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お久しぶりです

 いない。ここにもいない。こっちにもいない。


「古屋さん。あと行ってない場所から連絡などありましたか?」


 幾つかアトラクションを巡った二人だが。手がかりすら見つからない。


「いえ、一切ないですね。アトラクション外の清掃員などにも連絡してますがそちらも……。」

「そうですか……。」


 もしかしたら園外かと考えたがそれは考えないでおくことにした。それを考えてしまえば捜索の足が止まってしまう気がしたからだ。


「従業員専用の場所とかはどうですか?」

「そちらの方も報告は……。」


 申し訳ありませんと謝らせてしまう。古屋が悪い訳では無いのに。


 他に場所に移ろうとアトラクションから出た時


「皇さん!」


 聞いたことのある声が吹雪を呼んだ。声のする方を見ると信治と紫もとい心乃葉が吹雪の元に駆け寄る。


「カガミちゃんが行方不明って聞いたんだけど……。」


 同じ建物にいたのだ気づくか。吹雪は隠すことなく肯定する。


「私達も探すの手伝いましょうか?」

「さすがに申し訳ないですから……。今園の従業員の方に仕事をしてもらいながら探してもらっていますので。」


 暗に必要と伝えると簡単に心乃葉は言葉を引っ込めた。


「とりあえず俺たちも注意しながら回りますからー。」

「ありがとう荒川くん。見つかったら連絡するから。」

「れん……らん……?」


 心乃葉が驚いた顔を信治へと向ける。信治は小さな声でやべ、と焦る。


「どうして皇さんの連絡先を知っているのかしら……?分かってる?皇さんの連絡先よ!ものすごく貴重よ!」


 胸ぐらを掴みながら信治へと言い聞かせる。信治ははいはい、とおざなりに頷いている。


「心乃葉も交換しますか? もしキョウコを見つけたら連絡をください。」


 特に考えもなく提案すると驚きの目を向けられる。


「い、いいんですか?」

「ええ、もしかして嫌ですか?」

「まさか! 喜んで!」


 手を振って吹雪の言葉を否定すると携帯を取り出す。僅かにその手が震えているような気がしたが気の所為と断じた。


「それでは私達はキョウコを探しすので二人ともデートを楽しんでください。」


 頭を下げて古屋と並んでまだ探していない場所へと向かう。


「……や、やったわ……。」


 携帯を握りしめながら吹雪の後ろ姿を眺めている心乃葉が呟く。


「どうしたんってなにニヤけてるの。」


 様子のおかしい心乃葉を見るとだらしなく顔が緩んでいた。


「ふへへ……皇さんの連絡先……これは他にはないアドバンテージよ!」


 どんな時でも自分に利になることに対しての執着が凄まじいと信治は呆れる。


「それにしてもカガミちゃんが行方不明ねー。どう思う心乃葉ー?」

「さあね。私の知ったことじゃないわ。一応見かけたら連絡して恩は売るけど、躍起になって探す必要は無いでしょ。」

「うわーひどーい。」

「どこがよ。連絡するだけいいでしょ。それよりも怪しい所はないの?」


 心乃葉達の目的は吹雪と同じ。『パラドクス・ランド』の噂の真相を探ることだ。結果は今のところ芳しくなく信治は首を横に振る。


「使えないわねー。と言っても私も分からないし……。もし、精霊を捕まえたならどこに隠すかを考えるのよ。」

「精霊の力を使うんだし建物の近くだろ?でなきゃ運搬にコストがかかるし。」

「コスト……近く……。地下とかどうよ!」


 閃いた!と言わんばかりに指パッチンを鳴らす。微妙な音しかでない。


「下手くそ……。」

「なんか言った?」

「なーんも言ってなーい。」

「その間延びした口調ほんと腹立つ。で、地下って案はどうよ?」


 再度信治へと問いかける。


「個人的にはありだと思うよー。でも地下なんてここ建てる時にバレるんじゃないのー?」

「ああ、それは問題ないわよ。ぜんーぶ隠れてた。完成するまで工事の様子は誰も知らないわよ。」


 心乃葉の言う通りこのテーマパークが出来るまでは全容はおろか一つの建物の情報が出なかった。全てが完成した日に敷地を覆っていた幕が消えたのだ。


「……ちょっと探してみるか。」


 少し思案した後ポツリと心乃葉が零す。


「はあ!? 馬鹿じゃないのー? 仮にあったとしても俺たちで行けるところにはないだろー? 見つからないって。」


 信治が止めに入る。さすがに犯罪行為をさせるわけにはいかない。


「嫌よ。多少の危険は承知。相手はもっと大きな犯罪を犯しているのよ。さあ!行くよ!」

「馬鹿じゃないのー!」


 嫌がる信治の腕を引き心乃葉は入口近くのインフォメーションセンターまで向かった。植えられている木に隠れながら近づき窓からそっと中の様子を伺う。


「やめようー。見つかったらどうすんのー。」

「見つかった時に考える。中は……そんな人はいないわね……──ん?」


 バレないように覗いていると奇妙なものが目に入った。従業員の机の上に無造作に置かれている白衣を。


「──ねぇ、白衣ってどういう時に着る?」

「白衣? 突然なにー。」

「いいから答えて。」

「えー、普通科学者が実験する時とか医者が仕事の時着るもんだろ。他に着る人いるー?」

「そうよね。よし、入る。」


 決然と、突入を決めた心乃葉は一度建物から離れる。


「え、入るってマジ?」

「大マジ。さて、この木を燃やすわ。カグヤ!」


 契約している精霊の名を叫ぶ。炎が心乃葉の右手を包む。心乃葉が右手を振るうと炎が気に向かって飛んでいく。木に炎が移り燃えていく。


「戻るわよ。」

「マジでやったよこいつ!」


 心乃葉はインフォメーションの扉を思い切り開く。職員が心乃葉の方を向く。


「あっちで木が燃えていました!」

「え!それは本当ですか!?」


 一人の職員が慌てて心乃葉へと駆け寄る。


「はい、あっちです!」


 扉から燃えている木を指し示す。職員は血相を変えて中へと入る。他の職員にも火事が起きていることを伝えると一瞬で慌ただしい雰囲気となる。


「信治行くよ。」

「俺もかー……。」


 小声で会話をする。人の視界から外れるように進んでいく。心乃葉は途中の個室にまた炎を放った。建物での出火に職員のほとんどがそこにかかりつけになる。


 心乃葉が目指すは窓から見た部屋。職員全員の机がある場所。その一つ、白衣が乗っている机に来ると白衣のポケットを探り始める。出てきたのは首に下げて使う名札にボールペン、財布に携帯。名札だけ自分のポケットに入れるとそれ以外は元の場所に入れる。


「そんなん持ってどうするのー?」


 辺りを伺いながら小声で信治が訊ねる。


「多分だけどこれキーよ。」

「キー?」


 名札は丈夫な作りで少しだけ厚みがある。


「小型チップでも埋め込んでいるはずよ。さーて、入口はどこかしら?」


 そう言って廊下の方を見ると火のあるところとは逆方向に走る職員が見えた。心乃葉は静かに口角を上げるとその職員の後を追いかける。

 その職員は一旦辺りを見渡してからなんの変哲もない扉を開ける。


 職員が扉の奥に入ったのを確認した後扉に聞き耳を立てる。何故か物音は一切聞こえない。


「大当たり♪」

「……なあ、離れた方が良くないか?」


 不安そうに信治が訊ねる。信治は立場的に心乃葉に逆らうことが出来ないのでここまで着いてきたのだ。


「断固拒否。ここまで来たのよ。ここの悪事を暴いて紫崎の中で優位に立つのよ。信治も協力しなさい。」


 ぎらついた欲に満ちた目で語られる。信治はため息をつくしかなかった。


 心乃葉がゆっくりと扉を開ける。そこには最新の技術で作られたのであろう扉。そしてその横にタッチパネルのような物がついている。


 先程盗んで名札をそこに翳すとピッと音がなり扉が開く。その先には地下へと続く階段が伸びていた。


 口角が自然と上がるのを抑えられない。はやる気持ちを抑えながら二人は階段を駆け下りた。





「ちょっと! どうしてバレたの! 我何かした!?」

「知らない! でも本当にどうする?」


 二人の精霊と一人の人間が追われていた。何がどうしてかは分からないが突然研究員の数が増え全くもって動けないのだ。

 研究員が近づく度に空間を繋いで隠れたりしているが満足に移動は出来ない。


「それにしてもどうしてお前がいるってわかったのかしら。」

「多分俺のつれが探しているのが原因なのかも。それでここを探している……って所?」

「お前自分で何言ってるか理解出来てる? 返答は結構よ。顔を見れば分かる。」


 酷い言い様だがぐうの音も出ない。吹雪が地下のことを知ってるわけがないしな。それに地下のことは隠しているだろうし。


「うーん、でももしかしたらそうかもしれない。我が既に脱出しているからよっぽど強い精霊であれば力の残滓からどういった精霊か特定出来ると思うけど。それに人が行方不明になったとしたらここの蛆虫共が疑って秘密裏に探すかもしれない。」


 ちょくちょくだがこの精霊かなり口が悪い。特にここの職員と研究員に対するもの場合殊更。


 遠くからまた足音が響いてくる。


「一回ここから離れる。我に掴まって。」


 鏡は精霊の服を掴む。木の精霊はさっきからずっと空間の精霊にひっついている。

 一瞬浮遊感が襲う。すぐさま地に足がつくが別の場所にいる。先程からこうやって逃げている。


「こうなったら一旦ここから出るわよ。一箇所だが比較的糞共が少ない出入口がある。ここのままではジリ貧だしね。」

「それなら最初からそうしろよ……。」

「うるさい! 少ないと言っても多いの! 今なら出払ってるかもしれないの!」


 そうして空間の精霊の案内の元出口へと向う。


「──止まれ!」


 鏡が少女の腕を引いて曲がり道の角に隠れる。


「──たくっ! どこにいるんだか。」

「大屋様は人使いが荒いよな。別に人間の一人や二人居なくなっても関係ないだろ。後で見つけたら適当に実験体として使えばいいのに。」

「なんでも皇家の姫様のご友人だと。しかし、皇家かー。あの精霊に好かれる体質は興味深い。」

「わー、変態。」

「うるせぇ、探すぞ。」


 そう言って二人の研究員が早足で鏡達とは別の方向へと消えて行く。


「皇の人間と友なのか。」


 鏡の腕の中にいる少女が問いてくる。


「ああ、そうだけど。それよりも早く行くぞ!」

「……皇の騎士か、それは希有な人生ね。」

「何を言ってるんだ?」


 少女の呟きは鏡には届かない。少女は鏡へとほほ笑みかける。


「いや、何もない。それより行くわよ!」


 どこか釈然としない鏡だが今はそれよりもと少女の後を追いかける。途中何度か研究員から隠れながら進んでいく。


「ここよ。ここの部屋に上へと続く階段があるの。」


 扉の横で腰を低くして会話をする。扉にはドアノブなどはなく横にタッチパネルがついているだけだ。


「我が部屋へと空間を繋げる。そしたら走って階段を上るの。──準備はいい?」


 こくりと頷く。少女が深呼吸をするふわりと髪が浮かんだその時すぐ横の扉が開く音がする。


「──!!」


 空間の精霊と鏡が身構え扉へと顔を向ける。そこから出てきたのは白衣を身にまとった研究員──ではなく


「木ノ葉さんに信治!」


 紫崎心乃葉と荒川信治の二人だった。そして鏡は心乃葉の笑い顔に戦慄した。嬉々とした目で口角が怪しく上がっているのだ。危機的状況に置かされている鏡にとっては恐怖でしかない。


 鏡の声に二人がそちらを向く。そして驚きに目を開く。


「カガミさん!」

「カガミちゃん!?」


 足を止める二人。何故こんな所にと目が語っている。


「お前の知り合いなのかしら?」

「え、うん。木ノ葉紫さんにの……荒川信治くん。」


 信治と言いかけそうになり言い直す。さっき驚いた時も信治と言ったがどちらも気づいていない。


「カガミさんどうしてここに?」


 心乃葉が驚きながらも鏡へと訊ねる。その物腰は先程の顔の人物とは思えないほど丁寧で今朝方鏡があった木ノ葉紫そのものだ。


「それはなんというか。連れてこられて?」

「連れてこられた……つまり誘拐ってこと!?」

「いや、はい。間違っては。」


 誘拐。確かに俺は誘拐されたと言って間違いない。犯人が空間の精霊とは誰も思わないだろうけど。


「お前ら。お前達は何をしにここに来たの?」


 突然少女が割って入る。鏡に対するのと変わらない態度で心乃葉と信治に話しかける。


「何この子……ってせい、れい?」


 心乃葉が精霊と言うと控えていた信治も目を見開き驚いている。


「へぇー、これよりはマシな人間ね。で目的は何かしら。何の目的もなくこんな所に来るとは思えないけど。」


 堂々と上から目線で申す少女に精霊といえども心乃葉は若干の苛立ちを覚えた。


「……ここにはある噂があってそれを確かめに来ました。精霊が囚われていると。それを助けに。」


 心乃葉の狙いはそのあとの名誉や実績が目的だがわざわざ言ったりはしない。


「そうか。それはちょうどいい。我の同胞が囚われているの。助けてちょうだい。」


 それだけ言うと少女は出口とは逆方向、精霊が囚われている方へと走り出した。三人とも呆然としていたがいの一番に動き出したのは心乃葉だった。


「これはラッキーね。行くわよ信治!」


 走って少女の後を追いかける。


「うえー、でも本当に精霊が捕まってたんだなー。」


 そう言って心乃葉のすぐ後を走る。途中ちらりと鏡の方を向いたが止まることは無く消えていった。


 置いてかれた鏡は仕方ないと割り切った。元々空間の精霊の目的は精霊を助けること。それが出来るであろう人物が来たのだ。そちらを優先してお荷物は放置は当たり前だ。それよりも俺は──。


 鏡は地面を蹴って出口へと続く部屋へと飛び込む。後ろで扉が閉まる音がする。


 部屋の中は何人かの研究員らしき人物が倒れていた。鏡はそれらに構うことなく階段へと一直線に走って行く。長く続く階段を上ると扉が見える。いっそう足に力を込める。扉へと近づく一人でに開く。そしてそこを越えると──


「──あつっ!」


 まず最初に熱気。そして視界に映る火。建物の中ということは分かる。つまり今この建物は火事にあっていると否が応でもわかる。


「なんで火事なんか……。とりあえずここから出なきゃ。」


 廊下を進んでいくと消化器を持った職員が目に入る。


「すみません! 出口はどこですか!?」


 大声を上げこちらに気づいてもらおうとする。立ち止まった職員は左右を見渡し、鏡に気づく。


「お客さまどうしてこちらに!?──カガミキョウコさまでしょうか?」


 鏡へと近づいた職員が鏡の全身を認めると今現在園を上げて捜索している人物と合致しているわかる。


「お連れ様が探しておりました。さ、ひとまずここから出ましょう──カガミさま見つかりました。インフォメーションセンター前にております。」


 誰かと連絡を取るとそのまま外へと出る。


「もう少ししたらお連れ様が来ますのでお待ちください。」

「カガミ様が見つかったと聞いたけど、まって消化器貸して。僕が消してくる。カガミさまを見ていて。」


 別の職員がやって来た。近くにいたのだろう。消化器を奪いインフォメーションセンターの中へと入っていく。


「鏡ーー!!」


 しばらくインフォメーションセンターの前で職員と佇んでいると後ろの方から聞きなれた声が聞こえる。


 振り向くて猛スピードで吹雪が走ってきていた。


「吹雪!──ぶふぅ!」


 手を振り吹雪を迎えようとしたが吹雪の走るスピードは落ちずそのままのスピードで鏡へと抱きついてきた。


「良かった、良かった! 無事で本当に良かった!」


 安堵した声で良かったと繰り返す吹雪をそっと撫でる。少し痛いくらいに抱きついているが気にしない。


「心配かけてごめん。」

「いい、許す。目を離した私も悪かったわ。」


 鏡の服から顔をあげずにさらに力を込めてくる。まるで離さんとばかりに。


「それで何があったの?」


 しばらく経ってようやく鏡から離れた吹雪は至極真面目な顔で問いてくる。その顔は使命を負った者の顔だった。


「実は──」


 鏡は空間の精霊に攫われたこと。さらに地下で見たもの全てを話した。吹雪は口を挟まず黙って聞いていた。


「そう。分かったわ。」

「皇様、はぁ、早すぎです、はあ……。」


 話し終えたところで息を切らした職員の古屋がやって来た。


「古屋さんお疲れ様です。それでご相談なんですが……」


 そこで言葉を切った吹雪は古屋の耳元へ口を寄せる。


「──捕まえた精霊。全部逃げたみたいですよ?」


 古屋の動きが固まる。怨みのこもった瞳で吹雪を睨みつける。それを吹雪は笑顔で受ける。

 すっと古屋から距離を取る。


「噂は本当みたいですね。これから助けに行きますのでじっとしていてくださいね。」

「お前……! 騙したな!」


 古屋が飛びかかろうとするが足が動かない。下を見ると凍っていた。壊そうと腕を振り下ろそうとするが肩から先が凍っている。


「大屋古屋。大屋グループの現総帥に上り詰めた人物。精霊の力に興味があり研究に精を出すと。またその成果も中々素晴らしいもの。ただし、研究内容に一部秘匿された部分がある。前々から目を付けていましだまさか一般職員として紛れているとは。ここ『パラドクス・ランド』は最初から目を付けられていたんですよ。地下にとは大方御三家の予想通りとは驚きですけど。追ってあなたは捕まりますのでそこでゆっくりとしていてください。鏡行くわよ。」


 インフォメーションへと走る吹雪。鏡は突然知らない職員が黒幕らしいとしか分からず困惑しているがとりあえず吹雪の後を追う。


「皇がぁ! 精霊に好かれる以外何も出来ない劣等の一族が!」


 その古屋の叫びは二人には届かなかった。







「くそ!いつから……いつから気づいていたんだ……!」


 動けない古屋が悔しそうに口を噛む。他の職員は火を消すことに躍起になってか誰も気づかない。さらに吹雪が見えた職員全て動けないようにしたというのもある。


 燃える建物を見ながら今回の敗因を考えた。


「そうだあいつだ。あの空間の精霊が逃げ出したから。いや、そもそもあいつが逃げ出したのはあの装置が止まったからだ。何が完璧に精霊の力を封じるだ。止まったら意味が無いだろ……!」

「それは私達のせいではなくご自分のせいです。」

「お前は──!」


 古屋が振り向いた先には一人の女がいた。その人物は古屋に『遮断機』を貸し与えた者達の内の一人。古屋を底冷えするような瞳で見下ろしている。


「言いましたよね。メンテナンスを怠れば止まると。あなた達がサボっていたことはこちらでも把握済みですから。それでは、あなたには死んでいただきます。」


 一歩古屋へと近づく。


「待て! どういうことだ! 殺すだと? どうしてだ

 !? お前達に対して特に何もしていないはずだ!」

「何もしていなくても何も出来ずこの体たらくさ。言いますが私達もそれなりの目的があり大型の『遮断機』を貸したのですよ? あれの元手があなたの口から出ると厄介なので……。」


 手を伸ばさずとも古屋の体へと接するところまで近づいた。


「さあ、無価値な人間はそもそも生まれたのが間違いなのよ。」

「い──。」


 古屋の言葉が切れる。それは古屋の首が切れたことを意味した。恐怖に帯びた首が地面へと落ちる。体は微動だにしない。吹雪の氷のせいだ。


「さすが皇家の娘ですね。常々見ていますが素晴らしい。やはり欲しいけれどそれはまたいつか。」


 女が影に消える。残されたのは一つの死体だけだった。

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