表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/181

悪役令嬢と国際情勢

…………………


 ──悪役令嬢と国際情勢



 鉄と炎の時代は近い。


 かねてから言われていたことだが、いよいよ現実味を帯び始めている。


 オストライヒ帝国がメリャリア帝国に接近しつつあるということが報じられてから、プルーセン帝国はシレジア問題を度々祖国の歴史的領土と主張するようになり始めている。明らかな戦争への動きだ。


 このままでいくとプルーセン帝国は二正面作戦を戦うことになるのだが、ゲームではここで皇子であるフリードリヒが民衆の支持を得て、傭兵団と民兵隊を率いて逆転するらしい。アドルフもそれに加わり、エルザ君も友好度に応じてどちらかに参加する。


 まあ、エルザ君がやるのは傷病者の手当てだけどね。


 しかし、あのフリードリヒに傭兵団と民兵隊を指揮するような能力があるか?


 軍事史はそれなりに学んでいるようだが、だからと言ってこのなよなよが軍隊を指揮できるとは思えない。それに学生風情に率いられた軍隊が、正規の教育を受けた軍人を倒せるとも思い難い。


「うーん。やはり、ここは私が出るべきなのかなー」


 私の火力があれば、オストライヒ帝国だろうとメリャリア帝国だろうと一撃で屠り去ってくれるのだが。いや、一撃は無理か。


 一撃は無理でも私の攻撃の速射性は上がっているし、それなり以上に火力を増強させる術についても取得済みだ。


 問題は私を戦場に行かせてくれるかだ。


 お父様とお母様は間違いなく反対するだろう。ミーネ君たちも反対だ。


 だが、私は戦場に行きたい! 帝国内戦に備えて、実弾射撃演習と行きたい!


 さて、これはどうしたものか。


「アストリッド様。お聞きになれましたか?」


「へ? 何を?」


 私がぼけーっとした表情でぼんやりとそんなことを考えていたとき、ロッテ君が慌てた様子で話しかけてきた。


「鉄と炎の時代ですよ。皇帝陛下は国民皆兵をモットーに学園の学生も、戦場に動員するかもしれないそうですよ」


「おおっ! 本当に!?」


「なんで嬉しそうなんですか、アストリッド様……」


 いや、嬉しいじゃん。合法的に人が殺せる環境だよ。私の第3種戦闘適合化措置が実戦に耐えられるものなのか。試してみたくあるのだ。


 ……いや、我ながらサイコパス染みているな。


「いやいや。私にも愛国心があるからね。祖国のお役に立ちたいなーって」


「そうですか! 流石はアストリッド様です! やはりフリードリヒ殿下への愛なのですね!」


「なんでそうなるかなー……」


 もう否定するも疲れてきた。


「まあ、戦争はまだ先だからご安心だよ、ロッテ」


「そうなのですか?」


 戦争イベントが起きるのは高等部2年の夏休みだ。


「さて、私たちは勉学に励みますか! ロッテ、一緒に勉強しない?」


「えっ? よろしいのですか?」


 いいんだよ、いいんだよ。


 これは道連れを増やすためのものだからね……。


…………………


…………………


 そして、放課後。


 私たちはロッテ君と共に図書館にやってきた。


 ……エルザ君とフリードリヒと一緒に。


「ア、アストリッド様。これはいったいどういう……?」


「見たまんまだよ……。フリードリヒ殿下と一緒に勉強会をやることになってるの」


 最初はミーネ君を誘ったのだが、彼女は危険予知によって、ささっと逃げた。なのでロッテ君を誘ったのだった。


 さあ、ようこそ、地獄へ。


「それでエルザ嬢分からないという部分は他にありますか?」


「ブラッドマジックを学園式に覚えておきたいです。一応、ブラッドマジックは得意なのですが、私の受けた教育は元宮廷魔術師長のおじいちゃんから受けただけです」


 フリードリヒが問いかけ、エルザ君が答える。


 いいね、いいね。このまま好感度をどんどん上げていきな、フリードリヒ。


「アストリッド様。これはいくら何でも不敬です。平民風情にフリードリヒ殿下の貴重なお時間を消費させるなど!」


「またまた。そんなことを言わない。あのエルザ君はフリードリヒ殿下と礼節を持って接しているのだからね」


 うん。エルザ君の仕草は非のうちどころがない。


「フリードリヒ殿下。この術式を試してみていいですか?」


「ええ。どうぞ。今防壁を解きますね」


「では」


 エルザ君がおもむろにフリードリヒの手を握ると、ブラッドマジックを行使した。


「へっくしゅ!」


 次の瞬間、フリードリヒがくしゃみを……。


「わあ! 本当にくしゃみをさせるブラッドマジックってあるんですね。何に使うんでしょうか?」


「そうですね。相手の防壁の有無を確認する際などに使用するはずです」


 感心したようなエルザ君と説明するフリードリヒ。


「アストリッド様。これは不敬では……」


「い、いや、殿下もかけていいよって言ってたから大丈夫だよ!」


 エルザ君! そんなブラッドマジックを試すなら私にして!


「エルザ嬢はどのようなブラッドマジックが得意なのですか?」


「治癒のブラッドマジックは得意です。むしろそれぐらいしか能がないというか……」


 エルザ君の治癒のブラッドマジックはゲーム中最強だったな。何せ、フリードリヒが心臓に矢を受けたときに治癒しちまったんだから。フリードリヒはゾンビか何かに生まれ変わったんじゃないだろうかと思ったよ。


「いやいや。エルザ君はいろんな才能があると思うな! じゃないと、学園が奨学金まで出してエルザ君を入学させた意味が分からないし!」


「そうでしょうか?」


 そうなんだよ!


「魔力測定の結果はかなり高かったんでしょう?」


「ええ。一応は。確か450MPです」


「450MP!」


 エルザ君が告げた言葉にロッテ君が驚く。


 そりゃそうだろう。魔力がある人の平均的な魔力量は100MPぐらいだ。200MPもあればかなり高い魔力を持っていると言われるぐらいである。


 ちなみにフリードリヒが300MPで私が500MPだ。フフン、勝ったな。


「日ごろから魔術使ってると魔力量は上がるらしいし、エルザ君も頑張ってきたんだと思うよ、私は」


「その、治癒の魔術はよく使うのですが、それ以外の魔術は先生に魔術を教わるときにしか使っていませんので……」


「いやあ。エルザ君は努力家だな!」


 ロッテ君にいい印象を持って欲しいんだよ! 努力家って設定に乗ってよ!


「しかし、このような初歩的な本を使って勉強しているなど、やはり平民の転入生というのは……」


「エルザ君は学習速度が速いからあっという間に追いつくさ!」


 本当にエルザ君は学習速度が速い。基礎的なエレメンタルマジックはあっという間に覚えてしまったし、ブラッドマジックは基本的なことはマスターしている。後は応用を学べば完璧だ。


「しかし、エルザ君も大変だね。学園の今の勉強を追いかけて、それでいて私たちが初等部と中等部で習ったことを覚えなきゃいけないだなんて。やっぱりエルザ君は頑張り屋さんだな!」


「そうですね。大変です。本当に追いつけるのかどうか……」


 大丈夫だ、エルザ君。そのためのフリードリヒだからな。


 これでフリードリヒルートに入りつつあるだろうが、一応アドルフとシルヴィオの遭遇イベントも起きるはずだ。そこでアドルフたちが浮気しないといいんだけどなー。あいつら信用ならないからなー。


「ところで、アストリッド。戦争が近いことは知っていますか? 鉄と炎の時代が近づいているということを」


「まあ、噂程度には」


 フリードリヒがそう告げるのに、私はそう返しておく。


「学生が動員されるかもしれないという話も知っていますか?」


「ええ。そうなるかもしれないと。でも、皇帝陛下も流石に学生に頼るほど戦争に不安を持っていらっしゃるとは思えませんが」


 まーなー。学生動員って相当末期に来てる状態でやるものだし。あるいは戦意発揚のためのものか。戦意発揚は意外とありそうだな。だが、貴族たちの軍隊を動員するのに貴族の子息子女を動員するのはどんなもんなんだろうか?


「それが意外と具体的に進んでいるようなのです。帝国は魔術師不足で、少しでも戦力が得られるならなりふり構わないと。高等部の学生を中心に動員して、戦場に投入するという話があるようです」


「それはまた」


 高等部を中心にか。私は戦場に行けるかな?


 いや、戦場で実弾射撃演習──もとい実戦を楽しみたいとは思うが、死ぬかもしれないぞ? 戦場で戦死してバッドエンドとかあまりに笑えないオチだからな。


「このようなことが正しいでしょうか。学生を戦場に送るなど。いくら魔術師が足りないからと言って、学園の学生を動員するなどおかしいのではないでしょうか。魔術師が足りないというならば、戦争を避けるべきでしょう」


 はあー。これだからお花畑は。


 戦争は自分たちが避けようと思っても、不意を突いて襲い掛かってくるものなのだ。もし、戦争を起こしたくなければ軍事力を強化して威嚇するか、同盟国を作って包囲するかするしかないだろう。


 オストライヒ帝国がシレジア問題で戦争を仕掛けてくるなら、メリャリア帝国との同盟を切り崩すか、西の隣国であるフランク王国を同盟国に引きずり込むしか無かろうさ。


 私は不安定な同盟国より、軍備増強の方がいいけどな。フランク王国とも領土問題がないわけじゃないし、メリャリア帝国との間には女帝エカチェリーナ1世を帝国の後継者と認めなかった過去があるし。


 税金絞って軍備増強して、オストライヒ帝国に対抗しよう!


 まあ、どうせ戦争になるのはゲームの筋書き通りなんでしょうけど。


「戦争は避けようと思って避けられるものではありません、殿下。向こうが戦争をするつもりならば、戦争は起きるのです。そう、火事が起きた家屋の隣の家屋が何もしなければ焼けてしまうように」


「ですが……」


 ですが、じゃないよ。ちょっとはお父さんのガッツを分けて貰ったらどうだね。


「戦争が起きるのですか、アストリッド様?」


「向こうがやる気なら、ね。帝国は譲歩はできないはずだよ。シレジアを渡せば、次はどこを渡せと要求されるか分からないんだから」


 まあ、戦争は各国の面子のかかった争いですからね。


 弱腰の姿勢を見せれば、周辺全てから食い物にされるってもんさ。


「あの、その動員って私とかも対象になるんでしょうか?」


「高等部が中心ならなるかも」


 エルザ君は戦争に行ったっけ? ああ。行ってたな。


 戦場でもロマンスするんだから君は凄い女だよ、エルザ君!


「だったら、治癒のブラッドマジックをより一層使えるようにしておきたいです。そうすれば怪我をした人たちを助けてあげられますから」


 うんうん。エルザ君は前向きだな。どこぞのビビり皇子と違って。


「私は誰にも戦って欲しくはないですね。皇族が戦うならともかくとして……」


 このお花畑はどうにもならんな。枯葉剤でも撒くか。


「私は招集があれば応じますよ。貴族の務めですから」


 そして、圧倒的火力で敵地を焦土にしてくれよう!


「そうですか……。アストリッド、あなたは強いですね」


 お前が弱いだけだと思う。


…………………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「西海岸の犬ども ~テンプレ失敗から始まるマフィアとの生活~」 応援よろしくおねがいします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ