴のあの人を思い出したのだ。何故だろう。なぜなんだろう。
「嫌なことを思い出して。」
「そっかーそれなら仕方ないねー。って違う! それ俺見て思い出したってことだよねー。結局俺原因〜。」
くたびれてしまった信治に暗い鏡と教室でそこだけが負のオーラを発している。少しだけ太陽は机をそこから離した。
「ホームルーム始めるぞー。席につけー。」
担任が入ってきて信治は肩を落としたまま席へと戻った。悪いことしたなと思いつつもどうにも元気がでない。
「えーと欠席はないな。よし。今日昼にそれぞれの教室の廊下の掲示板に交流会のチーム分けが貼られる。ちゃんと確認しとけー。それと放課後は昨日も言ったがチーム内での交流として6限があるからな。間違ってかえるなよー。5限が終わったらチーム毎に決められた場所に行くように。」
先生の話を聞きながら交流会か、と。交流会って確か聖堂学園って言うところとだよな。
「鏡くん。機嫌なおったー?」
「ん、さっきはごめんな。」
そう言ってスマホを取り出して聖堂学園について調べる。すると
「え? ──信治、昨日俺らを襲ったのって聖堂学園の生徒なのか?」
「そうだよー。って鏡くん知らなかったの?」
知らない。知るわけないだろ。
「精霊使いと騎士を教育する機関の中でここと並ぶくらい有名なのにー?」
馬鹿にするように口角を上げて見下ろしてくる信治の腹に軽いパンチを入れる。
「そもそもここも知らなかったんだよ。俺本当は精霊見えないし。吹雪と契約してやっと光で見えるぐらいなんだよ。」
「へ、 まじで?」
「こんなことで嘘ついてどうするんだよ。言うと俺にとっては精霊なんて、まして精霊使いや騎士なんて遠い存在だったんだよ、本来。」
吹雪の騎士には大分昔からなってたけど特に何かしろとは言われなかったし、俺としては吹雪との絆の証みたいな認識しかなかった。
「鏡。お前どうやって生きてきたんだ?」
まさか元気からも怪訝な顔をされてしまう。
「せ、精霊使いも全然いなかったし、しょうがないだろ! 二人してなんだよ。」
元気と信治が顔を見合わせる。精霊なんて今じゃ誰もが知っていて隣にいる存在。まだ精霊が一般に知られてない昔ならいざ知らず現代ではと、鏡の知識の疎さに不安を覚える。
「勉強会しよー! そうだ、そうしようよー!」
「それはいいな。教えがいのあるやつがいることだし。」
にやりと二人の口角があがる。嫌な予感がする。
「勉強って──」
訊ねようとしたところで扉の音ともに教師が入ってくる。さっと信治は席に戻り元気は前を向いてしまう。仕方なく鏡も黒板を見るしかなくなる。二人の悪い笑顔がどうにも不安しか覚えなかった。
二限は体育で制服を脱ぐ。制服の下に最初から体操着を来ているので別の場所で着替える必要がない。他の生徒も男女関係なくそんな感じだ。
「二人とも勉強会って!」
グラウンドに向かう途中で二人を捕まえる。
「だってねー? これは鏡のためなんだよー。日時はいつがいいかな!」
「確か来週の土曜はバイトが休みって言ってたな。」
ぐ、確かに休みだけど。なんで元気の前で言ってしまったか。過去の自分を恨む。
「午後から鏡の家でどうだ? 俺は午前部活があるからさ。」
「賛成ー!」
「家主への許可はどうした!?」
「鏡くん来週手料理楽しみにしてるねー。材料欲しいのあったら言ってー。」
「決定事項なのか。そうなのか……はあ。」
吹雪二人を相手にしてる気分になってくる。いや、あいつの場合そもそも行くとか宣言しない。勝手にくる。まだ優しいとどこか基準が狂っていた。
体育は実技訓練とは違い基礎体力の向上を目的とされている。そのため全員に『遮断器』が付けられる。素の運動能力が必要となる体育においては鏡は好成績だった。
「……藤川、やはり体育は得意なんだな。」
体育の教師は実技と一緒で呆れられている。それはそうだ『精霊器』が抜けないのでどうしても実技では成績が悪くなってしまっていた。
「はは……。どうもすみません。」
そう言うしか無かった。練習に戻る。授業はサッカーだが上手く蹴れない人が多い。
「鏡ー俺とパス練してくれー。」
「いいぞー。」
元気から呼ばれてそちらに向かう。元気はサッカー部とあって上手い。他にもサッカー部は何人かいる。
「なー、サッカー部入らねぇ?」
「え!? いや、さすがに無理だって。授業や遊びでしかやったことないし。」
「いや、いけるって。所詮精霊使いのための学校なんだ。素の運動能力は……その、はっきり言えばない。」
その言葉を否定できなかった。吹雪で運動能力が高いってなればそうか。吹雪の場合そうとうな練習を繰り返してあそこまでいったからな。地元で一緒に遊んだ時は誰よりも足が遅かったし。
「戦力が欲しいってところか?」
「その通りだ。でも鏡は入るとしたらバドミントンか。」
「そうなんだけど異様にレベル高くてさ。」
球技大会で負けたことが蘇る。三年生ということもあったがもしかしてペアの両方ともバドミントン部で固めたのか。
「いや、あそこは強いペアが一組いてそこで成り立ってるはず。俺も詳しくは知らないけど。」
「そうなのか──あ、ごめん変なとこいった!」
入るのもアリかと少し上の空になった途端これだ。
「いいって。よっと──いくぞ!」
離れたところから寸分違わず鏡の元へとボールが飛んでくる。元気はスポーツが上手い。サッカーに限らず。
「運動神経いいよな、元気。精霊使いって基本精霊のおかげというかせいというか運動神経悪いじゃないか。」
「はは、お前もはっきり言うな。俺は単純に契約したのが遅かったんだよ。ぶっちゃけ言うとお前と同じで中三まで見えなかった。進路を決めるかってなった途端今契約している精霊が現れてさ。」
それで契約したと。そういうこともあるのか。
「だから俺みたいなやつは普通に運動できるし、元から出来ない奴もいるってことだな。」
元気の蹴ったボールが綺麗にゴールへと入る。
「だからこうやって基礎体力をつけてるんだろ。俺らからしたらちょっと退屈だけどな。」
「はー疲れたー。鏡くんはともかくなんで精霊使いの元気くんもあんな動けるわけー?」
「運動は昔から好きだったからな。」
信治は騎士なので運動は普通にできる。ただ恩恵は受けているので『遮断器』をすれば能力は落ちる。
「で、鏡くんはアホみたいに飛ぶし。バク宙とかやって、先生驚いてすごいでかい声で鏡くんの名前叫ぶから祥子先生窓から慌てて顔をだすしー。」
「俺の友達バク宙出来るやつ何人かいるぞ?」
「まって、怖い。なんなの鏡くんの友達。」
ドン引く信治もだが流石のことに元気も乾いた笑みを貼り付けている。
さすがに俺もバク宙がほいほい出来るものだと思ってないけどやっぱり他にもいるってあの村どうなってるんだ。山とか、木に昇ってそのまま別の木に移ったりしてたせいか?
「一回鏡の地元に行ってみたいな。夏休み帰るのか?」
「ああ。お盆の時期とずらして帰ろうかなって。」
すし詰め状態の電車に乗りたくない。親にも盆じゃなくてもいいって言われたし。
「俺ついて行こうかなー。気になるしー。」
「着いてくるのはいいけど結構金と時間かかるぞ?」
「うっ。やっぱ遠慮しとくー。」
「俺も実家帰るしな。信治は家この辺だったよな。」
つまり実家生ということか。
「そうなんだけど、電車でないと通えないからさー。地味に遠いよー?」
「へぇ、田舎か。」
「確かにここと比べればねー。それでもたぶん鏡くんところほどじゃないよー。」
「それはそうだな。俺のところ電車通ってないし。元気のところは?」
「俺か? 俺のとこは──。」
元気が言おうとしたところで
「藤川くーん!」
向こうから手を振ってこちらにやってくる女子生徒に呼びかけられる。
「地鶏さん。どうしたの?」
やって来たのはクラスメイトの地鶏世見。橙色のショートカットで鏡からの印象は明るい子と好印象というよりはそれぐらいしか印象がない。
「交流会のチーム分けが貼りだされて、私と藤川くん一緒だったの。」
「そうだったんだ。よろしく地鶏さん。」
「うん、よろしく!」
すっとなんの気負いもなく手を出してきたので握り返す。力強い握手で頼もしかった。
「俺見てこよー。元気くんもいこー。」
「ああ、誰が一緒なのか気になるな。」
「あははー。元気くんは誰が一緒でも関係ないのにねー。」
他のメンバーも気になるので鏡も二人と一緒に見に行く。と言っても四人で一チーム。半分は神足学園の生徒なので見ても誰か分からない。
えーと、神足学園の人は……苑山山茶花? 下の名前って、さざんか? さざんかでいいんだよな? 苑山で間空いてるし。もう一人は斉藤誉。こっちはほまれで普通に読める。読み仮名振ってあるから間違いはないだろうけどすごい名前の人がいるんだな。
男か女かは今のところ分からないが頑張っていこうと拳を作る。まだ先の話だが。
放課後地鶏さんに知っているか聞いてみよう。
「おっひるー♪ おっひるー♪ 鏡くんのおかずを今日もちょうだいするぞーきょうだけにー。」
「ははは、面白い。」
「まって鏡くん! そんな乾いた笑いならまだつまらないって言われた方がましだよ!」
何年それでいじられたと思ってるんだ。突っ込むことはとっくの昔にやめた。
「残念だけど今日は食堂で食べるから弁当はない。」
「え〜。じゃあ俺昼何食べればいいのー。」
「いや、食堂かパン買えばいいだろ。」
なんでそんなに俺の弁当を集ろうとするんだ。いつも集られるから多めに作る羽目になるし。
「俺も食堂で食べるか。今日は確か唐揚げ定食があったはず。」
「それなら俺もそれにする。元気弁当じゃないんだな。」
「同室の奴が今日作る担当なんだけど用事でいなくてさ。」
交代で料理を作ってるんだな。
「てか、寮の部屋にキッチンちゃんと着いてるんだな。」
「ああ。一応申請すれば寮の食堂でも食えるぞ。」
寮なのに便利だな。うーん、俺も寮にすればってだめだ男装がある。こういったところは不便だな。だがさらに困ったことに少しも疑われない。さらに自分としても何も違和感がない。
「俺も食堂で食べるー。二人とも待ってー。」
放課後、それぞれの指定された場所に集まる。と言っても二人ずつなのでどちらかのクラスの教室に行くだけだ。鏡と世見は同じクラスなのでそのまま残る形になる。
「改めてよろしくねー藤川くん。」
「よろしく地鶏さん。」
そうやって挨拶をすると世見は何か考えるかのように腕を組み唸り始めた。
「うーん、せっかく同じチームだから鏡くんって呼んでもいい? 私も世見でいいからさ。」
「それなら俺も、くん、はいらないよ。よろしく世見。」
お互い笑い合う。うん、やっていけそうだ。これで仲良く出来なかったら今後大変だったろうし。
「それで鏡くん、じゃなかった。鏡は騎士だよね。それなら誰かと仮契約しないと。」
「仮契約?」
「うん。さすがに敵チームの力を借りたりできないでしょ。だから交流会では仮契約をするようにしているの。そっか、鏡は初めてだもんね。」
仮契約なんてできるのか。と驚く。
それなら世見だといい。まったく知らない人よりはそっちの方がいい。
「私と? うん! 全然いいよ。でも、まずは契約している人に言ってからね。そこら辺はちゃんとしないと。人によっては怒ったりするから。実際今までもそういった事があったから。」
「わかった。それなら断ってからまた改めて仮契約してもらうってことで。」
おっけー、と指でサインを作りながら応えてくれる。
「それで、気になってたんだけど──」
少しだけ顔を寄せてくる。少しだけ緊張した面持ちである。
「鏡の精霊使いって誰なの? もしかして館林くん?」
「元気じゃないよ。皇吹雪が俺の精霊使いだよ。」
特に隠すことなく伝える。鏡としては隠しているわけでもなく、ただ聞かれないので答える機会がなかったのだ。
「……ごめん、もう一回言ってもらっていい?」
「皇吹雪だよ。ほら、生徒会の。」
「嘘でしょ!!!!! まって!!! 妄想とかじゃなくて!!!」
教室を突き抜けて学校全体に響くのではないかという大声で驚かれる。
「世見、声抑えて、抑えて。」
「いや、だって!!!……すぅ──。ごめん、取り乱した。え、本当に?」
ものすごい疑いの目を向けられる。そんなおかしなことだろうか。
「嘘つく必要ないだろ。本人呼んで聞く?」
「いやいや、いい。呼ばないで、お願い。」
会いたくない。それが世見の本心だった。《御三家》《七色》には極力関わらない。一般人の意識として根付いているのでまさかの目の前の人物が関係者とは思っていなかった。
皇さんは他の神木さんや浅黄さんに比べたらまだ大丈夫かもしれないけど、やっぱり遠くから眺めているぐらいがちょうどいい。
「鏡が皇さんの騎士だってことはわかった。だからスマホはしまって。」
出しかけたスマホをしまう。
「うへーまじかー。いや、うん、仕方ない。仮契約のことはしっかりと皇さんに伝えてね。まあ、皇さんだから交流会への理解はあるから大丈夫だよね。」
「吹雪はそんなこと気にしないと思う。だって友だちじゃなくなる訳でもないんだしさ。」
鏡にとって大事なことはそこだった。それに吹雪の騎士でなくなる訳でもない。あくまで仮、なのだから。
「そういうことじゃないんだけど……。でもいっか! 本人がいいって言ってるんだし! 皇さんは理知的で素敵な人だし!」
理知的。その単語と吹雪が結びつかず鏡は首を傾げた。直情タイプ。理性より野生が強い。暴力的。そっちの方が吹雪らしい。しかし、ここでは明らかに吹雪の印象が他の人と違うことはわかったし、さらに吹雪が猫を被っていることもわかったが鏡からしたら気持ち悪いものだった。
「ひとまずそれぐらいかな! あ、でも交流会で何するかわかんないよね?」
「まったく。」
「ははは。簡単に言えばチームごとにバトルロワイヤル。学年ごとでやってそれぞれ上位四チームでトーナメント。これだけ覚えれば大丈夫!」
あとは戦うだけどから! 元気に言われるがこちらとしてはまったく元気にならない。戦うだけとなると不安しかない。
「あ、精霊器は別の日に一緒に選ぼう。使えるかドキドキだね!」
ドキドキではなくヒヤヒヤだ。足を引っ張るようなことはしたくないが、お荷物になる予感しかしない。
「まあ、本格的なことは夏休み明けてから。一週間会場に泊まってチームとの交流。もちろん他の人ともオッケー! 楽しんだもん勝ちの行事だよ!」
「……楽しめるかな。」
「いけるって! この学校でもやってけたんだもん! 」
それは言えていると思った。ここでの知り合いは吹雪と静。どちらも違うクラスなので学校で話すことはほぼない。
「頑張る。とりあえず強くなってお荷物にならないところから!」
「よーし頑張れ! 応援するからさ!」
拳を作り天へと伸ばす。いつまでも吹雪に弱いなんて言われる訳にもいかない。これを機に強くなってやる!