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悪役令嬢、愚痴る

…………………


 ──悪役令嬢、愚痴る



 さて、今日で35回目の空からの登校だ。


「よしっと」


「おはよう、アストリッド嬢。今日も早起きだな」


 いつものグラウンドではベルンハルト先生が相変わらずさぼっていた。


「聞いてくださいよ、ベルンハルト先生。エルザ君が大変なんです」


「あー。早速何かあったか?」


「ありまくりですよ」


 そうなのだ。エルザ君が隠れ問題児なのだ。


「エルザ君がアドルフ様やシルヴィオ様にちょっかいを出したって、大騒ぎだったんですよ。みんなでエルザ君を締め上げてやるって血気盛んで、なんとか私が話を付けるからって抑えて貰ったんですけど」


「エルザ嬢がヴァレンシュタイン家の息子と宰相閣下の息子に? そりゃまたハチの巣をつつくような真似をしちまって。ちょっとは自己防衛して貰わないとな」


「そうですよ、そうですよ」


 全く! エルザ君と来たら私の気も知らないで! フリードリヒ以外にはちゃんと彼女がいるんだから手を出しちゃダメだぞ!


「しかし、何とか抑えてくれたなら助かった。礼を言う、アストリッド嬢」


「いえいえ。礼には及びませんよ」


 ベルンハルト先生に頼りにされてて嬉しいなー。


「だが、ヴァレンシュタイン家の息子と宰相閣下の息子もまた不用意だな。自分たちの立場を考えれば、平民のあの子にどう接するべきか分かりそうなものだが。まだまだ自覚がないのかね」


「ですねー。まあ、かくいう私も公爵家子女なんですけど」


「お前は誰とでもフレンドリーに接せるタイプだろ。なあ、竜殺しの魔女?」


 え?


「な、なーんのことでしょうか?」


「手伝い魔術師時代の冒険者が今、冒険者ギルドの幹部になっててな。それによれば去年起きた炎竜騒ぎの時に赤毛の手伝い魔術師が、ひとりで100年越えの炎竜を始末した学生がいるってな。で、よくよく話を聞いたらその名前がアストリッドだと」


「げーっ! 冒険者ギルドには守秘義務とかないんですかー!」


 バレバレじゃないか! 冒険者ギルドー! ちゃんと秘密は守ってー!


「なあ、本当に炎竜をひとりで始末したのか? 100年越えと来たらとんでもない化け物だぞ。魔術師が数個連隊必要になる規模だ。どうやった?」


「こう、頑張って」


「頑張って?」


「頑張って」


 困った時の頑張ってである。


「お前の魔術はよく分からんな。空を飛ぶだけでも驚きだったが、挙句には炎竜をひとりで叩きのめすとは。その魔術があればどこででもやっていけそうだな」


「一応国外脱出の準備はしてます」


「おい。そういう意味じゃない」


 プルーセン帝国が手を出せない第三国に貯蓄しているし、戦争に負けたら速攻でヘルヴェティア共和国に逃げ去るのだ。バイビー、祖国!


「本当にオルデンブルク公爵家が取り潰しになると思ってるのか?」


「まあ、このままだと危険ですね。考えてみてくださいよ。今、ミーネ君たちがエルザ君を苛めたらだれが主犯だと思いますか?」


「お前だな」


「でしょう? そうなると私が責任を問われて、お家取り潰しに!」


 ミーネ君たちの保護者というかボスは私だと思われている。そうなるとミーネ君たちがエルザ君に手を出せば、自動的に私が主犯だと思われるのである。


 そうなれば私の家が取り潰しに!


「いや。平民を苛めて公爵家が取り潰しにまでなるとは思えないが。確かに学園としては厳重注意するだろうが、お家取り潰しになるまでのことはないと思うぞ。いくら何でもやりすぎだ」


「そのやりすぎが起きそうなんですよ!」


 エルザ君はフランケン公爵家のご令嬢なんだよ! それにフリードリヒと恋仲になったら、将来の皇妃を相手に失礼を働いたことになっちまうのである! そうなったらお家取り潰しは避けられない!


「ふむ。エルザ嬢に何かあるのか?」


「ちょ、ちょっとですね。……先生って秘密守れます?」


 私はベルンハルト先生にだけは事情を理解して貰いたいなと思うのだが。


「それって聞くと厄介ごとに巻き込まれる奴か?」


「ある意味では」


「なら、遠慮しておく。悪いが俺は公爵家令嬢ほどの後ろ盾はないからな。すまん」


 はあ。先生には打ち明けておきたいんだけどな。


「それにしてもこれは噂で聞いた話だが、お前とフリードリヒ殿下で図書館で勉強しているとか。これは本当か?」


「本当です……。不本意ながら、そういうことになっているのです……」


 あの勉強会は未だに続いているのだ……。私は胃が痛くなるのを感じながら、フリードリヒとエルザ君の勉強会に付き合っているのである……。はあ、もう止めたい。


「お前は本当にエルザ嬢とは付き合いがあるんだな。俺としては助かる話だが。下手に孤立されても哀れだからな。それに孤立はいじめに繋がる」


「だからと言って公爵家子女の私が巻き込まれると、それはそれで問題になりそうなんですけど……。フリードリヒ殿下のことはしょうがないとして」


 周りの貴族が私のことを敵視し始めるかもしれないじゃん!


「まあ、これからもよろしく頼む。出来る限りのことでいいからな。問題があれば、俺も解決の手助けはする。それこそいじめに走った時なんかは、な」


「よろしくお願いします!」


 私の命綱はベルンハルト先生だけだ。


「頼りにしてますよ、ベルンハルト先生!」


「おう。任された」


 頼りになるな、ベルンハルト先生は。


 ベルンハルト先生なら私の破滅フラグを阻止してくれるかも。


…………………


…………………


 アドルフとシルヴィオの遭遇イベントが終わってからは平穏だ。


 一応、エルザ君にはゲルプとロートの監視を付けているが、まあ遭遇イベントが強制だっただけで、アドルフたちを攻略するつもりのないエルザ君にはもう監視は必要ないかもしれない。


 ……いや、あるな。万が一ミーネ君たちが暴走した場合に、エルザ君の下に早急に駆け付けられるように、監視は継続させておこう。ミーネ君たちが暴れると、私にとばっちりが来るのである。


 さて、エルザ君は今日は何をしているのかな?


 遭遇イベントも終わったのでこれからはフリードリヒに的を絞って攻略していって貰いたいものだが。フリードリヒのことエルザ君はどう思っているんだろうか。


 ただの勉強仲間? それは困る。エルザ君にはフリードリヒという核地雷を処理して貰わなくてはならないのだから。数々の困難を切り抜けてふたりにはゴールインして貰わなければ、私に不幸が降りかかる。


 待てよ。フリードリヒは別に私が好きなわけでもないだろうし、無理にエルザ君をフリードリヒにくっつけなくともいいのでは。フリードリヒは他国の皇室の皇女なんかと結婚して外交的に働くのではなかろうか。


 う、うーん。ゲームの筋書きではエルザ君はフリードリヒのことを好ましく思うのだが、それもまた最近現実味を帯びてきた物語の修正力のおかげでくっつくことになるのかもしれない。


 物語の修正力……。本当にそんなものがあるのだろうか。アドルフとシルヴィオのイベントは確かに起きたが、これから先に向かうとどうなるのか。


 私は悪役令嬢になるつもりなど毛頭もないが、物語の修正力で強制的に悪役令嬢に仕立て上げらるのかもしれない。不安だ……。


『マスター。対象Eが教師に接触しました。マスターがよく話している方です』


「何っ!?」


 ま、まさかベルンハルト先生が!?


 そんなまさか。ベルンハルト先生のルートは隠しルートで、そう簡単にはルートに入らないはずなのだが……。というか、手当たり次第だな、エルザ君! 流石の私ももう呆れてきたよ!


「ああ。エルザ嬢。学園の生活には馴染めたか?」


「はい。フリードリヒ殿下やアストリッド様によくしていただいていて、想像していたよりも楽しい学園生活が送れています」


「そうか。それはよかった。ふたりに感謝するんだぞ」


 ベルンハルト先生ルートに入るには、知力と魔術をある程度上げてベルンハルト先生に好印象を抱いて貰わなくてはならない。それから先生の仕事の手伝いを続けて、好感度がある程度上がると、ベルンハルト先生がそっけなくなる。


 それはエルザ嬢を贔屓していると思われるのを避けるためのものだが、また教師という身分で学生に手を出すのを躊躇っていると判明する。


 エ、エルザ君にはフリードリヒを攻略して貰いたいのに……。


「アストリッド嬢はお前の味方だからな。何かあったら俺か彼女に言え。できれば、俺の方に頼む。アストリッド嬢も学生だ。無茶はさせたくはない」


 ああ。私のことを考えてくれるベルンハルト先生は大人だなー。


「はい。クラスの方たちからもアストリッド様のような貴族の方々を下手に刺激しないようにと言われています。アストリッド様は公爵家令嬢なので、私のような平民がお付き合いするのは間違っているのですよね……」


 エルザ君は内心でちゃんと考えてたのか。けど、考えるだけじゃなくて実行に移して貰いたくもあったけどな。おかげで私は最近貴族の子息子女から、不穏な目つきで見られているのだ。


「本当に苛められたりはしてないか?」


「ええ。大丈夫です。元気に過ごせています!」


 まあ、エルザ君がヒロインだから、誰かとゴールインするはずである。誰も攻略できなかったバッドエンドもあるけれど、エルザ君ならば大丈夫だろう。彼女は既にフリードリヒとかなり親しくなっている。


「ふむ。これもアストリッド嬢のおかげか。彼女がお前の後ろ盾のようなものだからな。だが、あまり頼りすぎるなよ。彼女も学生だ」


「分かりました……」


 まだだ。まだ大丈夫だ。エルザ君もちゃんと考えているし、アドルフもシルヴィオも浮気はしかけたが、まだ心はミーネ君とロッテ君にあるからな。


「いざという時は俺がどうにかする。それが教師の務めって奴だ」


「はい、ベルンハルト先生!」


 ああ。エルザ君にも優しくするなんて。私の中の嫉妬の心が燃え盛っていますよ。


「じゃあな。いろいろと用心しろよ。アドルフやシルヴィオは高貴な家系の身で、お前に対する接し方が優しくとも、平民が大貴族にちやほやされていると、それこそいじめに繋がるからな」


「ちやほや……」


 エルザ君的には私とフリードリヒには面倒を見て貰っているが、ちやほやされているという自覚がないのだろうか。いや、実際にちやほやはしてないしな。ただ勉強を見てあげているだけだから。


 ……世間一般ではそれをちやほやというのではないだろうか。


 まあ、とりあえずエルザ君はちょっと自己防衛について学んでおいた方がいいと思うよ。割と本気で。


…………………

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