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本日四話目の投稿です。順番にご注意下さい。

 あの後地下室からなんとか気を失った三人を一階まで運んだ後吹雪の家に住む光の精霊で全員の傷を癒した。《毒》の浄化は完全に行うにはその精霊では力が足りないので《御三家》が所有する隔離施設で治療することとなった。信治は魅了にかかっただけなので《毒》には犯されてはいなかった。吹雪は念の為ということで雛と魅了の精霊の契約を解除した。吹雪は両親へと連絡をして早苗と雛を回収するよう手配をした。その日はそこで解散となったが翌日吹雪の家と集められ吹雪を含めた四人は事情聴取を受けた。健康診断もされ異常なしと、それと今後このような危険なことはしないようきつく言われた。


 火曜日鏡が教室に入ると何も無かった。あの球技大会の日から教室に入る度に睨みつけられたりしていたのだがそれが一切なかった。HRが始まる五分前に朝練を終えた元気が教室へとやってきた。


「元気おはよう。」

「おはよう。体の方は大丈夫か?」

「ああ。あれだけ丁寧に光の精霊に治療されたから問題は無い。」

「そっか、そうだよな。けど《毒》か……。あんなただの精霊が凶悪になるなんてな。」


 元気は日曜日のことを思い出して唸る。鏡も以前にも二体の精霊と戦ったがその二体以上に凶悪だと感じた。


「おーい、HR始めるぞー。静かにー。」


 担任の胡桃沢が教室へと入ってくる。鏡の目の前の席は空いたままだ。


「えーと、まず連絡事項として希樹と新保が入院することになった。なんか大きな怪我らしくてな面会も出来ないみたいだ。しばらく二人は休学扱いなるからな。」


 突然のクラスメイトの入院、それも二人同時に教室が騒然とする。


「はいはーい。静かに。それと今日は放課後の部活動は無しだ。」

「しゃあ!」


 何人かのクラスメイトが胡桃沢の言葉にガッツポーズをする。

 その後も幾つか連絡事項があったが鏡は何一つ聞いていなかった。ただ目の前の空いた席をぼーっと眺めていた。





 放課後。鏡、吹雪、元気、信治の四人は鏡の部屋に集まっていた。早苗と雛がどうなったか当事者である三人に話すと吹雪から連絡が来たのだ。


「希樹さんと新保さんだけど回復はいつになるか分からないわ。」


 開口一番、前振れもなく告げられたのは悪い知らせだった。


「体内を調べたところ《毒》が二人の体を蝕んでいたの。《毒》が人体にまで影響を及ぼすなんて初めてのことで私達も本当にどうなるか分からないの。」


 泰然として話すのは鏡達を悲しませないためか。しかし、信治以外はさして悲しんでいない。


「そっか、早苗ちゃんと雛ちゃん……。」


 信治の悲痛な声が漏れる。


「それで今日あなた達を集めたのはこのことを他言しないよう今ここで誓って欲しいの。」


 有無を言わせない表情。誰よりも不快感を顕にしたのは信治だが逆らえる訳もなく元気と信治は吹雪の持ってきていた誓約書にサインをした。


「……どうして《毒》について公表をしないんですか?」


 元気が当然疑問に思うことを訊ねる。


「どうせいつかバレることだからよ。その時《御三家》がどうなるか見物でしょう。時間の問題。だから溜めるの。限界に限界を重ねたところで――ぱん!」


 吹雪が両手を合わせて声と同時に音を出す。びくりと三人の肩が震える。


「――なんて嘘よ。ただいつかバレることっていうのは本当。こんなこと隠しておけるわけないわ。だからあなた達には《毒》のことを話したのよ。本当は《毒》については一切言ってはいけないことになっているの。もしそれがバレたらどんな罰が下るか分からないの。だから、黙っていてね。」


 いたずらっ子のような笑みを浮かべて口に人差し指を当てる。ここ数日で元気と信治の中で吹雪の印象が変わっていた。才色兼備。《御三家》としての地位とカリスマを持ち合わせた孤高の人。けれど実際はフレンドリーでそして本人は気づいていないだろうが鏡に対しての表情筋が緩いこと。鏡に対しては平時からずっと優しい笑みを浮かべている。


「――さて、辛気臭い話はここまで。鏡何か作って。」

「は?」

「野菜炒めでもいいから。ご飯は冷凍したのがあることは知ってるから後はおかずよ。」

「今すぐ野菜炒め作って来て吹雪の頭にぶっかけてやる。」


 そう言うと鏡は台所へ向かってしまう。その様子に吹雪は笑う。


「なんか吹雪さんって横暴?傍若無人って感じですねー。」


 信治の発言に隣に座る元気がぎょっとこいつ何を言ってんだって顔を向ける。


「そう?結構大人しく振舞ってるつもりだけど。」

「あー安心してください。鏡にだけってことですよー。」


 信治の発言はとても的を射ている。鏡でなければ吹雪はあんな言動はしない。


「当たり前よ。だって鏡は私の大切な人だから。」


 妖しく笑う吹雪はとても様になっていた。





 休日の夜七時の喫茶店。鏡は従業員の制服を来てホールに立っていた。お客は誰もおらずすることも無くただそこにいた。あの騒動が終わって一週間後ぐらいに鏡はアルバイトを始めたのだ。


「藤川先輩!もう僕ら上がりみたいですよー!」


 明るい声が鏡の耳に届く。声のする方を見ると鏡のよりも背の低いあどけない顔をした児玉水城がいた。


「もうお客さん来ないだろうからって店長が。どうします?先輩先着替えます?」

「いや、児玉くんが先に着替えてきな。それと先輩を付けたり先輩って呼ぶのはやめてくれって言ってるだろ。今どきそんな呼び方するやついないから。」


 水城は鏡がここに入る少し前からいる子で聖堂学園の一年生でもあり、鏡が聖堂学園の二年生と知ってから先輩と呼び続けている。その度に訂正しているが一向に改めない。


「いーやーでーすー。先輩が先輩であることに変わりはないじゃないですか。ちょっと腹が立ったので先に着替えちゃいまーす。」


 捨て台詞みたいなのを言い残してスタッフルームへと消えていく水城を見て溜息を吐く。


「ははは。相変わらず水城くんは元気だね。」


 落ち着いた声がキッチンから響く。顔を覗かせたのは五十代ながら均整のとれた体を持つ店長の逆木(さかき)虎之介(とらのすけ)。優しい風貌で店に来る常連の女性はだいたい虎之介目当てでやってくる。しかし最近は水城目当ての人も増えている。


「元気なのはいいんですけどどうにかなりませんかね。こっちとしては先輩呼びをやめて欲しいだけなんですけど……。」

「それは無理だと思うよ。あの子結構頑固だから。あ、着替え終わったみたいだね。鏡くんも行っておいで。お疲れ様。」

「お疲れ様です。お先失礼します。」


 虎之介に挨拶をしてスタッフルームへと入る。中はそれほど広くなく人が二人入れるぐらいで着替えとなると一人が精一杯の広さだ。


 着替えを済ませると一度スタッフルームを出て裏口から出る。


「せーんぱい。」

「げ。」

「げって、そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。傷つきますよー。」


 裏口の横で水城が鏡のことを待っていた。


「……なんでいるんだよ。ささっと帰ってくれ。」


 手で追い払う仕草をする。どうも鏡は水城が苦手で仕方ない。別に嫌いな訳では無いが苦手なのだ。


「いやあ、ちょっと先輩に聞きたいことって言うか相談したいことがあって。」


 相談と聞いて鏡が真剣な顔をする。


「ああ!別にそんな深刻なことじゃないんです。……でも、自分一人じゃどうしたらいいか分からなくて……。」


 肩を落としてしょげる水城に鏡は仕方ないかと息を吐く。


「そこのハンバーガーショップでいいか?」


 鏡が指差し言うと満面の笑みを浮かべ


「――はい!」


 こういう素直ところは好きだな、とどうでもいいことを思った。



 店内は学生と仕事帰りの社会人が多くいた。飲み物とハンバーガーとポテトを頼んで席に着く。


「それで、相談ってなんだよ。」

「それよりも先に食べましょう!冷めたら美味しくないですから!」


 鏡は呆れながらもそれもそうかとその言葉に従ってハンバーガーを口に含んだ。安い店なのでパンズは萎びていて温かいことには温かいがそこままででは無い。総評は普通だ。


「ふー!おいしかったですね!」

「……そうだな。」


 あまりに満足そうな顔に単純な肯定しか出てこない。


「それで相談なんですけど。」


 突然だな。なんとか声に出さず心の中にとどめた。


「藤川先輩って友情や愛情って信じますか?」


 ジト目を向けてしまった俺を責める人はきっといないはず。新手の宗教勧誘かと思ってしまう。


「言っときますけど精神に異常をきたしとかそんなんじゃないですからね。ただちょっといざこざがあってそれをそのまま相談する訳にも行かないですから先輩の考えを聞きたいんです。」

「……つまり、他の人の意見を聞いてそこからどう問題を解決するか考えるってことか。」

「はい。そういうことです。で、先輩どうなんですか?信じているんですか?」


 ひどく純真な瞳を向けてくる。どうしてこんな質問なのかは問わない方がいいんだろうなとは理解する。


「一応言っとくけど俺の考えだから文句は言うなよ。」

「大丈夫です。聞いてる立場で文句なんて。」

「わかった。まず言うと友情や愛情は信じるものなんじゃなくてあるものなんだよ。」


 鏡が何を言いたいのか分からないのか水城は頭を傾げている。


「例えば友情や愛情を信じないやつがいるだろ。そもそもそいつは友達もいなければ親愛の情を向ける人もいない。もしくはいなくなったかでそもそもその感情自体存在してないんだよ。」

「んー……言いたいことは分かりますけど例えばとっても信頼していて愛情と遜色ないレベルの親愛の情を向けていた友達に突然冷たくされたり理由もなく離れて行ったらその時友情なんて信じられないですよね?」

「児玉くんはどうしても信じるか信じないかにしたいみたいだな。……まあ、俺としては信じるかな。」


 信じないってことになったら今紡いでいる友情を嘘だと自分から裏切ってしまうことになる。そんなこと出来るわけがない。


「えー藤川先輩もおんなじこと言うー。」

「お前は信じないって答えが欲しいのか?」


 そう言ってるようにしか聞こえない。


「そうじゃないんですよー。みんな同じ答えで全く違う意見が欲しいんです。」

「そうか。それなら全く知らない奴に訊ねれいいんじゃないか。友達も恋人も家族も好きなものない奴だったらきっと信じてないって答えると思うぞ。」


 残っていた飲み物を飲みほす。


「もういいか?そろそろ帰りたいんだけど。」

「うーん、まあいいですよ。藤川先輩のことちょっと知れたんで。へへっ。」

「あっそ。ほら、帰るぞ。」


 トレイを持って立ち上がり水城の方を見るときょとんとしている。


「……え?僕も一緒ですか?」

「当たり前だろ。こんな時間に一人で帰すわけに行かないだろ。途中まで送ってくから。」

「いやいや、僕も男ですから。襲われたりしませんって!」

「はあー……あほ。」


 呆れた鏡が水城の頭を小突く。


「最近小さい子供を狙って攫う変質者が出てるって知らないのか?万が一があったら大変だろ。大人しく送られろ。ただでさえ可愛い顔してんだから。」


 鏡の言葉に一瞬面食らったようだがすぐにニヤニヤと笑みを浮かべ始める。


「先輩〜。僕のこと可愛い後輩って思ってたんですかー?」

「顔だけな。動かず喋らずの状態だったら見れないことも無い。」

「それただの人形じゃないですか!?あーもう分かりました。とりあえず出る前にトイレ行ってきていいですか?」

「わかった。外で待ってる。」


 鏡は水城の分のトレイも片付けて外に出る。

 星空を見上げて店内で水城に問われたことを思い出す。


『友情や愛情って信じますか?』


 もしかして、新保さんも信じていたのだろうか。

 戦いの最後の方。雛が鏡と吹雪に向けた怒り。あれは二人に嫉妬していたのか。

 友達や恋人に裏切られそれであんな風に……。いや、変な憶測はやめよう。


 鏡はそこで考えることをやめた。どうせ考えたところで答えに辿り着く訳もなく、答え合わせももう出来ないのだから。

ここで一区切りです。次回までまた暫く更新が開きます。気長に待ってもらえると助かります。

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