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悪役令嬢と商店街の英雄

…………………


 ──悪役令嬢と商店街の英雄



 エルザ君絡みのイベントでストレスが溜まる今日この頃。


 またしても変装して商業地区にやって参りました!


 いやあ。前回は食べ歩きとかあまりできなかったから、今日ばかりは食べ歩きを満喫したいところである。今朝は朝食もいつもより控えめにしてきたので、カロリーの点でもばっちりですよ!


 で、今日の変装は以前と同じ黒髪巨乳である。そこ、虚乳とか言わない。


 いつもならジャンクな食べ物は厳禁とされているし、公爵家令嬢として周りが見張っている私ですが、変装すれば怖いものなどない! 今日は思う存分下町の食べ物を味わおうではないか!


 ついでにエルザ君の様子を見ておくことも忘れない。エルザ君ってば問題ばっかり起こすんだから、もー……。本当にあの子にはフリードリヒの攻略だけに専念してもらいたいものである。


 さて、では出発!


 最初は下町名物の唐揚げ串である。なんだか日本のコンビニで見たことがある気もするけど、こっちのはこっちで味が違うと思うので楽しみである。


「唐揚げ串1個ください!」


「はいよ! 揚げたてだよ!」


 私が出店式の店舗のおじちゃんに声をかけるのにおじちゃんが景気良く揚げたての串をくれた。想像よりかなり大きくてちょっと困惑する。


 ふむ。これって鶏じゃなくて白身魚を使ってるんだな。一緒に貰ったタルタルソースをつけて食べるとこれはおいしい。白身魚がほろほろと口の中でとろけて、あっさりした白身魚の味わいにタルタルソースの酸味が加わる。


 はあ。この世界が日本人的に食事の美味しい世界でよかったー。これがメシマズ世界だったら今頃は必死になって料理の改善に勤しまなければならなかっただろう。人間にとって日々の食事は生命線。これを断たれること、すなわち死である。


 唐揚げ串を食べながら商業地区をうろつくこと10分。またいい匂いが漂ってきた。これはお肉の匂いだ。


 さっきの唐揚げ串が意外にもお魚であったことから私の舌はお肉を求めている。油たっぷりで健康に悪そうなお肉を貪りたいものだ。


 ちなみに日々の将来の破滅に向けた運動と放課後の手伝い冒険者活動のおかげでお腹周りなどのお肉の気になる部分はすっきり。日本にいたときよりも健康的な気がするくらいです。お胸が依然として育ちませんが……。


 悲観的な私の胸への展望はさておいて! 今はお肉!


 お肉、お肉♪ どんなお肉かな?


 おお。あれは……。


「ハンバーガーだー!」


 わー! 思いっ切りファンタジーっぽくない食べ物が出現した!


 い、いや、これだけ現代的な食べ物が揃っている世界だからそこまで驚かなくてもいいはずなんだけど、剣と魔法のファンタジー世界にハンバーガーですか? それってありなんですか? そこはかとなく疑問だ。


 まあ、ジャンクな食べ物に飢えていた私にはちょうどいいのかもしれないけど、剣と魔法のファンタジー世界にハンバーガーかあ……。この調子だと既にコーラもありそうな気がしてきた。


「チーズハンバーガーとフライドポテトとコーヒーのセットで!」


「はいよ!」


 でてきました、ハンバーガー。おまけにポテト付きだ。


 私は商業地区の広場のベンチに腰かけ、大きく口を開けてハンバーガーを頬張る。


 うむ! 肉汁ととろりとしたチーズが濃厚でトマトの酸味も合わさり美味! 日本のハンバーガーよりもおいしい気がする! いや、久しぶりに食べた補正が入っていることも否定はできない。


 しかし、ジャンクな食べ物は何故にこうも美味しいのだろうか。体に悪い食べ物ほど美味しく感じられて、健康にいい食事は飽きてくるというのは生物の自己保存の法則に反するのではなかろうかと愚考する次第。


 ハンバーガーもぐもぐ。ポテトもぐもぐ。コーヒーぐびっ。


 ぷはーっ。ジャンクな食べ物に私の舌と胃袋も大満足です。いつもならこんな行儀の悪いことはできないけど、今日の私は公爵家令嬢アストリッドではないので、全然平気なのである。今の私はエリノア! 家名はない!


 ハンバーガーで満足したら次はデザートと行きたいところだ。ここら辺に良い感じの庶民的なデザートを提供してくれるお店はあるかなー?


 あったー! クレープ屋さん!


 いいね、いいね! 香ばしい匂いがしてくるよー!


 メニューはどんなのがあるのかな……ってあれえ?


「エルザ君?」


「ああ。エリノア先輩、でしたっけ?」


 何故かクレープ屋さんの店番をエルザ君がしていた。


「あ、あれ? あなたはパン屋さんの従業員では?」


「ああ。アルバイトもしてるんです。パン屋さんのお給料も貰ってますけど、あれは身内の仕事ですから。これからは学費は奨学金で貸してもらえますけど、いろいろとイベントで出費がありそうなので頑張って稼いでるんです!」


 ま、眩しい! エルザ君が眩しい!


 い、いや、私も稼ぐ分には稼いでいるぞ! 手伝い冒険者をして将来の破滅に備えているんだ! エルザ君に負けてなんてないやい!


 しかし、エルザ君もクレープ屋さんの店番をするより手伝い冒険者をして稼いだ方が手っ取り早いのでは? 学園の魔術師は冒険者ギルドじゃ引く手あまただし、エルザ君って冒険者の人が特に必要としている治癒のブラッドマジックが使えるし。


「エルザ君は手伝い冒険者とかは考えたことはないんですか?」


「ああ。手伝い魔術師ですか。私もそれを考えたんですけど、お父さんお母さんが反対して……。冒険者の仕事は危ないって。お父さんは前は冒険者だったんですけど、その経験から言って私のような小娘では冒険者ギルドの仕事は危険だと言われました」


 あー。そうだよなー。エルザ君のご両親はエルザ君を恩義あるフランケン公爵家から預かってるって認識なんだよな。それは危険な冒険者の仕事にそうそう簡単に行かせるわけにはいかないか。


「うーん。じゃあ、クレープ屋さんの店番頑張ってください!」


「はい! 何かご注文はありますか?」


 わっ。エルザ君を労っている場合じゃないよ。私はクレープを食べに来たんだ。いろいろと種類があって迷うなー。


「じゃあ、このバニラ──」


「誰か! 強盗だ! 誰か捕まえてくれ!」


 そんな悲鳴が聞こえてきたのは私がエルザ君にクレープのオーダーを出しかけたときだった。私が利用したハンバーガーのお店からナイフで武装した男が2名、袋を抱えて飛び出してきた。


 強盗!? ハンバーガー屋さんに!?


 もっと狙うべき店は他にあったような気もするのだが、この私の前で堂々と悪事とはいい度胸だ。成敗してくれる。ストレス発散ついでに!


「ショットガン!」


 私は空間の隙間からショットガンを取り出すと、同時に取り出したゴム弾を装填して素早く構える。この間数秒のことなので周りの人には私が魔術でショットガンとゴム弾を生成したように見えるのである。我ながら凄いと思う。


「待てや、この強盗! この正義の執行者たる“エリノア”様が成敗してくれる!」


「な、なんだ、お前!」


 ブラッドマジックで即座に男たちの逃走経路に回り込む。フフン、この私の健脚から逃れようと思うならフェンリルクラスの魔獣を連れてくることだね!


 そしてエリノアアピールも忘れない。私はエリノアだよー。アストリッドじゃないよー。アストリッドは知らない公爵家令嬢だよー。


「ただちにお金を返して自首するなら痛い目は見ずに済むぞ。さて、どうする?」


「な、舐めやがって! てめえなんざ怖くねえ! ぶった斬ってやる!」


 強盗Aはナイフで攻撃を繰り出した!


 ミス! エリノアには攻撃が命中しない!


「そういうことならこっちも遠慮なくいかせて貰うよ!」


 私はショットガンの引き金を引くと、ゴム弾を強盗Aの腹部に叩き込んだ!


「おふうっ!」


「兄貴ぃ!?」


 ゴム弾そのものは非致死的でも当たると凄く痛いぞ! 腹部にボクサーが思いっ切りパンチしたぐらいにな! ……間違って内臓破裂とかしてないよね? 後でちゃんと調べてあげよう。


「さあ、そこの奴も大人しく武器を捨てて投降しなさい」


「だ、誰がおめおめと投降するか! ハーフェルギャングの意地を見せてやる!」


 そんなしょーもないもの見せるくらいなら、帝国男子の潔さを見せればいいものを。


「えい」


「うぎゃっ!」


 私は強盗Bの腹部にゴム弾をシュー! 強盗Bがもんどりうって崩れ落ちた!


「ウィナー、私!」


「待てや、こらあ!」


 私がすがすがしい勝利とストレス発散を祝っていたら、横から声が。


「よくも俺たちの舎弟に手を出してくれたな、姉ちゃん! 覚悟せえや!」


 ぞろぞろと男たちが出て来ること5名。


「そこでぶっ倒れてる強盗のお仲間?」


「おう。ハーフェルギャングのことを知らないとはいい度胸だな」


 知らないよ。初めて聞いた。


「お仲間なら一緒に警察に自首するべきだね。そうしたらすぐに済むぞ」


「ああ? なめんのも大概にしろよ! その面ぼこぼこにしてやる!」


 ギャングAは拳を構えた!


「ああ。それならお相手してやろう」


 私は新たなゴム弾を装填した!


「くたばれや、おらーっ!」


「そっちがくたばれー!」


 拳VSゴム弾! 勝敗の行方はこの後すぐ!


「あおうっ!」


 まあ、本当にすぐですよ。顎にゴム弾がクリティカルヒットしたギャングAは半回転して吹っ飛んでいった。拳は銃に勝てず。当たり前の話です。


「まだやる?」


「こ、降参します!」


 ボスと思しきギャングAがもの凄い恰好で吹っ飛んだのをみて、ギャングBからEまでが揃って武器を捨てて降伏した。賢い判断だ。


「じゃあ、そこにあるお金をハンバーガー屋さんに返したら君たちは警察に出頭すること。そこに倒れてる3人も連れていって」


「は、はい!」


 ギャングBからEはいそいそと強盗Aと強盗Bが盗んだお金をハンバーガー屋さんに返すと、騒ぎを聞きつけてやってきた警察によって逮捕された。


 こうして正義はなされたのだった!


「さて、気を取り直してクレープ、クレープ♪」


「おおっ! ありがとうございます、見知らぬお方! あのギャングたちには悩まされていたのです! 何とお礼を言っていいか!」


 私がるんるん気分でエルザ君のクレープ屋さんに戻ろうとしたらこの商業地区の人たちが詰めかけてきた。


「まあまあ、人として当たり前のことをしただけですから」


「いえいえ。そういうわけには。お礼にこのハンバーガーをどうぞ! ダブルミートクアトロチーズバーガーです!」


 う、うわあ。さっきお昼は済ませたのにヘビーなのが出て来たぜ……。


「こちらからもお礼にトリプルフィッシュ串を!」


「ささ、遠慮なく食べてください!」


 ……何かの嫌がらせだろうか。私は強盗を追い払ったつもりなのに……。


 結局のところ、私は商業地区の住民がつぎつぎに奢ってくれたお肉とお魚の山で胃袋を押し潰されて、エルザ君のところのクレープまで手が伸びなかった。


 くそう。いつかリベンジするぞ! うっぷ……。


…………………

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