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他に連載がある中新連載です。とりあえず投稿しておこう精神。後悔はしています。

 一人の黒髪の青年思しき人物が山の見晴らしのよい場所から自分の生まれ育った村を眺めていた。

 感傷に浸っているわけではなく、ただ暇だから近くの山に登りそこで自分の村を眺めていたのだ。

 冬が終わり新しい命が芽吹く頃。まだ冷たさの残る風が頬を撫でる。

 冷たさに目を少し細めると山の中から緑の光の玉が近づいてくる。

 光の玉が目の前にやってくると手の平を差し出す。光の玉は素直にその手の平の上へと降りる。


「やあ、初めまして、かな?」


 優しい声音で訊ねると光の玉は同意するように縦に動く。


「そうか。君は生まれたばかりなんだな。」


 生まれたばかりの精霊は力が不安定で普通の人でも光の玉として見えてしまう。


「ごめんな。俺は君の声は聞こえないし本来の姿も見ることは出来ないんだ。」


 光の玉を優しく撫でると光の玉は嬉しそうに指に擦り寄ってくる。


「君は木の精霊かい?」


 また光の玉が縦に動く。


「そうか。あ、そうだ俺も自己紹介しないとな。俺は藤川(ふじかわ)(きょう)――――花の女子高生だ。」


 少女は女にしては少し低めな声で穏やかに名乗った。少女が名乗ると光の玉は焦ったように山の中へと消えていった。

 精霊が消え、さっきよりも冷たい風が鏡の頬を撫でた。とても冷たい風が。

 鏡はため息をを吐きながら振り向く。そこには白い髪をハーフアップにし、水色の瞳を携えた女子高生が立っていた。


「久しぶりだな吹雪。そっちも春休みか。」


 先程精霊にかけてた穏やかな声音や口調と打って変わってフランクなものへとなる。


「ええ、そうよ。鏡のところも春休みになっていたのね。ちょうどいいわ。」


 白髪の少女の名前は(すめらぎ)吹雪(ふぶき)。鏡の幼なじみで精霊使いだ。


「なんだよお前。また誰かを食うつもりか? お前もうあらかた食べただろ?」


 呆れ顔を吹雪に向ける。中学生の頃から長期休みの度こちらに来ては同年代の人間と寝ている。それも男女問わず。


「ちょっと鏡。まるで私をアバズレみたいに言うのやめて。今回は違うわよ。鏡に用があってきたの。」

「えっ!? ついに俺も食うのか……?」


 鏡はすぐさま距離をとる。吹雪と寝るとかどんな罰ゲームだよ。想像したら鳥肌が立ち腕をさする。言っておくが吹雪は綺麗だ。男なら是非ともその体を味わってみたいと思うほど均整のとれた体つきでもある。


「馬鹿! 鏡と寝るわけないでしょ! そうじゃなくて――――鏡、私の騎士になってくれないかしら?」


 吹雪が手を鏡へと差し伸べくる。


「いいよ。」


 間をおかず返答をして吹雪の手を握る。鏡の反応に吹雪は驚く。


「そもそも俺はずっと前からお前の騎士だろ。ほら。」


 鏡が首まで伸びていた髪をどかして首の後ろを見せる。そこには不思議な紋様が浮かび上がっていた。それは《騎士の契り》の証。精霊使いは《騎士の契り》を結ぶことで誰か一人を騎士とすることが出来る。騎士になった人物は精霊使いが契約をしている精霊の恩恵を受けることが出来る。


「そうだけども、そうじゃなくて……。二年生になったら私の騎士として私と同じ学校に通って欲しいの。」


 吹雪は申し訳なさそうに、苦しそうに言う。


「ああ、別にいいぞ。編入手続きとかやってくれれば全然構わない。」


 吹雪の様子なんてなんのその。とても軽く、あっさりと答える。


「本当に? 本当にいいのね! 春から私の学校に通ってもらうからね!」


 顔を近づけてこれでもかと念押してくる。


「うん、いいよ。俺はお前の騎士だ。お前の命令には従うさ。そもそもお前全然命令しないけどな。」

 

 笑顔でそんなことを言ってのける。吹雪のためならとその顔が全力で語っている。


「……なんでそんな忠誠が高いのよ。でも……ありがとう、鏡。」


 この瞬間吹雪の通う聖堂学園で伝説となる騎士が誕生した。


「ちなみに男として転入してもらうからね。」

「え!? 法律とかそこら辺大丈夫か?」


 気になるのはそこなのと吹雪は呆れる。


「大丈夫よ!」

「そっかかならいいけど。」


 難色示すかと思ったら抵抗もなく了承をする。


「あと婚約者になってもらうから。」

「…………は?」


 鏡が固まる。絞り出した言葉は一言だけ。


「婚約者、よ。」


 ゆっくりと鏡に告げる。

 こんやくしゃ。その言葉を鏡は脳内で思い切り噛み砕く。大きく息を吸い込み。


「はああああああ!?」


 村中に響く声で叫んだ。






『しっかりとご両親の許可は取っておいてね。取れなかったらその時は普通に諦めるから。』


 山を下りて吹雪と別れた時に言われた言葉に従って母さんと父さんを説得するため今で二人と向き合っていた。

 事の詳細は全て伝えて二人の返答を待つだけ。沈黙が重い。

 先に口を開いたのは父だった。


「別に構わない。吹雪ちゃんの学校に通うとなったら一人暮らしだな。今はネットでも予約は出来るはずだよな。明日さっそく決めるぞ。」

「そうね。そうしましょう。あと村長にも伝えて役場に転出届も出さないと。やることは沢山!」


 鏡は驚きで目を瞬かせた。絶対反対される思っていたのだ。長年村から出ることを良しとされなかったため今回もそうとばかり。


「父さん母さん。いいの? 俺、村を出るんだよ?」


 そう訊ねずにはいられなかった。


「ああ、構わない。お前が吹雪ちゃんの騎士になった時からお前が騎士として村を出ることは分かっていた。一年くらい遅かったけどな。」


 つまりだ。高校の時出ると思っていたと。予想外の返答にどう返していいか分からなかった。


「いい鏡。まだあなたには分からないかもしれないけど精霊使いと騎士はそばにいた方がいいのよ。離れていると大事な時、助けることが出来ない、なんて事があった時はとても苦しいのよ。」


 悲しい顔で訴えかけてくる。その顔で思い出した。二人は騎士だったと。騎士だから、騎士としての鏡の行動を許可してくれるんだと。


「だから、吹雪ちゃんの騎士として、友達として――――吹雪ちゃんを守りなさい。」

「――――わかった。俺は吹雪を支えて守るよ。」


 鏡はゆっくり頷きながら応えた。


「ああ! それにしても男として行くなんてさすが私の娘! いえ息子よ!」

「私たちの教育が正しかった証明だな。」


 鏡は思った。この親は馬鹿だと。








 桜が満開の季節。首まで伸びていた黒髪を首の後ろの紋様が出るまで短くした鏡が聖堂学園の校門をくぐった。




更新は恐ろしいほど鈍足で不定期更新です。

誤字脱字がありましたらご報告おねがいします。

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